第16話「教主」
フュミラ――教会が有名というか、教会しかないというか。街に来てみたはいいが何にもない。寂れているとまではいかないまでも、活気というか覇気がない。
「本当にここは街なのかい」
教会が原因なのかも。あんなに教会だけはご立派だ。白い外壁が眩しくて仕方ない。
「噂とは随分違う街並みですね。街行く人がいなければ、お店も静かです」
「とにかく、街の人に事情を訊こうよ」
ユキの言う通りだな。現地の人間ならば、いろいろ知っているに違いないもん。
「――分かりました。ご協力感謝いたします」
流石はリンさん。あっという間に数人から話を訊いてきたぜ。できるメイドは違うなあ。
「で、何だって?」
「簡潔に申し上げます。この街フュミラは、ものの3ヶ月で現状の有り様になってしまったとのこと。原因は教会のようです」
「やっぱりか。きな臭いとは思っていたけどな」
「新しく教会に就いた教主が元凶らしいのです。街の住民から強引に金品を巻き上げているようで。それと、教会に来る人も減ってしまったようです」
「巻き上げって……教会だからって許されるのか?」
「いえ。レイダスでは信教は自由です。ですので特定の宗教を崇拝しているわけでないのでしたら、それに従う必要はいっさいありません」
「原因は分かった。そんじゃ、その原因を叩くとするかねえ」
暴れてやろう、そうしよう。
「一度王様に相談した方がいいんじゃない……?」
「その時間がもったいない。ボクは速攻叩きたい」
「……分かったよ。わたしとリンさんで王様に事情を話してくる。無茶はしちゃ駄目だからね」
「へいへーい」
連続殺人にも関係しているのかもしれない。1分1秒だって隙を与えちゃならないんだ。いざ突入!
「教主いるかーい! 新しい金づるが来てやったぞー!」
中はまさに教会だ。ステンドグラスとか。ボクには無縁の場所だねえ。
「おやおや。ティル教に興味が?」
来た来た来た。いかにも教主的なやつが。小脇に抱え込んでいるのは聖書みたいなやつか? 胡散臭さプンプンだぜ。
「正直興味ないんだ。宗教っつうものに。ただ、あまりにも教会が綺麗なもんで」
「お目が高いですな。ティル教を広めるために頑張っているのです」
「頑張っているのはフュミラの人たち、だろう」
「……何をおっしゃって」
「ティル教なんて本当にあるのかねえ?」
「これはこれは。まだまだティル教が浸透していないという表れのようだ。非常に残念」
「今のフュミラはおかしいぞ。アンタが来てからおかしくなった」
「言いがかりです」
「フュミラに来る人がめっきり減った。教会に来る人が減ったからだ。中身がティル教なんてものになってしまったからだ!」
「……まったく。面倒な人が現れたようだ」
空気が変わった。とうとう本性をみせるつもりだな。
「この教会の前任者はどこ?」
「……殺した」
「誰が殺した!」
「……この私だ!」
これで確定した。ティル教なんて嘘っぱち。街の人を殺したのもこいつだ!
ちっ……! なんて素早い攻撃なんだ。ボクがあっという間に間合いを詰められちゃったぞ。
「アンタ……普通じゃないな」
「当たり前だ。この国を変えるのだから!」
レイダスを変える……だと?
「街1つ変えられないやつが偉そうに」
「変えてみせた。この3ヶ月で様変わりしただろう」
「ふざけるな! こんなの変化なんかじゃない!」
人を殺して、苦しめて……そんな変化は要らない。
「この国には人間が多すぎる。そうは思わないか?」
「はあ?」
「争いは人間が始まりだ。多いゆえに軋轢や憎悪が生まれる。ならば……減らせばいい」
「身勝手な解釈だな。多かろうと少なかろうと争いってのは起きちゃうもんだ。アンタの考えは極端すぎる」
「平和を願うばかりよりはマシだろう。1人でも減った方がいいに決まっている」
「それが極端だってんだ! クソ教主!」
ああもう限界だ。さっさと懲らしめてやる!




