ふたつめの秘密「神造蔵庫」
サガミ・ハリマが経営する店「フジニシキ」が、光都では手に入らないはずのミソ・ショーユを扱えているのには理由がある。
彼は世界を救ったほうびとして、神々からあるアイテムを受け取った。
「神造蔵庫」という名の青い機械の箱のようなアイテムは、サガミが欲しいものを造って提供してくれる。
このアイテムによってサガミはショーユやミソといった、この世界には存在していないはずの品物を自由に手に入れることができるのだ。
ただし、このアイテムを維持するためにはとにかく金がかかる。
(この世界にないものを持ち込んでいる、ペナルティーのようなものかな)
とサガミは解釈していた。
彼は異世界人であり、彼が故郷の料理や文化をこちらでもやろうとすること自体は止めなかったが、積極的に広めさせるつもりもないのだろう。
サガミの店が大赤字を出す理由の最大の理由がこのゴッドファクトリーであった。
(とは言え、諦めたくないな)
彼は青い機体をながめながら思う。
「店主」
そこへ背後からシプラが声をかける。
ここは店の地下だし、彼女だけはこのアイテムの存在を知っていたし、地下の合い鍵も持っていた。
だから入って来てもおかしくはないのだが、珍しかったために彼はふり向いて問いを投げる。
「どうかしたか?」
「いえ、お姿が見えなかったので、おそらくこちらだろうと」
彼女は心配そうな目を彼に向けた。
「落ち込んでいらっしゃいますか?」
「何、素人がいきなり上手くいくわけがないという覚悟はしていた。初心を思い出していただけだよ」
だから心配はいらないとサガミは笑う。
それですぐに安心するほどシプラは単純ではないが、ひとまずは笑顔が戻った。
「さあ、戻ろう。開店準備をしなければならない」
「はい、店主」
サガミの声にシプラは従順に答える。
彼女を先に出し、自分も出てからサガミは地下の黒い扉に鍵をかけた。
神のアイテムだけに持ち出すのも傷つけるのもまず不可能である。
サガミがやっているのは人目を忍ぶという意味合いが強かった。