製作 その1
朝は気分が悪い・・・。低血圧のせいでいつも朝はこんな感じだ。
いつものように気だるげに朝食を食べ、いつものように気だるげに支度し、気だるげに家を出る。
「オッス、おはざーっす。」
中学の時から使ってるいつもの道で孝俊と出会う。
「おはよう、相変わらず朝強いなお前。」
「そうかねぇ・・・。そちらは相変わらずの低血圧のようで。おっと。」
今回はそこじゃねぇ。と、後ろを確認させる孝俊、そこには。
「あ、世弥君、おはよー。」
にっこりと笑う菜花。それだけでこの気だるさが治まってくる気がした。
「おはよう菜花。」
俺は自然とにっこりと笑顔を浮かべる
「えへへぇ、あ、そうだ!昨日考えたんだけどね。」
「ん?何が?」
孝俊が菜花に聞き返す。
「クラブのことだよ!でね、どんなクラブにするかなんだけどね。」
「『文化部』なんてどうかな?」
「「文化部?」」
俺と孝俊が同時に聞き返す。
「それってどんなことするの?」
そう言うと菜花はニヤッとした。
「ふふふ・・・。それはね。」
「まぁぁぁぁったく考えてない!!」
少し声が木霊した。俺たちは菜花に唖然とする。
「えぇっと・・・菜花さん?」
孝俊が動揺しながらも聞いた。
「それは・・・どうなんでしょうね・・・?」
「だってさ!活動内容決めちゃったらさ、それに”縛られ”ちゃうじゃん。それってなんか違うと思うんだよ。」
「だったらさ!何も決めずに”何してもいい”部活ってのを作った方が、絶対楽しいじゃん!」
はっとした、この娘天才だわ。
「確かに・・・菜花ちゃん頭いいな!天才かよ!」
少し興奮気味の孝俊が賛同する。
「あぁ、そんなことお考えもしなかった。大手柄だな、菜花。」
二人に褒められて、ニコニコしている菜花。
「・・・っと、そろそろ行こう。学校に遅れるのは嫌だからな。」
腕時計をみると、立話に10分程度かかっている。もう走らないと間に合いそうにない時間になっていた。孝俊も自分のを見て確認する。
「おわっ!こりゃやばい!急ぐぜ二人とも!」
そうして、三人は学校へと駆けていった。
「ふぅぅぅっ・・・何とか間に合ったな。」
息を切らし方で息をしながら話しかける孝俊。なんとかギリギリ遅刻せずに間に合った。
「あぁ・・・、こんなに走ったのは、中学以来だ・・・。」
「結構距離あったね・・・。朝からおつかれだー・・・。」
俺と孝俊は自分の席に着くや否や机に突っ伏し、菜花はハンカチで汗を拭っている。
そこに、タイミング良く新波先生が入ってくる。
「はーい、みんなおはよう。」
そして、再びあの地獄の自己紹介が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・終わった。」
ぐだぁっと机に突っ伏した。
「・・・、世弥君大丈夫?」
菜花が心配そうに聞いてくる。
「あぁ・・・。多分明日明後日ぐらいには自己紹介が終わる。」
「自己紹介って・・・。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、こいつは中学でも1~3日間はこんな感じだったからな。」
「小学生の時は違ったんだがなぁ・・・。」
「まぁいいじゃないか、俺にだって弱点はあるんだよ。」
そんなことより!っと話を横にそらす。
「クラブ活動の件についてなんだが。」
「あ?活動が決まったんだから、もう決まったも同然だろ?」
「馬鹿かお前。最低でも6人は必要だって聞いてなかったのか。」
「うーん・・・昨日放課後お友達に聞いてみたんだけど、中学に引き続き同じのをやるって人や、高校始まる前から決めちゃってるって人が大半だったよ。」
「マジかぁ・・・。男子の方はまだわかんねぇな・・・。」
「よし、孝俊、聞いてこい。」
「えっ。」
「また俺ぇ?・・・しょーがねぇなぁ。」
「えぇっ!?」
菜花が困惑しながら二人に目を向ける中、孝俊は辺りにいる複数のグループに話し掛ける。しばらくして。
「だーめだわ、ほっとんどが運動するってさ。」
「だろうな、明らか体育会系だからな。」
「このクラスじゃキツイかもな。」
「えっ、さっきの無茶ぶりはそのままスルーなの?」
菜花が先程の困惑を残したまま聞いてきた。
「いつものこと過ぎて文句すら出てこないぜ。」
「さっき小言は垂れてたがな。」
「へへっご愛嬌ご愛嬌。」
厭味ったらしくいう俺に、肩をポンポン叩く孝俊。
「んー・・・でも、このクラスから無理ってなると、どうしちゃおうねぇ。」
「他クラスに行く必要があるのか・・・。」
面倒な・・・。と思いながらこの後の事を思案する。すると、
「菜花ー!そろそろ行こー?」
「あ、はーい。」
教室の扉の前から声がする。
「昨日仲良くなったこと遊びに行くんだぁ。」
嬉しそうに笑う菜花。
「ん、わかった、じゃぁ今日はお疲れ様。」
「うん、世弥君、孝俊君、じゃぁね。」
「おう!また明日。」
「明日な。」
言い終わると
足早に去っていく菜花。その影が見えなくなるまで見送った。
「じゃあ俺は、少し図書館に行ってくるぞ。」
「お、いきなりだねぇ。」
「そうか?本はいいぞ本は。自分の知識が広がっていくのがわかるからな。」
「あー・・・そういうのは勘弁。」
そういいながら手で耳を覆い隠す孝俊。
「そういう哲学者みたいな発言は背中がかゆくなるからやめろ!」
「ははは、ハイハイ。んで?お前はついていくか?」
「あー・・・。暇だしついていくかね。」
「はいよ。」
そういいつつ。席を立つ。
「そういえば。」
ふっと気づいたことに手を止めた俺。
「図書館ってどこにあるんだ?」
「おいおい・・・場所知らないのに行こうとしてたのかお前・・・。」
「案内、頼めるか?」
「はぁ・・・、はいよ。一応この学校の構造は覚えたつもりだしな。」
ため息をこぼした後、孝俊は苦笑いを浮かべた。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ん、ここが図書館。」
他愛無い話をしながら歩いていたら、いつの間にか図書館に着いていた。
「意外と遠かったな。」
「まぁ俺達の教室は3階東棟だしな。こっちは西棟。」
「毎日通うには少々骨が折れるな・・・。」
「そんなに動いてねぇだろうが・・・。」
孝俊が言い終わる前に扉を開ける。
中に入ってもだれもいない。
「あれ?図書当番、司書の先生はいないのか?」
不思議そうに孝俊が声を上げる。
「まぁ、隣の司書室にでもいるんじゃないか?借りるときにでも呼んでくればいいさ。」
そう言いつつ本を探そうと思った矢先。後ろから声が聞こえた。
「いえいえ、ちゃんと図書当番さんがいますよー。」
声が聞こえてぱっと振り返る、しかし俺の目線には誰も映らない。
「ここですよぉ。」
再び声を掛けられて気づいた。足のほうに目線をやると一人の少女が見えた。
顔が俺の腰辺りという低身長、しかし髪の毛はとても長く、頭のてっぺん辺りで縛っている髪を下せば確実に床に付くだろう。
顔も童顔で目が大きい、おまけに声も幼い、ほんとに高校生か?と感じるほどである。
「「・・・・・・。」」
俺と孝俊が怪訝な面持ちで彼女を見る。すると彼女はふくれっ面になり。
「むー・・・考えてることが見て取れますぅ。」
こほん、とわざとらしい咳払いをして。
「私は、暁月雛乃って言いますぅ。これでも2年生なんですよぉ?」
「先輩・・・!?なんすか。」
動揺を隠しきれない声色で話し掛ける。
「そうですよぉ。年上なのですよぉ。」
「とても、そうには見えませんけどね。」
ぬっと。扉の方から声が聞こえた。
「あー!また潤ちゃんはそういうこと言うー!!」
扉の方を向けば、長身で黒髪ストレート、きりっとした目を見れば気が強さが見て取れる。きゅっと噤まれた口がさらにそれを強く思わせる。
「えっと・・・。あなたは?」
俺がそう尋ねると、気の強そうな彼女が深々と頭を下げる。
「名乗るのが遅くて申し訳ありません。初めまして。私、日輪潤と申します。そこの小さい子と同じ2年です。そこの小さい子の付き添いというか・・・まぁ、昔馴染み、というやつです。」
「むぅー・・・。潤ちゃんはいつも私に厳しいんだからぁ。」
「当たり前です。あなたは一人で行動しすぎる。この前だって・・・。」
「あーあー!!聞こえなぁい聞こえなぁい!!」
小さい手で精一杯耳を塞ぎ、聞こえないふりをする雛乃。
「子供か・・・。」
俺がぼそっとそう呟くと潤が申し訳なさそうな顔で頭を横に振った。
「その通りですね。ほら、雛乃さん、この人達・・・。そういえば、名前を聞き忘れてました。」
「あ、俺が三崎世弥です。こっちが、尾浦孝俊。」
言い終わると孝俊がどうもッす。と挨拶をする。
「世弥さん、孝俊さんですね、覚えました。」
それで、と言いながら雛乃の方を向く潤。
「雛乃さん、世弥さん方は本を借りに来たんですよ、ほら、仕事仕事。」
「ふぇっ?何の仕事?」
「何って、図書委員の当番ですよ。あなたと私は今日当番ですよ。」
「おぉそうだったそうだった、ナイス潤ちゃん!」
「全く、自分の委員の仕事くらいはちゃんと覚えましょうね。」
「あー!!またそうやって潤ちゃんは私を子供扱いするぅ!!」
・・・今日の放課後はずいぶん騒がしかった。