始まり その3
俺達が教室の席についたちょうど、チャイムが鳴り響いた。クラスではもうみんなが待っていた。
「そこのお二人さん、大丈夫?もしかして迷ってた?」
担任らしき女性が声をかけてくる。
どうやら見た目的に若い先生のようだ。ハデハデしい格好を好みそうではない、おとなしそうな先生である。
すみません、大丈夫です。とだけ言い、いそいそと席に座る俺達。何たる偶然か、俺達はちょうど隣同士の席だった。隆俊は少し後ろのほうでムスッとしている。
「はい、ではみんなが集まったところでHRを始めたいと思います。」
担任の女性がパンっと手を叩き話し始める
「まず、この私立柳桜高校にご入学、おめでとうございます!私は新波那古皆さん、那古先生ってお呼びください。今日から一年間、張り切って行きましょう!」
「んー…ではまず自己紹介から!赤城くんからどんどん言ってってー…。」
自己紹介が始まり、みんな各々の個人情報を言っていく。
「―――中学出身、楠祐介ッス。好きなものはサッカー!もちろんサッカー部に入るつもりッス!やろしくお願いしまッス!」
「へぇ、祐介くんはサッカーをやってるのね。」
「はいッス!この学校はサッカー強いことで有名なので、ここに入学したッス!」
「ふふっレギュラーに入れるように頑張ってね!それじゃ、次のひと、どうぞー。」
自分の番になった。席を立つ。
「---中学出身、三崎世弥です。好きなものも嫌いなものも特にありません。強いて言えば勉強が少しできるぐらいです。これかお願いします。」
「ええっと…。」
思ってた通りの反応が返ってきた。
「うーん…勉強が出来るって、どれぐらいかな?」
「そうですね、後期試験の結果は全教科満点でした。」
「満点!?」
ざわざわ、と辺りがざわめき始める。
「そういう事で、よろしくお願いします。」
ニコッと微笑み席に座る。
「はぁー…凄い人がこのクラスに来たわねぇ…。はい、じゃあ次!」
ざわめきが静まらぬまま、自己紹介は続いていった。
「ん、じゃあオシマイかな?それじゃ、あと HRの時間は好きにしていいよー。ただし、教室の外には出ないことー。」
その言葉と一緒に皆一斉に動き出す。同学校での好みでつるむ者、同じクラブ活動を共にする者などでクラス内は賑わいだした。
「三崎くんは何のクラブに入るの?」
隣から菜花が話しかけてくる。
「決めてないな…菜花は何にするんだ?」
「実は私も決めてないんだよねー…。」
「俺も決めてないんだよねぇー!」
いきなり隣から声がした。隣にはいつの間にか隆俊がいる。
「驚かせるのはやめろ!」
「ははっ、ワリィワリィ、んでさ、クラブ活動の話しなんだけど。」
うーん…。と唸り始める隆俊。
「どれもこれもぱっとしないっつーか…俺のハートに来るものがないんだよねぇ…。」
「ははっ、お前それ、3年前にも聞いたぞ。」
「あー、たしかに言った気がする。そいえば須田さんは中学で何やってたの?」
「名前で読んでいいよー。私も隆俊くんって呼びたいから。」
「そう?じゃあ菜花ちゃん、コイツも名前で読んでいいんだよ?」
うりうりー、と俺の頬を指でつつく。
「名前で読ばれるのは歓迎するがその手はやめろ!」
「…えっ!?」
ガシッと掴んで指を逆の方向に曲げる。
「イタタタタ!痛い!痛いって!」
指を曲げながら菜花の顔を見る。
その時俺は、天使を見た。
頬を少し赤らめ、口はパクパクと何かを言いたそうにしている。目はこちらを見ないように泳ぎ、手をガッツポーズのように固めている。
ごちそうさまです。と言いたくなったがぐっと堪えた。
「どうした?菜花」
隆俊の指を離し、菜花の方を向く。
ビクッと肩を揺らす菜花。
あう、あうと口を動かしながら顔を赤らめ始める。
「えへへ…何でもないよ世弥くん。」
「………ごちそうさまです。」
!?思わず口から変な言葉が出てしまった。
反省しなければ。
「ちょいちょい、そこの三人がた。」
気がつくと担任の新波がすぐ近くにいた。この学校では忍び歩きが流行ってるのか?
「今入りたいクラブがないのよね?」
「まぁー、そう言えなくもないです!」
「いや、そうとしか言えんだろ。アホかお前。」
「おっと世弥、口が悪いなぁ…彼女さんの前でそれは良いのかなぁぁ!?」
…もう一度指を逆に曲げてやろう。
「それで、先生。それがなんでしょうか?」
再び先生のほうを向く。後ろでは隆俊の絶叫がする。
「あ…んとね。一つの方法?可能性?かな、を紹介したいんだけど…。」
「はい。」
「とりあえず、後ろの隆俊くん黙らせようか。」
ニッコリとなかなか酷い言い方をする新波に親近感を覚えた。この人はもう隆俊の扱いをマスターしたようだ。
「ちょっ!センセっ!その言い方ひどくないっスか!?」
「まぁ黙ってろよ、これから先生が話すんだから。」
「納得いかねぇ!…けど、その可能性って何なんスか?」
「ふふふ…ソレはねぇ。」
自分たちで作っちゃえばいいのよ!!