2.神様
そこは、目を開けているつもりでも、全く何も見えない真っ暗な空間だった。
自分が上を向いているのか、下を向いているのか、立っているのか座っているのかさえわからない。
『お~い、生きてるかい?』
「……その声は神様?」
『そうそう。久しぶりだね?元気そうで…と言いたいところだけど、相変わらず無茶したねぇ』
呆れを含んだ声が聴こえるけれど、やっぱり目に見えるのは真っ暗なまま。
ここは以前、神様から頼まれごとをした空間と同じ場所っぽい。
「神様、七海は?」
『彼女は無事だよ~。見えないし、感じないだろうけど、君の横にいる』
「そうですか。無事ならそれでいいです」
『そうか。それよりも君に説明しておかないとダメなことがいくつかあるんだ。まず、君が干渉したあの召還魔法だけど、あれは一人用だったみたいでね。君が割り込んだ影響でものすごく不安定になっていたんだよ』
「あらら…。そんなしょうもない魔法だったんですか、あれ」
『うん。で、一人用の耐久性しかない魔法が、君を不純物だと判断して、そぎ落とそうしてたんだよ。君も防御魔法かけてたんだけど、召還魔法陣の中だ、思った通りの硬度がなくてね、僕が気づいた時にはちょっとしたスプラッタな状況だったわけ』
「スプラッタって……」
『あ!心配しないで!とりあえず、気づいてすぐにこっちの空間にひっぱって、集めれるだけ集めて繋ぎ合わせたから君の体はとりあえず無事だから』
「………なんかすっごい気になるワードがいろいろあって、どっから突っ込んでいいか難しいです」
『あはは!だよねぇ!ま、君が死んでないのは間違いないから安心して。で、こっから重要だよ。まず、スプラッタな君の体をいろいろ集めて復元してみたけれど、元の人間の形に治すまではできなかったんだよね。だからとりあえず、できる範囲で修復して今の君は黒猫になってるよ』
「は!?」
『後ね、二度と人間に戻れないわけじゃないから心配しないで。君は最上級の回復魔法が使えるだろう?それを使えば人間に戻ることが可能だから。今の体はとりあえずの体だと思えばいいよ。何せ急を要したから君の体を繋ぎ合わせて魂を定着させるのが限界だったんだ』
「……はぁ」
『ただね、問題がある。黒猫の体と君の魂がまだちゃんと定着してないんだよね。元は君の体の一部だからすぐに定着すると思うんだけど、それまでは君がかつて使えてた魔法とかもある程度使用制限がかかってると思うから、魔法を使う時には注意してね。体の中も結構ぐちゃぐちゃでねー常時自動回復の魔力が働いているだろうから、ほんと魔力が回復するにはかなりの時間がかかると思って』
「……ほんとにやばかったんですね、私」
『やばかったとかのレベルじゃなかったよ。ほんと、なんでこれで生きてるんだろうって僕不思議で仕方なかったんだから』
「………」
『一応、僕の世界を救ってくれた子だ。僕もたくさん感謝してる。だから、僕にできる精一杯やってみた』
「ありがとう、神様」
『ふふふ。どういたしまして。とりあえず、目覚めてくれてよかった。さて、そろそろ時間だね。君のお友達を召還した魔方陣の魔法は崩れちゃったから、僕が君達を送る場所は、今の君の体が魔力をもって維持できてる関係上、どうしても僕の世界になる。以前君を送った場所と同じところになるよ。それと、あの世界は君が君の世界に帰った時から5年の月日が流れてる』
「…了解です」
『武器もアイテムも魔法に関しても全部、君は君のままで利用できる。ただし、魂と体が定着するまでは利用できないものも多々あるから十分に注意して』
「はい」
『うん。いい返事だ。じゃ、君の体が完全に治ってもう大丈夫だと思えた頃に迎えにくるよ。それまでどうか、元気で』
「ありがとう。神様」
『君の往く道に幸多からんことを』
真っ暗な闇の遠いところで淡く光る点が見えた瞬間、その光る点は徐々に大きく、そして、まぶしい光を発しながら一気に私の視界を光で埋め尽くした。
こうして、私は黒猫となって、二度目になる異世界への扉をくぐりぬけた。
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