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ナナシ番外編★きゅーてぃじう計画!?!?

作者: 七菜 かずは

ナナシ番外編★きゅーてぃじう計画!



名無し姫の秘め事~~

番外編




■出演

クロム・ロワーツ (名無し姫) ♀

・時代設定としては、ナナシ1よりも少し前、26歳くらい。

ヒロイン。昔、とある人物にクロム・ロワーツとあだ名づけられる。

日本名:黒凪くろなぎ ゆめ。女。弱い所もあるが、とにかく芯が強い。冷静に見えて、熱い心を持っている。

幼い頃(9才)は儚く、やや虚弱だったが。大人になってとてもしっかりした責任感の強い女性となる。

心を預けられる人間というのをどこか求めている。お姉さん。

基本的にしゃんとしているのだが、たまに見せる隙や余裕がとても女性らしく。少し色気を見せる。

数年前。とある男に無理やり、第三の地球と呼ばれる小惑星ケテラス・中央大陸アイゼルの宇宙民間船ナナシの船長をやらされていた経験がある。

現在は、数百年前に地震で沈んだ日本国の海底でメイド喫茶を運営しながら。滅びかけている地球の延命処置を施している。

黒髪長髪。仕事中はメイド服。仕事がある日は大体黒いパンツスーツで出勤する。


しぐれ ♀

・破滅的ブス。赤いくノ一の格好をしている。茶短髪。天パ。バカ。身長は低め。外見年齢は十代後半。

主人のキジがいつも乗っている宇宙船オディラッドのプロセッサコアを搭載している旧型モデルのインドランス(アンドロイドのようなもの)。芋っぽい。

純朴な可愛らしさがあるが、人にはあまりそれに気づいて貰えない。変にかしこまった喋り方をする。

クロム、ジョーカー、キジとは旧友だが、バカな為三人からは酷く舐められている。

正真正銘かなりバカなので、いつも周りの人間をイラつかせる。ドジで間抜け。声は凄く可愛い。

元々、クロムと同じようにケテラスの出身。昔、優秀な航海士として有名だったクロムに、かなり強い憧れを抱いている。











【開幕】






★シーン1★姫様の秘密を知りたいのでし!


 真っ黒い、宇宙。宇宙空間に、生身でふわふわと漂っているしぐれ。

 目を閉じていて。

 ゆっくり、くるん、逆さまになる。


しぐれ『神様。世界は不公平でございます。あの可愛らしく美しい姫様の、秘密を拙者、解いてみせましょう』


 ゆっくり、流れていく。

 目をそっと開け。

 降ってきた微量の隕石を蹴って、――地球へ。向かう。






 地球。地底。日本国。

 クロムが生活している、マンション。

 彼女が暮らす、その部屋。

 

 ジョーカーと通話しているクロム。

 友人に貰った、うさぎの抱き枕をぎゅっと抱きしめて。


クロム「はい、はい……。わかりました。それじゃあ。……おやすみなさい。っ……ふぅ」


 此方は朝だが、向こうは寝る時間らしく。時計の音が、チクタクチクタク。


クロム「……朝ごはん何にしようかな」


 クロムの部屋を訪れる、しぐれ。

 ノックして。


しぐれ「ごめんくだしゃいまし!」


クロム「? はぁい」


 扉を開けるクロム。


クロム「どちらさまです……かっ?」

しぐれ「クロム様っ!」


クロム「あら、しぐれ」


しぐれ「こんばんはでごじゃいますっ。我が姫様っ」


クロム「え~と、どうしたんです? お一人ですか? まだ、7時ですけど」


しぐれ「はい! 早朝からしゅみませんっ。本日は一人で参りましたっ。今日、お休みでしよね?」


クロム「え、ええ。仕事は休みですけど……。まあ立ち話もなんですから……。どうぞ?」


しぐれ「お邪魔致しまし!」


クロム「何か飲みますか?」


しぐれ「いえ! 拙者、持参した宇治緑茶がまだ水筒に入ってございましのでどうぞお構いなくっ!」


クロム「そうですか。ソファどうぞ」


しぐれ「いえ! 正座していないと落ち着かないのでございましよ」


クロム「はぁ。じゃあ、そちらにどうぞ?」


しぐれ「はいっ! ……ほぁ~。初めてまじまじと拝見致しましたが、とても可愛らしいお部屋でございましね。桃色、白、苺色に……うさぎさん……」


クロム「ふふ。良い歳して子供っぽいなって、キジにいつもからかわれます」


しぐれ「ええ? ふふ。若様のお部屋の方が、子供っぽく思いましが」


クロム「キジの部屋?」


しぐれ「はい。子供部屋をそのままずっとお使いになっているのでございまし。若様専用の書斎は、とてもシックで大人~な感じなのですが」


クロム「へえ?」


しぐれ「ベッドも子供用のままなので、」


クロム「えっ? キジ、背が凄く高いですよね?」


しぐれ「はい。とてもベッドでは眠れないらしく、ベッドは使わず雑魚寝していらっしゃるようなのでしよ」


クロム「へえ、意外……」


しぐれ「意外でございましか?」


クロム「はい。キジは、大きなベッドで寝ていそうだなあと想像していたので」


しぐれ「皇帝様が用意して下さった、大きなベッドがあるのですが。そのお部屋は使いたくないようで……」


クロム「そうなんですね」


しぐれ「はい」


クロム「で。何か用があって来たんですよね? しぐれ」


しぐれ「はっはいっ。実は……」


クロム「?」


しぐれ「ぁ……。拙者、クロム姫様のような大人の女性になりたいのですっ!」


 しぐれはまだ十六歳。


クロム「私……?」


しぐれ「はい。愛され体質になりたいのでしよ!」


クロム「は、はあ。愛され体質……?」


しぐれ「拙者のような顔面崩壊しているインドランスが、クロム姫様のようになりたいなどと言うのはおこがましいとわかっているのでございましが!」


クロム「い、いえいえ。そんなことは」


しぐれ「せめてもう少し! 綺麗に、美しくなりたいのですっ!」


クロム「しぐれ……」


しぐれ「なので、今日一日、姫様の過ごされるご様子を、見ていてもよろしいですか!?」


クロム「えっ??」


しぐれ「だめでしょうか……」


クロム「い、いえ、駄目なことは、ありませんが……」


しぐれ「拙者、観察力だけは人より少しあるほうだと思うのでしよ!」


クロム「うーん」


しぐれ「姫様の真似を少しでもすることで、何か、自分に自信を持ちたいのです!」


クロム「……あのう。質問があるのですが」


しぐれ「はいっ!」


クロム「しぐれは、自分の顔にもその……もしかして自信がないのでしょうか」


しぐれ「それは勿論!」


クロム「キジは高い整形技術も持っていますよね?」


しぐれ「はい。若に不得意な医療技術はございませんっ。何度かキジ様にもお願いしたのですが……。お前はブスでいいんだと、断られて……」


クロム「キジの言うことですから。その顔であることには何か意味があるのでしょう」


しぐれ「うう、拙者の顔を弄ると、凄い費用がかかるのと、あと、オディーラッドの構造も変えなければならないらしくて……」


クロム「成る程。船自体にも、多大なる影響が出てしまうんですね」


しぐれ「女性らしくなりたいのです! 可愛らしくなって。大人になった時に、自信を持って若様の隣を歩けるようになっていたいのです!」


クロム「……そうですか。わかりました。私の私生活が参考になるかはわかりませんが、好きについてきて構いませんよ」


しぐれ「本当でございますか!? ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」


クロム「えっと、私は普通にしていていいんですよね?」


しぐれ「はいっ! あっ。クロム様っ。ご朝食でございますか!?」


クロム「はい。今から作ります」


しぐれ「レシピはなんでしょう!?」


クロム「んー。今日は、海藻サラダと」


しぐれ「ふむふむ」


クロム「フレンチトーストと」


しぐれ「おー」


クロム「オレンジと、ヨーグルト!」


 手際よく朝食を作り始めるクロム。


しぐれ「健康的ですね!」


クロム「はちみつをたっぷり使っちゃいます」


しぐれ「へえ~っ」


クロム「しぐれも食べますか?」


しぐれ「いえ! 拙者、先程沢山水星で大盛り海鮮丼を食べてきたばかりですっ! そして、おにぎりを三つ握って来ましたので!」


クロム「おにぎりの具はなんですか?」


しぐれ「飴でございましっ!」


クロム「あめ?」


しぐれ「若様が、個人行動をする時にはお菓子を持って出かけるなと言っていたのでしが、おにぎりの具としてならありだぞと仰っていましたので!」


クロム「美味しいんですか? それ」


しぐれ「初めての試みでございましっ!」


クロム「う~ん」


しぐれ「姫様、質問でございましっ」


クロム「その前に私から」


しぐれ「はいっ」


クロム「どうして、自分が仕えている主人のように、私を?」


しぐれ「そりゃあ、クロム姫様は、キジ様の未来の正室にございましぃっ!」


クロム「どこからそんなデマが……」


しぐれ「それに、拙者の憧れなんでございまし。姫様は! 絶対に若様と幸せになって欲しいのでございますっ! 大好きなお二人なのです!」


クロム「しぐれ……」


しぐれ「ん~。いい薫りでございますね」


クロム「はい。朝食が出来ました。運んで、テレビを見ながら食べますっ」


しぐれ「これがクロム姫様の朝のはじまりなのでしね! 隣で見学させて頂きましゅ!」


クロム「うーん」


しぐれ「如何なさいました?」


クロム「一緒に食べる人が居ると、もっと美味しく感じられるんですけどね」


しぐれ「ハッ! すすっしゅみません!! 今すぐ! この満腹な腹をかっ裂いて自害をををおおおおお!」


クロム「きゃー!? ダメですしぐれ! やめて下さいっ! っ!」


 しぐれの頭頂を思い切り叩いて沈ませる。


しぐれ「いっ、痛いでございましゅ……」


クロム「はぁ、はぁ……。まったくもう」


しぐれ「静かにしておりますので、どうぞ、ご朝食をお召し上り下さい」


クロム「……はい」


 モニターでニュースを見ながら、メールのチェックをしながら、朝食を摂るクロム。


クロム「(もぐもぐ……)」


しぐれ「なんと!」


クロム「ん?」


しぐれ「最新の市場しじょうの情報収集をしつつ、クロム様に宛てられたふみを確認しつつ、しっかりと栄養を補給しておられまし! ついでに足元には、あんよモミモミ機が!」


クロム「これ友達から貰ったんですよ~。気持ちいいんですよ。しぐれも試してみますか?」


しぐれ「えええ! ……あっ」


クロム「どうぞ」


 お湯が張っている、足用マッサージ機に足を入れてみるしぐれ。なんとも気持ちが良くて。


しぐれ「おおお……。こ、これは、天にも昇る気持ちでございます」


クロム「ふふっ。ですよね」


しぐれ「あぁ……。……ハッ! お、お返し致しますっ! クロム姫、拙者のことは、お気になさらずっ」


クロム「ふふ。あむ」


しぐれ「ははあ、成る程」


 巻き物型の電子盤にメモを取りながら。


クロム「(もぐもぐ……)?」


しぐれ「そういった周りへの気遣いが、クロム様の魅力でもあるのでしね」


クロム「ただの構いたがりですよ」


 ショックを受けるしぐれ。


しぐれ「っ! なんと……。そのようなこと、拙者には出来ませんっ」


クロム「そうでしょうか」


しぐれ「姫様はいつも、どこか切なそうに微笑みますよね」


クロム「ほうれふか?」


しぐれ「ああっ! すみませんっ! 食材を口に含んだタイミングを見計らっていた訳ではっありんせんっ!」


クロム「ん、んっ……。ふふふっ。しぐれのそういう可愛らしさって、そのかたい表情のせいで、伝わりきっていなくて勿体無いですよね」


しぐれ「んん?? どういう意味でしょうか」


クロム「キジが前にぽつっと呟いていたのですが、しぐれの顔の下には、もう一枚顔があって、本当は驚くほど可愛いんだって」


しぐれ「うっええええええええええ!?!? 本当でございましか!?」


クロム「インドランスですから、そういう造りになっていても、まあ不思議ではありませんね」


しぐれ「つまり拙者は、ブスの仮面を若様につけられているということなのでしょうか!?」


クロム「さあ。その下の顔とやらを見たという話、キジからしか聞いたことがないので、なんとも言えませんね」


しぐれ「ふむう……。あっ。そう言えばクロム様、」


クロム「はい?」


しぐれ「この間キジ様と三日三晩二人きりだったそうですが……」


クロム「ブウーッ!!!!」(牛乳を吹く)


しぐれ「水星のウンディーネパークに行ったらしいですねっ」


クロム「あ、ああ。そうなんですよ。とっても楽しかったです。地球にある遊園地や水族館とは、また違って……」


しぐれ「いいなあ!」


クロム「? しぐれもキジとどこかに出かけたりはしないんですか? ショッピングとか、遊びには……」


しぐれ「そんな! 拙者はただの護衛ですので」


クロム「そうなんですか?」


しぐれ「はい。朝食が終わったら、どこかに出かけますか?」


クロム「ふぁい。あ、でも、お洗濯と、お掃除を少ししてから」


しぐれ「クロム様には、アイゼルからインドランスは派遣されていないのですか?」


クロム「え?」


しぐれ「身の回りのお世話をさせる用で、小型のインドランスなんかは……」


クロム「維持費がかかりますからね、私には必要ないかな」


しぐれ「動物型も可愛いでしよ!」


クロム「キジは?」


しぐれ「若様にはご実家に、500体程の様々なインドランスがお仕えしております!」


クロム「500体!?」


しぐれ「はい。警備に100体、メイドが50体、コックに、植木屋、ペットに、……様々なインドランスたちが、若様の生活をサポートしております」


クロム「やっぱり偉いんですもんね。凄い」


しぐれ「クロム様に初めてお会いしたのは、若とクロム様が二十歳はたちくらいの頃でしたでしょうか」


クロム「あ、はい。そうですね」


しぐれ「あの時に、娼婦やら側近の若い女型おんながたインドランスを皆、若様が勝手にインドランス協会にご返却してしまって……」


クロム「え?」


しぐれ「皇帝様はとてもお怒りでしたけど。でも、若様はクロム様への一途な愛の為に! 他の女性を側に置かなくなったそうでしよ」


クロム「へえ……」


しぐれ「愛されてるう~↑」


クロム「からかわないで下さい。……本当に好きになれたら、楽なんでしょうね、きっと」


しぐれ「あう。そうですよね、クロム様には、ダーク様が……」


クロム「えっ? あ、ああ」


しぐれ「キジ様、可哀想……」


クロム「キジなら、出会いも沢山ありそうですし」


しぐれ「んー、まあ、この間あった木星とのパーティでも、何人もの女性に囲まれておりましたがぁ」


クロム「あの容姿にあの性格ですもんね。人が寄ってくるはずです」


しぐれ「でも、若様は退屈そうでした。普通に対応しておられたと言うか。やはりクロム様のほうがいいんでしょうね!」


クロム「……私なんかの、どこがいいのかしら」


しぐれ「クロム様のお体は、どこもかしこも気持ちがいいと、仰っていましたよ」


クロム「ブウーッ!!」(牛乳を吹く)


しぐれ「ぷにぷにしていて、触り心地がいいんだと……」


クロム「あ、ああ、確かにそんなことを言っていたような」


しぐれ「姫様。お皿洗いと、お掃除、お洗濯、お手伝いしても宜しいでしょうか!?」


クロム「えっ。あ、はい。いいんですか? 貴方はキジのインドランスなのに……」


しぐれ「はい?」


クロム「他の人間に奉仕なんかして」


しぐれ「はいっ! クロム様は特別でございまし!」


クロム「結婚は、しませんよ」


しぐれ「ええーっ!?」


クロム「キジと結婚なんてしたら、毎日大変じゃないですか」


しぐれ「え、そうですか?」


クロム「だって。あれでも一応ユンヴァリーの総理大臣なんですよ? そんな人をきちんと支えられるかどうかなんて……」


しぐれ「堅苦しいことはそんなにはございませんよ?」


クロム「えっ。そんなはずは……」


しぐれ「いつもブラブラしているではありませんかっ」


クロム「ブラブ……い、いや、それはいけないことなのでは?」


しぐれ「若様は自由にしていればいいのですっ」


クロム「でも、一国の大臣がそんなんじゃ」


しぐれ「こうして地球へ来たり、アイゼルや月、他の星へ行くのも、警備の為ですし」


クロム「でも、キジはユンヴァリーにとって重要な医師でもあるはずですよね?」


しぐれ「はい。夜中はずっと帝都の医療施設にいらっしゃいます」


クロム「研究の為に?」


しぐれ「それもありましが、患者さんのケアや診察も、普通にやっておりまし。深夜から明け方までは、うん、そうでし」


クロム「? 昼間は寝てるってことですか?」


しぐれ「昼間はどこかをウロウロしていまし」


クロム「……いつ、寝るんです?」


しぐれ「ん~。オディーラッドの操縦席で、一日数分を何回かに分けて、ですかね。ご自分のお部屋でもまあ、たまに……」


クロム「数分……?」


しぐれ「睡眠を沢山取らなくてもいい身体なのでし」


クロム「えっ?」


しぐれ「キジ様が研究なさってるそれは、人体の構造やしくみ、常識を根本から変えるようなものなのでし」


クロム「脳や身体を休めて記憶の整理をさせたりすることが、キジには必要ないということですか?」


しぐれ「はい。少し前までは、キジ様とまったく同じ姿形のインドランスを百体ほど作って。一日毎にそれと本体を乗り換えていたのでしが」


クロム「ん!?」


しぐれ「で。全てのキジ様たちの身体を、休息が必要のないように進化させて行って……」


クロム「ままま待ってくださいっ」


しぐれ「はひ?」


クロム「それは、人体の……そのっ、それは医療、なんですか!?」


しぐれ「医療でし!」


クロム「そ、そうか、整形だって医療ですもんね」


しぐれ「はい!」


クロム「身体を全て交換することなんて、出来たら……」


しぐれ「重い病気を持っている人間であればある程、嬉しいことだと思いまし!」


クロム「っ! 確かにっ」


しぐれ「半永久的に生きられますしね」


クロム「凄い! ……そんなことが出来るなんて」


しぐれ「でも、まだまだ実行の発表なんかは出来ませんね」


クロム「どうして?」


しぐれ「誰でも簡単に全とっかえが出来てしまったら、容易く犯罪に使われてしまいまし」


クロム「そうですね……!」


しぐれ「それに、やはりお金もかかりますし、整形技術の法を乗り越えてしまっていますし……」


クロム「法律、……違反、なんですか?」


しぐれ「はひ。全とっかえは、違法なんでしよ。まあ、神経の整形が出来るようになったのがようやっと最近なので、完璧に手と首の整形が出来るようにもなったのでしが」


クロム「手と首?」


しぐれ「首は、頭がのっかってるせいで皮膚の伸縮性が他の箇所と全然違うので、凄く難しい整形なのでしよ。手は細かい視神経がたっくさん通ってるので、これもまた難しくって」


クロム「へぇ~」


しぐれ「インドランスの感情回路の仕組みよりも、全然難しいのでし。神経の整形はっ」


クロム「心を作るよりも、ってことですか?」


しぐれ「心というものにはパターンがありましのでっ」


クロム「パターン? で、でも、テトラやしぐれ、ほとんどのインドランスには、それぞれに違った人格があるように感じるのですが」


しぐれ「はい。以前、月でインドランスの心理カウンセラーを少しやっていたクロム姫様ならおわかりになると思いましが、まったく同じ性格のインドランスは居ませんよね」


クロム「ええ」


しぐれ「そういうふうに、造ってあるのでし。全てのインドランスが、学習する仕方が違うように」


クロム「へえ……」


しぐれ「姫様っ! お皿洗いのコツを教えて下さいましっ!」


クロム「しぐれ! 何枚割ってるんですかっ! もう洗うお皿すら無いじゃないですか!」


しぐれ「すっすみません!」


クロム「お皿洗いは……節水する為に、こう……」


しぐれ「ディッシュマシンを購入します!」


クロム「え、ええ、ええっ? まあ最近のディッシュマシンは高性能ですし、手洗いするよりも節水になって……うーん」


しぐれ「姫様っ! お掃除のコツを教えて下さいましっ!」


クロム「しぐれ。床から掃いてはいけません」


しぐれ「ハッ!?」


クロム「重力のことを考えて下さい。上空で埃を離したら、どうなりますか?」


しぐれ「はひ。上から下に落ちましっ」


クロム「ですよね。だからお掃除は、なるべく天井近くからするんです」


しぐれ「なるほどお~」


クロム「インドランスなのに、お掃除機能、付いてないんですか?」


しぐれ「はい。ついてないのでし」


クロム「キジがとっぱらっちゃったんですかね」


しぐれ「姫様っ! お洗濯のコツを教えて下さいましっ!」


クロム「しぐれ! 乾燥機にかけたものを雑巾絞りしちゃいけませんっ」


しぐれ「ハッ! もももももも申し訳御座いましぇんっ!」


クロム「洗濯機に入れたものは、回し終わったら一度こうして畳んで。少し叩きます」


しぐれ「ほほう。ふんっふんっ」


クロム「少しですよ、少し!」


しぐれ「はっはひっ」


クロム「で、ハンガーに掛けて……」


しぐれ「ハンガー?」


クロム「ふふ。ちょっと原始的ですけれど、エコなんですよ」


しぐれ「へえ~」


クロム「で。しぐれ。もう一つ何か話があるのではないですか?」


しぐれ「へ」


クロム「だって、変ですよ。突然、私のようになりたいだとか言いだしたりして……」


しぐれ「そ、そんなことないですよ、主様あるじさまっ!!」


クロム「えっ?」


しぐれ「ご相談、しても、宜しいでしょうか」


クロム「え、え、っと、……はい」


しぐれ「……なんだか、心臓が変な感じなのでし」


クロム「えっ」


しぐれ「姫様、拙者、壊れてしまったのでしょうか」


クロム「心臓が痛いんですか?」


しぐれ「いえ……痛みはありません」


クロム「でも、変な感じがすると……」


しぐれ「昨日瑠璃様に精密検査をして頂いたのでしが、なにも異常はなく……」


クロム「そうなんですか?」


しぐれ「はい」


クロム「……しぐれ、もしかして……」


しぐれ「ッ!?」


クロム「生理とかじゃないですよね?」


しぐれ「えっ」


クロム「あ……。インドランスにも、生理が来るから……。ホルモンバランスか何か、崩れが生じているんじゃないかなって……」


しぐれ「主様あるじさまは心配症だね」


クロム「え……」


しぐれ「っ? えっ、私、今……」


クロム「私、って……。しぐれ……?」


しぐれ「す、すみませんっ! 拙者、お手洗いをお借り致しますっ!」


 しぐれ、トイレへ。


クロム「……」


 クロム、とある女性の姿を、頭に思い描く。 

 キジに通話を掛ける。


クロム「あっ、キジ? 私です。……あの、一つ、聞きたいことが……」






 夜。パジャマで、二人。珈琲を飲んでいる。


クロム「……それで?」


しぐれ「……若様がこの間、最新型インドランス付きの宇宙船ブローシュアを読んでいて……」


クロム「えっ!?」


しぐれ「拙者が馬鹿でブスで使いものにならないから……きっと買い換える気なのでしょう」


クロム「そんなっ。たまたまですよっ。たまたま! ほ、ほら。少し興味があるものなら、買う気がなくても本屋で立ち読みとかするじゃないですか!」


しぐれ「……姫様はお優しいでございますね」


クロム「しぐれ……」


しぐれ「所詮、拙者たちインドランスは、モノでございますから」


クロム「しぐれっ。そんなこと言わないで」


 キジから通信がくる。『ツー、ツー、ツー』


しぐれ「はいっ! 若様っ! ……えっ? はっはひっ! すぐに帰還致しますですっ! はいっ。失礼致しましっ!」


クロム「……キジですか?」


しぐれ「は、はいい。早く帰って来いと……。オディーラッドでどこかに行きたいみたいでし」


クロム「そうですか」


しぐれ「では姫様、拙者、失礼致します。本日は本当に、ありがとうございましたっ」


クロム「いえ。私も楽しかったですよ」


しぐれ「っ。ありがとうございまし! ……ではっ」


クロム「あっ。しぐれ!」


しぐれ「っ?」


クロム「ちゃんと、必要とされているじゃないですか」


しぐれ「へっ」


クロム「わざわざ呼び戻して下さるなんて。余程大切にされている証拠ですよ」


しぐれ「そ、そうでしょうか……」


クロム「ええ。本来何十人もの護衛を側に置いて航海に出なければならないキジが、特別に貴女しか連れ出さないんですから」


しぐれ「そ、それは拙者のオディーラッドに他のインドランスを乗せてしまうと、皆が誤作動を起こしてしまうから……」


クロム「きっとそのことを利点に捉えているんでしょうね」


しぐれ「??」


クロム「いってらっしゃい。また、遊びに来て下さいね」


しぐれ「っ! はいっ!」


 キジからクロムに通信が入る


しぐれ『プルルルルルルルルルルル……』


クロム「……はい、もしもし? ……ああ、キジ……。えっ? それ、本当ですか?」






つづく

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