師匠と弟子と、オリジナルとコピー
王国武術大会。
毎年の秋に行われるそれは、王国中から腕に覚えがある者が集まり、己の武こそ最強だと示す大会。
そして、今日は大会最終日。
もちろん決勝である。
対戦カードは大会の絶対強者して、剣聖の称号を持つ三十代の男。
それに対して、相手は、その弟子で軍服のようなしかし、カジュアル感も滲み出ているパーカーを着た青年。
両者は指定の位置まで歩く。
会場はとてつもなく広い。この大会に出てくる者は、かなりの確率でステージを破壊するのだ。
両者は向き合い、一口二口言葉を交わす。
青年は、今日こそあんたを超えると意気込み、剣聖は、お前ごときには無理だと嘲笑う。
静寂の中、空気を裂くような爆裂音。
これは試合開始の合図。
両者、ほぼ同時に動いた。
低い姿勢からの薙ぎ払い。それを避ける体移動。剣の捌き方まで、何から何まで一緒だ。
そして、たった数回の打ち合いで、会場の全観客は、理解した。
この試合、弟子が勝つことは決して有り得ないと。
青年の剣は、剣聖の模倣。完全コピーと言った感じだ。コピーはオリジナルに勝つことは万が一にも、有り得るはずがない。
どんな剣技を見せようがオリジナルの技に圧倒される。
青年は防戦一方となった。
オリジナルは違う。
剣のいなし方、振り方、体移動その全てがコピーより上なのだ。
「絶技『瞬雷乱舞』」
青年の剣が太陽の光を反射して煌めく。剣先が流星の尾みたいに軌道を描いた。
常人の動体視力では到底捉えることなど出来ぬ速さ。隼の如き剣速で同時に上下から斬りつける技。
しかし……
「絶技『剛雷乱舞』」
青年の技は、たった一振りで弾かれた。
「コピーがオリジナルに勝てる訳ないだろ」
剣聖は青年に向けて、冷たく言い放つ。その言葉を聞き、普通の者なら諦めるだろう。しかし青年は諦めるどころか、剣を剣聖に向け、啖呵を切った。
「あんたは今も昔、言ったよな。『コピーするだけじゃオリジナルには勝てない』ってよ。俺はあんたを超える。あんたがくれたんだぜ、剣を。だったら、あんたが言ったことを実践して、あんたを超える。それが弟子に出来る、師匠への恩返しだろ?」
確かにコピーするだけでは、オリジナルには勝てない。しかし、オリジナルにコピーが勝てないというのは、コピーする側が何もアクションを見せない時だけに限る。
そう、オリジナルにはないアレンジを加えればいいのだ。
その真実に気付いた瞬間から、模倣するだけの者は、更なる次元へと強さが、昇華する。
青年は逆手に剣を持ち替えた。
一陣の風が吹く。
青年は、全神経を身体の末端へと集中させる。血脈の流れが異常なまでに速くなり、血管が膨れ上がった。
前傾姿勢を取り、大地に足がめり込むのではないかと、疑いたくなるほど、踏み締める。
力を溜めて、そして開放。
「ふん、芸もない。ただ速い牙突で勝てると?」
「瞬技『熾天一閃』」
「……ッ⁉︎」
青年は、剣聖の視界から消えた。
そう、突然消えたのだ。確かに途中までははっきりと見えていた。なのに突然、消失した。
この時、青年は剣聖の視界から斜め下に移動したのだ。人間の目という物は上下左右の動きにはとても強いが、斜めの動きには極端とまでは言わないが、弱い。
まして、あのスピードで斜めに動かれたら、消えたも同然。
斜めから襲ってきた牙突に、反応が遅れた剣聖。だが彼は剣聖である。
剣聖とは、剣に秀でることも当然だが、己の五体が、常人の能力を遥かに凌ぐほどの、身体能力、反射神経、動体視力、思考力を兼ね備えなければならない。
神速の牙突を剣聖は、紙一重で避けた。
だがこれで青年の攻撃は終わりではない。逆手に持った剣を、牙突が終わったと同時に、横薙ぎする。
剣聖は、それを剣で受け止める。
「ガキが、調子に乗るな」
剣聖の雰囲気が、変わった。剣聖から感じるプレッシャーが、行け行けドンドンから冷たく、鋭い、真剣のような、触れるだけで斬れてしまいそうな、プレッシャーへと変貌した。
青年は、そのプレッシャーを受け、後ずさる。額には冷や汗。表情は強張り、焦りの色が出始める。
眠れる獅子などではない。
眠ってすらいない、そして獅子でもない。剣聖は、獅子をも狩る 『人類の到達点』 だ。人でありながら、人を超えた存在。
そして、弟子の青年は、気づかなかった。
剣聖が、移動していることに。
カツンカツンと、確実に一歩を踏み締め、近づく剣聖。
正確にいえば、青年は気づかなかったのではなく、気づくことを辞めたのだ。
人は、圧倒的な存在を目の前にすると、その存在を認識することを辞める。
青年の本能は、理解したのだ。
この師匠には、まだ勝てないと。
「弟子よ。俺と張り合おうなんて、数年先だ。だが、よくやった。これでお前は更なる高みへと登ることが出来る。だから、今は、負けろ」
青年の身体が震える。
初めて認めてくれたことに。
「お前の成長を祝して、本気の剣を見せてやろう。俺はな。元々、剛剣使いなんかじゃないんだ。お前が導き出した、剣速を極めるという答えと一緒だ。
そして、俺の本当のスタイルに、剣技などない。なぜなら、振るうだけで、それは剣技と同等の威力を持つからだ」
青年は斬られた。いつ斬られたのかも分からず。速すぎる剣。
これが人類の到達点の強さ。
青年は思い知ったと同時に、やる気にも満ち溢れた。
青年はそのまま、地面に倒れ、意識を手放した。
かくして、王国武術大会は幕を閉じた。
戦闘描写は難しい




