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師匠と弟子と、オリジナルとコピー

掲載日:2014/08/12

 王国武術大会。

 毎年の秋に行われるそれは、王国中から腕に覚えがある者が集まり、己の武こそ最強だと示す大会。


 そして、今日は大会最終日。

 もちろん決勝である。

 対戦カードは大会の絶対強者して、剣聖の称号を持つ三十代の男。

 それに対して、相手は、その弟子で軍服のようなしかし、カジュアル感も滲み出ているパーカーを着た青年。


 両者は指定の位置まで歩く。

 会場はとてつもなく広い。この大会に出てくる者は、かなりの確率でステージを破壊するのだ。


 両者は向き合い、一口二口言葉を交わす。

 青年は、今日こそあんたを超えると意気込み、剣聖は、お前ごときには無理だと嘲笑う。

 静寂の中、空気を裂くような爆裂音。

 これは試合開始の合図。


 両者、ほぼ同時に動いた。

 低い姿勢からの薙ぎ払い。それを避ける体移動。剣の捌き方まで、何から何まで一緒だ。

 そして、たった数回の打ち合いで、会場の全観客は、理解した。

 この試合、弟子が勝つことは決して有り得ないと。

 青年の剣は、剣聖の模倣。完全コピーと言った感じだ。コピーはオリジナルに勝つことは万が一にも、有り得るはずがない。

 どんな剣技を見せようがオリジナルの技に圧倒される。

 青年は防戦一方となった。

 オリジナルは違う。

 剣のいなし方、振り方、体移動その全てがコピーより上なのだ。


「絶技『瞬雷乱舞』」


 青年の剣が太陽の光を反射して煌めく。剣先が流星の尾みたいに軌道を描いた。

 常人の動体視力では到底捉えることなど出来ぬ速さ。隼の如き剣速で同時に上下から斬りつける技。

 しかし……


「絶技『剛雷乱舞』」


 青年の技は、たった一振りで弾かれた。


「コピーがオリジナルに勝てる訳ないだろ」


 剣聖は青年に向けて、冷たく言い放つ。その言葉を聞き、普通の者なら諦めるだろう。しかし青年は諦めるどころか、剣を剣聖に向け、啖呵を切った。


「あんたは今も昔、言ったよな。『コピーするだけじゃオリジナルには勝てない』ってよ。俺はあんたを超える。あんたがくれたんだぜ、剣を。だったら、あんたが言ったことを実践して、あんたを超える。それが弟子に出来る、師匠への恩返しだろ?」


 確かにコピーするだけでは、オリジナルには勝てない。しかし、オリジナルにコピーが勝てないというのは、コピーする側が何もアクションを見せない時だけに限る。

 そう、オリジナルにはないアレンジを加えればいいのだ。

 その真実に気付いた瞬間から、模倣するだけの者は、更なる次元へと強さが、昇華する。

 青年は逆手に剣を持ち替えた。

 一陣の風が吹く。

 青年は、全神経を身体の末端へと集中させる。血脈の流れが異常なまでに速くなり、血管が膨れ上がった。

 前傾姿勢を取り、大地に足がめり込むのではないかと、疑いたくなるほど、踏み締める。

 力を溜めて、そして開放。


「ふん、芸もない。ただ速い牙突で勝てると?」


「瞬技『熾天一閃』」


「……ッ⁉︎」


 青年は、剣聖の視界から消えた。

 そう、突然消えたのだ。確かに途中までははっきりと見えていた。なのに突然、消失した。

 この時、青年は剣聖の視界から斜め下に移動したのだ。人間の目という物は上下左右の動きにはとても強いが、斜めの動きには極端とまでは言わないが、弱い。

 まして、あのスピードで斜めに動かれたら、消えたも同然。

 斜めから襲ってきた牙突に、反応が遅れた剣聖。だが彼は剣聖である。


 剣聖とは、剣に秀でることも当然だが、己の五体が、常人の能力を遥かに凌ぐほどの、身体能力、反射神経、動体視力、思考力を兼ね備えなければならない。


 神速の牙突を剣聖は、紙一重で避けた。

 だがこれで青年の攻撃は終わりではない。逆手に持った剣を、牙突が終わったと同時に、横薙ぎする。

 剣聖は、それを剣で受け止める。


「ガキが、調子に乗るな」


 剣聖の雰囲気が、変わった。剣聖から感じるプレッシャーが、行け行けドンドンから冷たく、鋭い、真剣のような、触れるだけで斬れてしまいそうな、プレッシャーへと変貌した。

 青年は、そのプレッシャーを受け、後ずさる。額には冷や汗。表情は強張り、焦りの色が出始める。

 眠れる獅子などではない。

 眠ってすらいない、そして獅子でもない。剣聖は、獅子をも狩る 『人類の到達点』 だ。人でありながら、人を超えた存在。


 そして、弟子の青年は、気づかなかった。

 剣聖が、移動していることに。

 カツンカツンと、確実に一歩を踏み締め、近づく剣聖。

 正確にいえば、青年は気づかなかったのではなく、気づくことを辞めたのだ。

 人は、圧倒的な存在を目の前にすると、その存在を認識することを辞める。


 青年の本能は、理解したのだ。

 この師匠には、まだ勝てないと。


「弟子よ。俺と張り合おうなんて、数年先だ。だが、よくやった。これでお前は更なる高みへと登ることが出来る。だから、今は、負けろ」


 青年の身体が震える。

 初めて認めてくれたことに。


「お前の成長を祝して、本気の剣を見せてやろう。俺はな。元々、剛剣使いなんかじゃないんだ。お前が導き出した、剣速を極めるという答えと一緒だ。

 そして、俺の本当のスタイルに、剣技などない。なぜなら、振るうだけで、それは剣技と同等の威力を持つからだ」


 青年は斬られた。いつ斬られたのかも分からず。速すぎる剣。

 これが人類の到達点の強さ。

 青年は思い知ったと同時に、やる気にも満ち溢れた。

 青年はそのまま、地面に倒れ、意識を手放した。


 かくして、王国武術大会は幕を閉じた。

戦闘描写は難しい

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― 新着の感想 ―
[良い点] いくつか読ませていただきましたが、どれも(どんなジャンルも)穏やかな文体で、気持ちよく読み進められますね。 チョイチョイお邪魔して色々読ませていただきます☆ [一言] “守破離”の破の部分…
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