ある日の「初めまして」
短編よりもSSです。お気軽にどうぞ。
「初めまして」
「……は、初めまして?」
「そんなに逃げ腰にならなくてもいいでしょ。ここに俺と君しかいないからって、変なことしようと思ってるわけじゃないから」
「そんなこと言われても……あの、誰ですか」
「俺は佐川吉光。吉に光って、縁起よさそうでしょ? 友達には古いとか言われるんだけど、俺は気に入ってる。……あぁ、君の名前は知ってるからいいよ。で、あと聞きたいことは?」
「……どこかで会いました?」
「ううん。あー、でも、会ってないって言えば嘘になるのかな。一応、会ってるかな、うん」
「……すみません、覚えてないんですけど」
「だろうね。だって俺の顔は見てないんだから。それもほんの一部しか俺のこと知らないでしょ?」
「全部知りません」
「そう? ……あ、そうだ。俺の好きな物はね、甘いものだよ」
「いきなりなに――」
「いいから聞いてて。えっと、通学する時はよく音楽聞いてるでしょ? あとはねぇ……こうやって改まって自分のこと言うのって難しいね」
「だからなんなんですか」
「あぁ、俺の誕生日は十月二十日ね! これ大事! ちゃんと覚えておいてよ。身長は百七十六で、A型。家族構成は両親と、今年で十五歳になる妹がいて、ちなみに俺は十八歳ね。家族関係はいたって普通」
「……はぁ」
「うん、そのまま聞いてて。聞いておかないと後で困るよ? 部活はやってないんだけどねー、あと委員会もやってないから。気楽でのんびりって皆には言われてるかな。ここまでで何か質問ある?」
「……特には。っていうか、ここどこなんですか? なんか一面真っ白で……」
「何て言えばいいのかな。――あ、もう時間みたいだ。じゃあ、よろしくね」
「え?」
「俺のこと。だって君は――」
ごん、と鈍い音が響いて少女はちいさく呻いた。
「痛……」
見事に机にあたった額を手で押さえ、少女はまだ覚醒しきっていない頭であたりをぼんやりと見渡す。
大好きな本や漫画たちに埋め尽くされている本棚にベッド、壁には十月の文字と綺麗な紅葉の描かれたカレンダー。そして目線を落とせば机の上には書きかけの紙の束が散らばっている。
「あー、寝ちゃったんだ」
考えている途中だったのにと少女はちいさく息を吐く。そしてふと、シャープペンを手に取った。
頭の中で誰かが話している。ぼんやりとしていたその顔もはっきりと思い出され、少女はそのままに紙に文字を書き連ねていく。
「えーと、十八歳、身長百七十六……誕生日は十月二十日。名前は――」
頭の中の少年が笑う。
よろしくねと言ったその笑顔が眩しくて、少女はただひたすらに思い浮かぶことを書いていく。自然と動く手に少女の顔は綻んだ。
「名前は、佐川吉光」
そう口にすると、なぜか頭の中の少年が嬉しそうに微笑んだ気がした。
――だって君は、俺を生んだ人だから。
お読みいただきありがとうございます。
キャラが生まれてくる時のお話でした。
どんなキャラでも、確かに自分から生まれたもので。
大切にしないとなと思います。
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