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小さな小人

作者: 千石マサ

皆さん。

「小さな小人」という都市伝説をご存じですか?

「小人」と、それ自体で小さい事を意味しているのに、「小さな」とついているなんて変な話ですが。

まぁそれはネーミングした人に聞いてみて下さい。

その小人、僕は見たことはないのですが、クラスでは見たという子は少なくありません。

まぁ大半は嘘だと思いますが。

実はその小人、条件を満たしている人にしか見えなくて、その条件は、ーー不幸ーーだそうです。

なんだか嫌な話ですよね。

小人ってのはそんな不幸な人の前にしか現れないそうです。

でも僕が思うに、不幸ってどこからどこまでが不幸なのですか?

それは小人のさじ加減で決まるのですかね?

だとしたらいよいよ嫌な話です。

自分では不幸と思ってない人がいて、その人がもしどこかでその小さな小人を見てしまったら、小人の勝手な解釈ではありますが、周りからしたらその人は不幸に見えているかもしれないという事になります。

実際にそのような人はいたそうです。

なのに、何故見たという嘘をついてまで小人を見た事にしたいのかというと、不幸とは裏腹に、小人を見た人にはその不幸を中和させるため、小人から幸福が貰えるんだそうです。

その幸福は様々で、その人の不幸に釣り合った幸福、というのが概念らしいのですが、それもやっぱり小人のさじ加減ですよね。

なら、小人さん。

両親が不慮の事故で死に、親戚の家をたらい回しにされ、最終的に、めんどくさいという理由で家を追い出され、今では学校での寮生活を強いられ、そこではあらゆる学年の生徒からいじめを受け、外へ出れば陰口を叩かれ、罵倒を浴びせられ、その理由もやっぱり訳の分からない理由で、友達も、ましてや恋人も親友もいない、生きる意味がわからなくなってしまった、そんな僕は不幸だと思いますか?



今日も嫌な一日が始まる。

楽しい事なんて雀の涙もない、嫌な一日が。

僕は今学校の寮で生活をしている。

同居人はいない。

僕一人だけだ。

学校から少し離れたところにあるのだが、ここはコンビニや、駅などが近くにあり、立地は悪くない。

立地は悪くないが、学校での僕の立場は悪い。

今通ってる学校の全生徒の中でも一番の不幸と言っても過言ではない。

なんて僕にとっては当たり前の事を思いつつ、そそくさと僕は教室に入る。

今日も嫌な一日が、始まる。



不幸その一。

常に机には落書きがところ狭しと書かれてある。文字が窮屈そうで、僕より文字の方が可哀想です。

不幸その二。

体育がある日には必ず、制服に何かされてる。軽いものでは制服を教室の何処かに隠されるだけなのだが、酷いものでは水の入ったバケツに制服が全て入れられている。

不幸その三。

これはいじめに関するものではないのだが、月に一度はヤンキーに絡まれる。何も悪い事はしてなければ、別に睨んでいる訳でもないのに何故か絡まれる。大抵はお金で済むのだが、たまに訳もなく殴られる。ヤンキーというのはほんとにわからない。

そして最後。

これは最近になって出来たものなのだが、否、気付いたものなのだが、否、気付いてしまったものなのだが、僕にはどうやら好きな人ができてしまったらしい。



今日は六時間授業だったので時間が早く感じられた。

僕の学校は進学校なので、週に三回は七時間授業があるのだ。

僕にとっては七時間授業は苦痛な時間であり、不幸な時間でもある。

そんな不幸だからこそ、今日の六時間授業というのは七時間授業に比べて、幸福な時間と感じられるのかもしれない。

しかも今日は何故か不幸が少なかったような気もする。

皆僕をいじめる事についに、嫌気がさしたのかな?

まぁ僕にとってはありがたい事なのだが。

でもそれにしたって今日は体育があったのに隠されも、水の張ったバケツに入れられてもいないというのはこの学校に入って初めての事かもしれない。

や、入学してから初めの体育もやられてはなかったかな?

もう忘れたや。

とにかく、今日はいつもより幸福だった。

席替えも一番後ろの席になったし。

や、別に一番後ろになって好きな女の子を見れるのが嬉しいんじゃなくて、単に後ろになれたのが嬉しいだけであって…

そんな小さな幸福も僕には大きな幸福に変えれる、それが唯一の取り柄だ。

本当にそれだけなのだが。


ん?

あれは何だろ?

僕は何か別に用がある訳でもなければ、見たかったという訳でもなかったのだが、廊下から見える小規模な中庭の方に目を向けた。

僕の学校は上から見るとかたかなの「こ」の字になっており、その中央に中庭が存在している。

どこの廊下からでも中庭が見えるようになっている。

その中庭には、小さな池と、噴水が設備されてあるのだが、その池には鯉も飼ってなければ、金魚も飼っていない。

はずなのだが、白いミニマムな何かが泳いでいる。

僕は気になってその中庭に行ってみたのだが、水面には波紋以外、何もありはしなかった。


帰路に着いて僕はふと気付いた。

十m程前にあの女の子がいた。

僕が好きな女の子が。

でも僕は女の子と喋った事なんてないし、というか、学年一の美少女でもあるその子に僕みたいないじめられっ子が話しかけていいはずがない。

権利すら与えられていないだろう。

あの子の近くに居たらあの子に迷惑がかかってしまうと思い、僕は歩むスピードを遅めた。

でも僕の心はあの子が前にいると思うだけで、それだけで鼓動が早くなるのが分かった。


僕はあの子とは別れて(というか一度も会ってないが)、今日の夕飯を買いにコンビニへ行った。

今日はちょっと妥協して、コンビニ弁当にしよう。

いつもは近くのスーパーマーケットへ食材を探しに行って、ちゃんと家で料理するのだが、生憎昨日の夜にいつものヤンキーに絡まれ、一万円も取られてしまったので、お金が小銭しかないのだ。

今日の夜は寒くなるらしいので、暖かいお茶と海苔弁当を買って帰る事にした。

コンビニを出ると、僕を冷たい風が襲った。

僕は春、秋、冬には必ずマフラーを顔が三分の一隠れる程度まで巻いてるから、首元は寒くない。

しかし、手袋はしてこなかった。

特に理由はないが、強いて言うなら単純に、寮から出る時は寒くなかったからだ。

僕は早く帰ろうと思い、コンビニとは反対側の道にある近道を通って帰る事にした。

その近道は街灯がなく、道幅はあまり広くない。

携帯を見るとまだ五時半だが、空はものすごく暗い。

街灯がないのでより闇が濃くなっている。

冬に近づいている証拠だ。

冬は嫌いじゃない。

むしろ大好きだ。

ほんといい季節だよな。

周りの光が、周りの幸福が一層輝いて見える季節だ。

しかし、暗いとヤンキーの行動力が増す。

また今日も絡まれるんじゃないかとおもった矢先。

突き当たりを曲がると、絡まれていた。

だが、今回は僕じゃない。

誰かが絡まれていた。

誰か、じゃない。

知っている人だ。

学年一の美少女。

僕の心の中でも一番の。

僕にとって大事な人。

僕が好きななあの人が。



大変だ。

あの人がヤンキーに絡まれている。

相手は四人でその子を中心に囲むようにして立っている。

茶髪やら金髪やら、奇抜な髪の色の奴らがその子を狙っている。

距離が遠くて会話は聞き取りづらいが、雰囲気からしてあまりいい傾向ではなさそうだ。

近くに自動販売機があり、その子の手にはジュースが握りしめられている。

推測するに、この子も僕と同様、早く帰ろうとしてこの近道を通ってしまった。

過程に自販機があったので、ジュースを買っているところをヤンキーに見つかったのだろう。

この道をたまたま通って、偶然ヤンキーに出会うなんて、あの人も不幸だな。

その肩書きは君には重すぎるよ。

僕は曲がり角に身を潜めてこの場をどうするか考えていた。

一つは、助ける。

もう一つは、逃げる。

二者択一。

そして、僕は後者を選んだ。

僕なんかが勝てる相手じゃない。

僕なんかが助けていい人じゃない。

理由は揃った。

身を翻し、僕は来た道を戻ろうした。

そこでふと思った。

本当にそれでいいのか?

これは変われるチャンスかもしれないんだぞ。

本当にいいのか?

僕は自問した。

しかし自答まではいけなかった。

何か。

何か理由を探した。

戦える勇気を後押しする理由を。

そう言えばあの時。

廊下から見た不思議な何か。

あれはもしかして都市伝説の「小さな小人」ではないだろうか?

小人なのに、小さな小人。

あれを朝学校に来た時、気付いてはいなかっ

たが知らぬ間にあの中庭にいた小人を見た。

だから今日は何も起こらなかった。

小人が、僕の不幸を中和してくれたんだ。

心の中で合点がいく。

つじつまが合う。

それは僕に戦う勇気を後押ししてくれた。

僕はもう一度あの人を見た。

なんだか初め見た光景より悪化している。

ヤンキーがあの人の肩に手を置いている。

あの人はすごく嫌そうな顔だ。

僕はいてもたってもいられなかった。

僕は駆け出していた。

戦場に向かって。


ーー今、助けにいくよーー


僕はヤンキーとその人の間に立って両手を横へ広げた。

僕の大事な人は驚いたような顔をしていた。

ヤンキーはヤンキーみたいな顔をしていた。

僕らはそのまま距離をとった。

ここは一本道。

後ろには出口。

一人のヤンキーが近付こうとした時、僕は手に持っていた弁当やら熱いお茶などを全部ヤンキーに向かって投げた。

そしてヤンキーがひるんでいる間にその人の手を取り、走り出した。

出口へ疾走した。

もう少し。もう少しだ。

そう言い聞かせて、なけなしの体力を振り絞って思いっきり走った。

あの人は運動部に入っているから男の僕以上に足は早いと思うが、多分そこは合わせてくれたのだと思う。

それに気付いてはいたが、僕は走った。

そして走りきった。

ついに僕らはその道を抜けた。

そして、近くの公園に身を潜めて呼吸を整えた。

あの人は僕より先に呼吸を整えていた。

数秒間の沈黙の後、僕は一言、ごめんね。

と言った。

何に対してなのか、向こうも僕もよくわからなかった。

そして何故かあの人は笑った。

多分僕はその時、キョトンとした顔をしてたんだと思う。

そしてあの人は笑いながらこう言った。


ありがとう。


その瞬間僕は思った。

あぁ、僕は今日、この日の為に生きて来たんだ。

そしてまたこの人の笑顔を見る為に明日も生きるんだ。

僕は生きる意味を見出した。

あの時見た何かはやっぱり小人だったんだと、その時疑問が確信に変わった。

そして僕のこれまでの不幸は、今日この日によって全てなにもかも綺麗さっぱり中和され、僕の心は幸福によって飽和状態と化した。

子供の頃、だれしも一度はヒーローになりたいと思った事があると思います。

戦隊ものや魔法少女もの、など。

僕もその一人です。

しかし、年齢を重ねるにつれてそんな感情は薄れていきます。

そこで初心に戻り、ヒーローにはほど遠いかもしれませんが、自分なりにかっこいいを描いてみました。

最後まで読んでくれた方に心から感謝します。

あなたにも小人が見える事を祈ります。


千石マサ

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