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あの人達……ホントにずれてる

「僕も一緒にいいですか? あ、冴子の夫で、菅沼篤志と言います」

「ええ、もちろん構わないですよ」

 私が礼拝堂の隣の部屋(後でそれが母子室という幼児を遊ばせながらメッセージを聞くことができる部屋だと知った)に行くのを見て、篤志がやってきた。

 そこで、私は生まれて初めて神に祈った。神社なども神様と言うから、初詣などを含めばそうではないのかもしれないが、平易な具体的な言葉で声に出して祈るのは初めてだ。当然、ふさわしい言葉など浮かんでくるはずもなく、安藤師の言葉をなぞって口にするだけなのだが。

 そしてそれが終わって教会を後にしようとした時、博美さんが、

「菅沼さん、また来てくださいね」

と言った。私は社交辞令と言うには似つかわしくない清々しいその表情を見て、思わず

「あなたは嫌じゃないんですか?」

と彼女に聞き返していた。

「へっ?」

「私は先輩を横取りしようと思っていた女ですよ」

「だからです。同じように衛を好きでいてくれた人なら、すごく話合うと思うから」

それに対して彼女はそう言った。


 あの人、なんかずれている。駐車場に着いて篤志にそう言おうとした時のことだった。教会の中から慌てて走ってきた女性がいた。

「菅沼さん、先ほどは主人が失礼なことを申しまして。私、博美の姉の曳津順子です」

女性はそう言って私に頭を下げた。主人ということは、あの曳津牧師というのは、彼女の兄(または義兄)になる訳か。なら、彼女の側に立って物を言うのも何となく理解できる。

「もし良かったら、また来てやってくださいね」

そして、この人もまた私を誘った。何故?

「え、ええ、まぁ」

私は、その時牧師の妻という肩書きがぱっと頭に浮かんで、そうまでして信者を増やしたいのかと、おざなりに返事をした。すると、順子さんは

「お願いしますね」

と、ほっとした笑顔を向ける。そして私の怪訝そうな顔に気づいたのか、

「ヒロ、同年代の友達がほとんどいないんです」

と、付け加えた。だからって、それをわざわざ夫を奪おうとしていた女に言うの? 私はそう思ったが、順子さんが続けて言った、

「あの子、ヒロはね、ある病気で成人はできないだろうって言われていたんです」

という言葉で思わず息を飲み込んだ。とても今はそんな風には見えない。

「ヒロが18の時に治療法が確立されて、あの子奇跡的に助かったんですけど。そんな訳でヒロには同年代の友達が本当に少ないから」

「順子さん、実生みのりから電話。羽島に今着いたって」

その時、玄関の方から曳津師が順子さんを呼ぶ声が聞こえた。

「あ、じゃぁ主人が呼んでいるので行きます。じゃぁ、お願いしますね」

順子さんはそう言うと、来たときと同じくまた慌ただしく教会の中に入っていった。


「何なんだろうな、あれ。たぶん、ありぁ奥さんと彼女が兄弟だな。顔はそんなに似てないけど、ぶっ飛び具合がそっくりだ」

 車で走り出した後、篤志がぼそっとそう言った。私はそれに頷いてから、

「ねぇ、私またここに来て良い?」

と聞いた。

「何でまた?」

「何だか、あの人達面白そう」

私がそう言うと、篤志は目を丸くして、

「確かにぶっ飛んでるけどさ。あの元奥さんはともかく、他の信者に何か言われないか? お前、いきなり仲間を殴った訳だし」

と言ったが、

「ま、俺もまたあの安藤さんとは話してみたいとは思ったし、もっかい位は来るか。そこで何か言われる様ならもう行かなきゃ良いことだし」

と言って頷いた。

 そして、ここから私たち夫婦の教会生活が始まったのだった。







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