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この人達……ずれてる

「北村さん……」

「菅沼、止せっ!」

 いきなり博美さんを殴った私を見て、慌てて堀木さんが私を羽交い締めにする。

「かっこ良かった先輩をあんなに太らせて、突然死させちゃうなんて。あんたは人殺しよ」

私が羽交い締めにされたままそう叫ぶと、前の方から親族らしい男性がつかつかとやって来た。彼は、博美さんをかばうように間に立って、

「それは、そのままあんたに返すわ。あんたがおらんかったら、衛君と博美ちゃんは別れんで済んだんや。そしたら、衛君は一人寂しく大食いする必要はなかった。そしたら、今みたいな結果はなかったはずや。僕は赦しを説く立場やけど、あんただけは許せそうにない」

と早口の関西弁でそうまくし立てた。

「曳津先生、それは違うわ」

それに対して博美さんは、首を横に振りながらそういった。それにしても、先生? ああ、牧師か。信者は牧師のことをそう言うらしい。そうか、悲劇のヒロインはこうやってみんなを味方に付けるのか。

「何がちゃうのん!」

だけど、ムキになってそう返す曳津牧師に博美さんは私の想像だにしなかった言葉を吐いたのだ。

「確かに、私も北村さんのことは許せなかったの。特に、15年ぶりに衛に会った時は、私の15年間を返してほしいと思った。でもね、許せませんって祈っても平安は与えられなかったの。そして神様に『このことを感謝しなさい』って示されたの」

は? 何それ!? さらに博美さんの理解の範疇を超えている台詞が続く。

「北村さん、あなたがいなかったら私たちは離婚してなかった。それは事実だと思う。だけど、離婚は私が持っていたコンプレックスから私を解放してくれた。もし、あのまま衛と夫婦を続けていたら、私きっと壊れてたと思うから」

「博美ちゃん……」

「それにね、衛は私と離れることで神様と向き合うことができたと思うの。神様は衛がちゃんと信じた上で引き上げてくださった。昨日の洗礼式で、私にははっきり衛の永遠への道が見えたの。北村さん、私はあなたがいたから御国に望みがつなげた。それは感謝すべきことだとは思いませんか、曳津先生」

「それは……」

曳津先生は渋々納得しているようだけど、正直言って彼女の言葉は私には全く理解できなかった。

「『絶えず祈りなさい、喜びなさい、すべての事に感謝しなさい』まさにみことばの実践ですね」

そして、そこに今度は若い男性が笑顔で割って入った。

「安藤先生」

この人も牧師なのか。この教会、何人牧師がいるのだろう。

「曳津先生、先生は私に寺内さんの洗礼準備会を頼むときに言ってくださったじゃないですか。

『このことに深い神の配慮を感じる』と。人間的には悲惨だとしか思えない事柄ですが、神はそれすらも恵みと変えられるのだということを。私は今、神のそんな深い摂理に感動で震えが止まらない」

この安藤という牧師はそう言って、私が全く理解できない事柄に関して目をきらきらさせて感動していた。安藤牧師はその笑顔を私に向けると、

「北村さんとおっしゃいまいしたっけ」

と名前を聞いたので、

「今は結婚して菅沼です」

と、返す。別にムキになって訂正することもないのだが、何となく旧姓で呼ばれると今でも犯人扱いされているような気がしたからだ。

「菅沼さん、あなたは本当は自分が不用意にいった一言で寺内さん夫妻が離婚してしまったことを今でも後悔しているんじゃないんですか」

「あ、いえ、ええ……」

分かっていたけど、目を背けていたそのことを指摘されて、不意に涙が私の頬を伝った。

 

 どんなことをしてでも手に入れたいと思った。でも、彼は別れた後も自分を見てはくれなかった。彼の目に映っていたのは、いつも一人だけ……何故だ、どうして彼女にそんなにこだわるのかとずっと思ってきた。

 だから、私はこの人に斬られたかったのだ。その時やっとそれが解った。私は、

『衛を殺したのはあなただ』と取り乱して叫ぶ彼女を見たかった。そしたら、私自身の思いに決着を着けられる……はずだったのに。

 それを、この人は恨まれても仕方ない自分に感謝するですって? そして、それが『みことばの実践』ですって??


「じゃぁ、悔い改めましょう。悔い改める者の罪を神は許してくださいます。あちらで一緒に祈りませんか」

 私は安藤牧師の誘いにこくりと頷いた。そこに私が求める答えがあるような気がしたからだ。


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