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大いなる恵みの実

 それから10年あまり、『御子を信じなさい、そうすればあなたもあなたの家族も救われます』のみことばの通り、先ず拓也が救われ、さらに献身(牧師になること)に導かれた。

 健斗は小学校のうちは喜んで付いてきたが、中学校に入るとそれを嫌がり、一旦は教会を離れたのだが、高校の近くにある教会にやっぱり友達絡みで導かれて、高校3年の春救われた。

 行かなくなったときには心配だったが、親のいない教会で健斗自身が神様と向かい合わなければならなかったのだろうと今は考える。


 そして、拓也は神学校を卒業し、なんと明日美ちゃんと結婚した。

 ウチは牧会のために妻帯をすすめる教団で、拓也が明日美ちゃんを好きなのは知っていたけれど、よもや4歳年上の明日美ちゃんがそれを受けてくれるとは思わなかった。

 聞けば明日美ちゃんのほうもずっと前から拓也を好きだったそう。

 私と博美さんが結婚式当日、感極まって姑同士で抱き合って泣いたら、篤志に笑われてしまったけれど。いいじゃない、あの時もし先輩が私を選んでいたら、こんなすてきな出来事は起こらなかったのだから。


 そして、任地に二人は赴き、一年後、明日美ちゃんは女の子を産んだ。名前は全愛まさえ。主の愛に包まれて、神と人とを愛するようにと拓也が名付けたのだが、

「どーでもいいけど、信者の子供の名前って難読が多いよな」

と、名前を聞いた篤志がぽつりとそう言った。

「そうかな、最近はそうじゃなくても変わった名前の子多いよ」

それに対して拓也はそう反論する。 

 確かに今の子供の名付けはフリーダムだけど、会員の師弟の名前はずいぶん前からそうだと思う。

 御国くんの名前を初めて聞いたとき、私はなんでこの子だけ名字なのかなって思ったから。彼のフルネームが榎本御国だと知ったのは、彼が拓也とゴスペルバンドを始める半年も後だった。


「ねぇねぇ、私あっちですごい人に会ったよ」

ある日の夜、博美さんが興奮気味で電話をしてきた。あっちというのは拓也たちの任地のこと。彼らの任地は北関東で、まだ仕事をしている私たちにはおいそれとは行けないのだが、博美さんは昨日、結婚記念日に二人の時間をプレゼントするため、久しぶりに出かけていたのだ。

「衛の会社の綿貫さん。冴ちゃんは覚えてる?」

残念ながら、私はその名前に聞き覚えはなかった。

「知らない。私が辞めた後に入った人かな」

と返す。先輩の死後、その人も辞めて北関東に行ったのだろうか。

 その時、丁度篤志がお風呂出てきたので、

「博美さんがあっちで綿貫さんに会ったんだって」

と言うと、

「へぇ、そう言えば奥さんと子供を実家に連れてくって休暇取ってたな」

と篤志が言った。そして篤志は私に、

「電話代わって」

と言い、私から電話を受け取ると、

「博美さん、びっくりしたでしょ」

と、言った。確かに岐阜にいるはずの人が北関東にいるのはびっくりだけど、私から電話を取り上げてまで言うことではないだろう。そう思っていると篤志は、

「本当に寺内さんってすごい人でしたよね」

と言った。


 そして、電話を切った後、篤志にその綿貫さんの話を聞いた。

 彼は私が辞めたことで入ってきたらしい、知らないはずだと思ったら、10年前、先輩の前夜式で会っているという。堀木さんと一緒にいた超肥満の男性がその人だと言うのだ。そうか、そんな特徴のある人だったら、10年経ってもわかるよなと思っていると、篤志の話には続きがあった。

 それは、その綿貫さんは先輩が亡くなったことを機に、ダイエットを始め、なんと人一人分の体重50kgを減らしたというのだ。そして、その課程をブログに載せたことで、同じくやせようとしていた奥さんと知り合い結婚したという、ドラマも真っ青なエピソード。

 

 神様のなせる技はまるで巨大なジグソーパズルみたいだと私は思った。

 一つ一つのピースの形で全体像は計れない。だけど、それぞれにはちゃんと収まる先があって、全てがつなぎ合わされた時、大きな恵みが完成される。あまりにも大きすぎて私たちは完成されるまでその恵みの大きさ深さに気づけないけれど、気づいたそのとき、私たちは喜びに満たされる。


 私と篤志は、博美さんと綿貫さんとの邂逅を思い、どちらからともなく頭を垂れた。


         - The End -

 


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