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罪人の頭

「教会でなんかあったのか?」

情けない気持ちで家に戻ると、篤志は目覚とくそう聞いた。

「ううん、教会じゃない。私つくづく博美さんに悪いことしたなぁと思って」

私がそう言うと、

「何か責められることでも言われたかって……博美さんはそんな人じゃないわな」

篤志は顔を一旦歪めてから首を傾げながらそう言う。

「うん、博美さんは全部自分が悪いって言うんだけどね。どう考えても、悪いのは私だっと思うと情けなくてね」

私はそう言うとため息を吐いた。


「確かに、お前のしたことは正しいとは言い難い。だけど、終わったことはしょうがないだろ。

まぁ、落ち込んでるお前につけこんでさっさとモノにした俺も結構姑息だと思うけど」

「篤志……」

確かに、篤志は私が先輩に振られたと知って猛アタックをしかけてきた。だけどそれはよくあることだし、篤志としては結局半ば強引に同棲に持ち込んだことを言っているのだろうが、追い出せなかった時点で、私は彼に依存し始めていたのだと思うし、もっと言えば彼に惚れて始めていたのだと思う。

 

 私はそんな『罪人の頭』とも言うべき自分たちだけが結果ハッピーエンドというのが心苦しいのだ。 

「博美さんとデボーションするのが辛いんだったら、俺とするか?」

すると、篤志はいきなりそんなことを言い出した。

「篤志と?」

「お前いつの間にか聖書開けるのが速くなってるしさ、最近、礼拝でもメモ取ってるだろ。なんかお前に一歩先行かれてるみたいでさ、悔しいんだよ」

篤志はそう言って笑う。

「あ、あれ? 聖書を開けるのが速くなったのは子供礼拝のおかげなの。必殺技があるのよ。

マタイ、マコ、ルカ、ヨハネ伝。使徒、ロマ、コリント、ガラテヤ書……」

そう言って、私は往年の鉄道唱歌の歌詞に乗せて歌う、「聖書早引きの歌」を歌い始めた。この歌は新約はもちろんのこと、旧約聖書のものもある。

『覚えると確かに楽なんだけどね、ゼファニアとか、ペトロの手紙とか(どちらも旧新約の最後の方に位置している)なんかは全部歌いきらないとでてこないでしょう。そういうときは非効率だと思うわ。

それにこれ、口語訳だから時々タイトル違うしね』

とその時、博美さんはそう笑いながら教えてくれた。


「篤志とやるのは止めとくわ」

そして、歌い終わった後、私は彼にそういった。

「何で?」

「別に、大した理由はないけど」

 まだまだ未熟な私ではそれこそ『盲人の手引き』になってしまいそうだし、そうでなくても博美さんとのデボーションはこれからも続けていきたい。

 何より、篤志では祈りにてらいが出る。神様に祈っているのだから、人を見ちゃいけないんだろうけど、夫婦だからお互い解っている反面、夫婦だからこそ気恥ずかしいものもあるのだ。これだから、身内の伝道は難しいと言われるのだと思う。

「俺は、祈祷会にでも出てみるかな」

すると篤志はそう言った。彼も彼なりに信仰と向かい合おうとしているみたいだ。

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