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罪の報酬は

「ごめんなさい、私がいなかったら……」

そう言った私に、

「ううん、私は冴ちゃんに本当に感謝しているのよ。それに責められるべきは私の方だもの」

やっぱり私に感謝するという博美さん。

「何故?」

私は博美さんが罪悪感を感じていることに驚いた。私には彼女は一番の被害者だと思うのだが。

「冴ちゃんは、本気で私たちを別れさせるつもりはなかったんでしょ?」

そして、続いて博美さんが言った言葉に、私は頷いた。


 私はあの時、先輩と不倫していることをにおわせるような電話を確かにしたのだけれど、実際、そんな事くらいで先輩と博美さんがあんなに簡単に別れるとは正直思ってはいなかった。

 私は、博美さんが、先輩を問いつめてケンカにでもなれば良いんだという気持ちだった。それくらいで壊れるとは思わなかったからできたこと、それで壊れるのならそれくらいの夫婦、壊した方が先輩のためになると。


「あの時ね、衛はあなたのことは否定しなかったの」

「先輩、否定しなかったんですか?」

私は、先輩が私のウソに乗ったと聞いてまた驚いた。

「うん、あの時衛は『魔が差した』って、土下座したの」

「なんで……」

先輩は博美さんの世間的に言えば潔癖症ともとられるような考え方くらい解ってたはずでしょ?

「私もね、ホントは許そうと思えば許せた。だって、衛はそのときはまだ、会員ではなかったんだし。

でも、私はあの時、頑なに衛を拒んだの。

当時の私は、あなたの方が衛に相応しいと思っていたから。でもね、それってよくよく考えたら自分の弱さで衛のことをあなたに丸投げしただけなのよね」

「相応しいだなんて」

罠を仕掛けるような女が先輩に相応しいわけがない。

「ううん、私は正直ホッとしたの。私は彼の妻であることにからきしの自信もなかったから。

ああ、私はやっぱり妻としては役不足なんだなって思った。だから、衛には冴ちゃんと幸せになってほしいと思ったの。

それって、自分はなにも努力しないで、投げ出しただけだよね。

それに、衛がいなくなっても、私には明日美がいるって」

そう言って、博美さんは深くため息をつくと、

「でも、結局は衛をひとりぼっちにしただけだった。

だから、衛を過食に追い込んだのは冴ちゃんじゃない、私だよ」

伏せ目がちにしみじみそう言った。

「だって、博美さんは知らなかったんでしょ。じゃぁ、仕方ないですよ」

私が、頭を振りながらそう返すと、

「ただ、許すとそれだけ言えばよかっただけなのに。やっぱり『罪の報酬は死』私は大罪人だよ。死ぬべきは私だったのにね」

それに対して、博美さんはまっすぐ前を向いてそう言った。そんなことを言ってしまえば私なんか未遂とはいえ、姦淫の罪。聖書の時代なら、石で打たれて死ななければならない大罪人だ。 

 やはり、罰せられるべきは私。私は自分の浅慮さがほとほとイヤになった。


  


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