第九話
『まだ怒ってんのか?いい加減機嫌治せよ。』
「・・・(ぷいっ)」
アルとは真逆の方向に顔を向け無視を続ける。
『おい無視すんなって。話だけでも聞いてくれよ、な?』
「・・・なに?」
しつこいので言い訳だけでも聞いてやるかと思い、振り向きながらジト目で言う。
『おーきいてくれるのか?優しいなカイリは。』
「見え透いたお世辞はいいからさっさと言いなさいよ。聞くのやめるよ?」
『あのな、乗っ取るっていってもちょっと身体を借りるだけでな。別に乗っ取られたからといって死ぬわ
けじゃないし魂がでてけばもとに戻る。』
それも十分ダメでしょ。
「で?」
『えっと・・・だから・・・気にすんなってことだ。』
全然言い訳になってないし。
アルは多分何も考えてなかったんだろう、しどろもどろになっていた。
その姿を見ているとなんかどうでもよくなってきた。
「はぁ・・・もういいよ どうせ謝る気もないんでしょ?」
『あぁない。』
何の躊躇もなく言い切る。
だと思ってたよ。
「まぁ今回は結局何にもなってないんだから許してあげるよ。」
ずっといがみ合っていても良いことはないので私からおれる。
やっぱ私は人間ができているね。
『カイリは良い奴だな~、契約したのがお前でよかったよ。』
私はアルで嫌だけどね。
話していると馬車が徐々にスピードを落としていき、ついに止まった。
「カイリさん着きましたよ、準備できていますか?」
馬車の外からクイードさんが声を投げ掛けてくる。
「はいっもうできてます。」
持っている荷物がないので準備もくそもないから、いつでも準備万端だ。
馬車からよいしょっと降りる。
馬車っていっても車を引っ張っているのは馬じゃなくて、羊みたいな巻き角をもった牛と馬の中間みたいな動物が引っ張ってる。
名前はカルバだって。
カルバ車はいいにくいので馬車でいいでしょ。
私も乗ってみたけど揺れが少なくて乗り心地さいこーだった。
移動中は割り当てられたこの馬車の中にずっといたのだ。
クイードさんの近くまで行くとアルビヤまでの道のりを説明してくれた。
「この道をまっすぐいけばアルビヤの町にでます。一本道なので迷うこともないでしょう、大丈夫ですよね?」
クイードさんが冗談っぽく皮肉を言う。
これ私は方向音痴とおもわれてるんじゃない?
全然そんなことないのに。
「はい大丈夫です。流石に一本道で迷うほど方向音痴じゃないです。」
ここで否定しておかないとずっと誤解されたままになってしまう。
「そうですよね。本当は町まで送って差し上げたいのですが・・・」
クイードさんは本当にすまなそうな顔で言う。
この事件の報告のために一度王都に戻らなきゃいけないらしい。
「いえいえ全然いいんですよ。というかお仕事があるのにここまで送ってもらって悪いというか。」
騙してるのにここまでしてもらって心苦しいというか。
「一般市民を助けるのも仕事ですので気になさらないで下さい。それとなにかありましたらアルビヤには王国軍の駐屯所がありますのでお気軽にお尋ね下さい。王国軍はいつでも市民の味方ですので。」
「わかりました。ホント何から何までありがとうございました。」
ペコリと頭を下げる。
「じゃあ元気でやれよ。」
ガルマンさんがハードボイルドっぽく言う。
「ガルマンさんもね、クイードさんも皆も。」
見送ってくれている皆を見渡す。
これで皆とお別れだと思うと寂しいな。
「ではカイリさんお互いの旅の無事を祈り、あなたに月姫の恵みがありますように。」
「皆に英霊王の御加護がありますように。」
これは別れるときにお互いの無事を祈って言い合う定型句らしい。
男性に言うときは英霊王の御加護を、女性に言うときは月姫の恵みを祈るのが決まなんだって。
英霊王というのははるか昔に魔王を倒したと言われている勇者で、月姫とは英霊王が愛した女性らしい。
これはガルマンさんに教えてもらった。
しれっと言ったけど内心結構恥ずかしい。
こういう洒落たこととか言ったことないからだろう
AさんBさんCさんは馬車から乗り出し見えなくなるまで手を振ってくれた。
最後まで優しいしいい人達だったな。
最後まで名前覚えれなかったんだけどね。
「じゃあ私も行きますか。」
皆と別れて歩くこと一時間。
さっきとまったく同じ風景が続いている。
いまだに町の影も形もみえてこない。
なんで?すぐ着くんじゃなかったの?
「ここから町までどんぐらいなの?」
『昼までにはつくんじゃないか。』
それを聞いて足を止める。
ちなみにいまは日の高さを見るかぎり多分9時ぐらい。
すぐ着くっていってたし、かかっても一時間ぐらいだと思ってたのにあと三時間もかかんの?
やっぱり昔の人?とは感覚が違うなぁ。
すぐというのは10分ぐらいの範囲でしょうよ。
『どうした?』
「・・・もう歩きたくない。」
『・・・お前ホントダメだな。』
アルはあきれてるけど、よく一時間も我慢したと思うよ?
自分で自分をほめてやりたいぐらいだもん。
『じゃあどうすんだ?魔法も使いたくないんだろ?歩くのもいや。それじゃあいつまでたっても町にはつかんぞ。』
「別に魔法は使いたくないわけじゃないよ、アルが変なのばっかり教えてくるから嫌なの。」
『じゃあ普通のやつを教えてやるよ。俺は町へ早く行きたいんだよ。』
ホントに呆れ顔で言う。
これなら大丈夫だろう。
「じゃあお願い。」
『いくぞ、構えろ。』
「オッケー。」
前と同じように右手を突き出し手首を左手で掴む。
もう何回もやったから慣れたもので、アルに続いて間髪入れずに復唱する。
「術式展開!!」
手の前に魔法陣が展開する。
今度のは白だ。魔法毎に魔法陣の色が違うみたいだ。
「嵐座の公爵よ、契約に従い我が身に彼の使いの翼を宿せ」
「嵐の翼」
詠唱し終わると背中の方に光が集まり始める。
その光が集まり少しずつ形を形成しはじめ、最終的に純白の翼が私の背中に構成される。
ちょっとその場で回ってみる。
ヤバいかなり興奮してきた。
これもしかして天使?
『この魔法はビジュアルが可愛いって知り合いの魔術士の中でも人気が高かった。どうだ?これなら良いだろう?』
「うん・・・いいよこれ・・・すごくいい。」
これは素でいいと思う。
意識を背中に集中すると翼が動く。
腕を動かすような感じでなはく頭の中で翼が羽ばたくイメージをするとそのように動く。
肉体的にじゃなく精神的に操作するみたいだ。
「いい魔法知ってるじゃん。最初にこういう魔法を教えてくれればよかったのにね」
『まぁそう言うなよ。じゃあさっさと行こうぜ。』
翼をはばたかせて木の頂上を越すまで一気に飛び上がる。
これで飛ぶのは二度目だ。
ドラちゃんに乗ってたのとは全然違う感覚。
何かにのって飛ぶのと自力で飛ぶのとでは全然違う。
この独特の浮遊感がくせになりそう。
高くまで上がって辺りを見回すと、遠くの方に爆発の跡が見えた。
うわー見れば見るほどほどやばいんじゃないかな?あれは。
ここからでも見えるということはかなり広範囲が荒れ地と化しているのだろう。
あの時は近くにいすぎて大きさがわからなかったけどここからだとよくわかる。
・・・私のせいじゃない。
よしっそうしとこう。
もう忘れちゃえ。
『おいどっち向いてんだ、町はあっちだぞ。』
「はいはい、あっちね?」
言われたほうを見るとはるか向こうに建物の集まりが見える。
かなり遠い。
あー絶対歩いていくのムリだったなー、あの距離は絶対ムリ。
「よっしゃー飛ばすぞー。」
頭の中で大きく羽ばたくイメージをするとどんどん羽ばたきが大きくなり加速していく。
風がすごく気持ちいい。
どんどん速度があがっていく。
このままならすぐにつきそうだ。
翼ど飛ぶこと数十分、
私はすぐそこに町がみえるところまで来ていた。
歩いていったら数時間の道程も、飛んでいけばたった数十分で行けた。
さっきまでの努力プライスレス(無駄)。
天使の翼での飛行はホントに快適だった。
羽ばたいても身体が疲れることはないし、むしろ風のおかげで安らいでるんじゃないかと思ったぐらいだった。
ここから見える町の雰囲気は中世ヨーロッパって感じ。
そういえばアルの城もヨーロッパ風だったし、この世界の文化は中世ヨーロッパぐらいのものなのだろう。
町はぐるりと3メートルぐらいの外壁で囲まれ、中心にある大きめの広場を起点に放射状に十本の通りが広がっている。そのうちの一つと城壁が交わるところに門がある。
道が放射状になっているのもヨーロッパ建築の特徴で、パリとかもこうなっていたはずだ。
奥の方には門に近い家よりもかなり大きめの家が立ち並び、最奥部にはそれらの建物より一際大きな屋敷がみえる。
あの辺は有力者が住んでるのだろう。
その家と門を結ぶ通りが最も広い、メイン通りだろうか、人通りも激しいし。
『そろそろ降りたほうがいいぞ、町の人間に見られたら面倒だろ。』
町を観察しているとアルに忠告を受けた。
「大丈夫でしょ、上を見上げてる人なんかいないって。」
なにより歩くのがしんどいからぎりぎりで降りたいんだよね~
アルの忠告を無視して門のすぐそばで降り、魔法を解除する。
解除は簡単で、消えろと思ったらぱっと光に変わって消えた。
門の前までいくとやっぱ大きいなと思う。
門は鉄製で丈夫そうだ。
まぁドラゴンがいるぐらいだからこんぐらい厳重になるんだろう。
門はしまっているので開けてもらうしかないだろうと思い声を張り上げた。
「ごめんくださ~い。」