第六話
クイードさんに抱えられ運ばれること数十分、隣で笑いまくるアルの嘲笑に耐え、今はクイードさんの隊の野営地で割り当てられたテントの中でくつろいでいる。
テントはキャンプで使うような三角形の深緑色だ。
大きさはだいたいワンルームぐらいでかなり大きい。
中は風も入ってこないし快適なんだけど・・・きまずいなぁ~。
テントの中には私一人だけだから中の人と会話が合わないってわけじゃない。
まぁアルがいるんだけどこいつは人数にカウントしない。
そういうことじゃなくてなぜか隊員の人にバレバレの覗きをされているのだ
「あれが隊長がベタぼれしてるっていう娘か,なかなか可愛い娘じゃねーか。」
「その話マジなのか?あの堅物の隊長だぜ?」
「あぁ,マウロさんが間違いねぇってさ あの人が言うなら間違いないだろ。」
テントの入り口を半分ぐらいめくって覗き込んでいる。
この人たちは隠そうっていう気がないのかな?
『なんだあいつら?吹き飛ばすか?』
「しないわよ,そんなこと。」
「あの~なにかご用ですか?」
視線に耐え切れなったので入り口から頭をだし自分から話し掛けた。
あのままでいれるほど私の心臓は丈夫じゃないんです。
「名前なんてゆーの?」
「どこ出身?彼氏いるの?」
突然でてきた私に面食らったいたがすぐに持ち直し質問攻めにされた,
なにがそんなにめずらしいのやら。
「やめねぇか,お前等。」
隊員さんの後ろからぬっと出てきたのは・・・
たしか・・・ガルマンさんだったかな?
で,ガルマンさんが隊員さんの首根っこをつかみ私から遠ざける。
「は、放せよ,ガルマン。お前の女じゃねーだろうが。」
「お前のでもないだろ。それにこいつは民間人だ。さっさと持ち場に戻れ,隊長にいいつけるぞ。」
そう言われた隊員たちはぶつくさ言いながらばらばらと去っていった。
「悪いな,バカばっかりで 。この隊は男所帯だから女が珍しいんだ。ほら飯だ。」
いい香りのする料理が入っているおぼんを差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。」
おずおずとおぼんを受け取りながらガルマンさんの顔を見つめる。
「どーした?俺の顔になんかついてるか?」
「いえガルマンさんは意外といい人なんだなと思ってただけですよ。」
「アホなこと言ってねーで早く食え,冷めちまうぞ。」
ほらやっぱいい人だ。
「じゃあ頂きます。」
スープ的なものを口に運ぶ。
「・・・おいしい。」
一口食べると口いっぱいにいろいろな野菜の風味が広がる,すごくおいしい。
初めて食べる料理だ。
テントから上半身だけひょこっとだしながら食べる。
行儀悪いとか言わないでしかたないのよ。
立てないんだもん。
食べ始めると手がとまらない。
そういえばこっちの世界に来てから飴一個しか食べてなかったことを思い出した。
そりゃ手もとまらないよ。
手を休めずご飯をかきこむ。
空腹の限界だったらしい。
「どんだけ腹減ってたんだ、お前。」
ガルマンさんが呆れたようみ私をみる。
しょうがないじゃん。
「それもありますけどこれがおいしいからですよ,ホント。」
食べながら返事をすると口に入れたまましゃべるなと怒られた。
「ごちそうさま~。」
いや~ホントにおいしかった,一気に全部食べちゃったよ。
「早いな,もう食い終わったのか。」
ガルマンさんは隣に座ってタバコをふかしている。
「いや~おいしかったもんでつい。・・・なんか慌ただしいですね?」
さっきからテントからテントへ走る人がけっこう目に入る。
「そりゃあんなことがあったん, 今うちの隊はてんやわんやだ。」
「あんなことってなんですか?」
まぁだいたい予想ついてるけど
「山の中で爆音が聞こえただろ?お前がいたところの近くの湖が辺り一帯ごと吹き飛んだんだ。」
ハハハやっぱりね
「信じられんだろ?俺も今だに信じられんのだ,あんなことできる人間がいるとは信じられん。」
ガルマンさんの顔色が青くなり冷や汗が顔をつたう。
それやったの私ですごめんなさい。
冷や汗が全身から吹き出してきた。
私ばれたらどうなるんだろうか?
「それに魔法痕がまったく見つからないって大騒ぎになってんだ。こんなことは初めてだな。」
魔法痕というのは名前の通り魔法の痕跡のことで説明を聞く限り指紋みたいなものらしい。
それを調べると、いつ、どのように、何の魔法が使われたかがわかるんだとさ。
それに魔法を使ったら必ずできるもので限りなくみつかりにくくすることはできてもなくすことはできない。
だから魔法痕がないことは大問題らしい。
つってもアルの言うとおりに魔法使っただけなんだけどな~
あとで問いただすか。
「まぁお前は心配しなくていいぞ,何があろうと民間人のお前は俺達が守ってやる。それがアストリエル王国軍だからな。」
ガルマンさんがものすごくいい顔でかっこいいことを言う。
やめて~なんかすごい悪いことをしてる気分になるから。
そんな優しいセリフを言わないで~。
顔を直視できず目をそむける。
「?どうかしたか?」
罪悪感にさいなまれてるんですよ
「いやなんでもないですヨ」
「なんで急に片言になる?おかしいぞ?」
「いやいや気のせいですよ」
「そうか?ならいいが」
そう言った後なーんか変な沈黙が流れ・・・
「さっきはすまんかった。」
ガルマンさんは突然立ち上がり九十度越えるぐらい頭を下げる。
「や、やめて下さい。」
いきなりなにするのこの人?
「民間人に剣を突き付けるなど兵士としてあってはならんことだ,本当にすまないこと・・・」
なおも頭を下げたままで謝り続ける。
なんかこっちが悪いことしてる気分になるからやめてほしいんだけど・・・
「気にしてませんから頭を上げてください。」
「そう言ってくれるとありがたいがそれではこちらの気持ちが・・・なにか俺にできることはないか?」
『罪滅ぼししたいって言ってんだ。お言葉に甘えればいいだろ,無理難題ふっかけてやれ。』
いつのまにか横に来ていたアルが悪い顔でささやく。
私はどこの悪女だ。
困ってることはいろいろあるけど言えないことばかりだしなぁ。
でもガルマンさんはなにか言わないと頭を上げる気はなさそうだし。
そーだ
「じゃあいくつかの質問に答えてくれませんか?私今分からないことが多くて困ってるんです。」
「そんなことでいいならいくらでも答えよう,ただし軍事機密に関しては答えんぞ。」
「そんなこと興味ないから大丈夫ですよ。それと私が聞いた質問を誰にも言わないで下さい,質問もなしで。それでいいですか?」
「もとから口外する気はない。」
「じゃあまず一つめ・・・」
「こんなとこですかね。」
私が聞いたのは今私がどういう状況にいるかを知るための材料。
現在地や魔法についての常識とかだ。
アルにも聞いたんだけどやたらめったら難しい言葉を使ってくるのでさっぱりだった。
「なんでこんなくだらない事聞くんだ?お前は一体・・・?」
「質問はなしって言いましたよね?」
「うっ。」
「わかった,もう何もきかん。」
「やっぱガルマンさんはいい人ですねぇ~。」
「やめろ いい人とか言われると寒気がする。」
大げさに身体をふるわせる照れているのがまる分かりだ。
「さて俺はそろそろ持ち場に戻る。お前はさっさと寝ろよ,歩けないほどつかれてるんだろう?」
「言われなくてもそうしますよ,お腹いっぱいになってから眠くて眠くて。」
「じゃあな。」
おやすみなさいと言いつつもぞもぞとテントに戻る。
『話は終わったのか?』
アルがぷかぷかこっちに来て話しかけてきた。
アルは話している途中でつまらない,といってテントに戻ったのだ。
「まあね,なかなかためになったよ。」
『ふ~ん,それはよかったな。』
テント内をふ~らふらしだす。それを見ながら,ふと思った。
「あのさーなんでみんなあんたのこと無視すんの?クイードさんとかガルマンさんとかがっつり目に入ってたでしょ?」
そういえばずっと気になってたんだよね。
『あいつらには見えてないからな。』
いやいや私の隣であんなに高笑いしてたりしてたじゃん。
あれが目に入らないってどうよ?
『俺は今いわば霊魂の状態だからな,肉眼で見えるわけないだろ。お前以外なら特殊な魔法を使わないとみえんぞ。特に霊感が強い奴なら見えるかもしれんが・・・』
言われてみればそれもそうだな~。私も幽霊は見たことないし。
じゃあ私がアルと話しているのが誰かに見られたら一人でぶつぶついってる危ない人に見えるわけか。気を付けよう。
『加えて触れるのもお前だけだ。』
実体もないんだ。
「魔法は使えるの?」
『使えたらここを更地に変えている。うさばらしにな。魔法を使いたい場合はお前に頼んで代わりに使ってもらうしかないな。』
じゃあ俺はもう寝るわ,と言ってからすぐ鼻ちょうちんをつくりはじめた。
一応寝る必要あるんだな~霊魂って言ってのに。
私ももう寝よっと。疲れてるし。
毛布をかけ目をつむる。
思えば今日はいろいろあったな~。
異世界に飛ばされ、ドラゴンに乗って、魔法を使った。
一番アレだったのはアルだけど・・・
今日だけで日常の一月分ぐらいの濃さだったな~。
そんなことを考えながら異世界一日目は終わった。