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第十七話


『カイリ』


突入前にアルがまじめな顔で呼びとめる

らしくない顔してどうしたのさ?


「どうしたの?」


『突入する前に一つ聞かせろ。

お前はなんであのガキ共のためにここまでしてやるんだ?まだ出会ってから三日ぐらいしかたってないだろう』


「ん~別に」


『別に?』


「だって特に理由があるわけじゃないもん。

しいていうとしたらあの二人にもっと笑ってほしいからかな

特にエレナちゃんは笑顔が似合うからね」


『それだけか?』


「いや他にもあるけど・・・」


『言え』


「・・・なんで?」


『気になるからだ 気になって集中できん。言え』


「え~どうしても?」


『どうしてもだ 言わないなら俺は帰るぞ』


「それは困るよ う~聞いても面白くないんだけどな」


「私さ親いないんだよね」


私には実の親がいない

いま私を育ててくれてるのは本当の父さんと母さんの親友で子供がいなかったので私を引き取ってくれた

二人には感謝してるし大好きだけどやっぱりどこか本当の両親とは違う


『・・・で?』


「いや・・・で?っておかしくない?もっとなんかあるでしょ?可哀想だなとかさ」


『そんなこと知るか 俺も親はいなかったがそんなこと思ったことなかったしな。

それでお前に親がいないのと何の関係があるんだ?』


「私親はいなかったけど親みたいに頼れる人はいたの。

だからあの二人にもそういう人がいてもいいんじゃないかなぁと思ってさ,私がそうなれたらいいなと思って」


『・・・らしくないセリフだな』


「だから言いたくなかったんだって」


『ふっ,俺もらしくないこと聞いたな。

さっさと始めようか』


「オッケー」


「術式展開!!」


「蝕戯の伯爵よ 契約に従いまどろみを与え羊たちを深き夢に誘え」


星たちの眠りし夜シュエーノ・エストレラ・ノッチェ


魔方陣からでてきた靄とも霧とも言えないものが屋敷全体を包み込む

これを吸い込んだ者はすっごい眠くなるのだ



『うまく連鎖魔法陣も作動してるな 問題なしだ』


上から見ているアルが満足そうにつぶやいた

連鎖魔方陣っていうのは魔法の威力をあげるために強化用の魔方陣を一緒に発動させることだ

昼に潜入したときにいくつか仕掛けといた


「こっから見てわかるの?私さっぱりなんだけど」


『魔力の流れを感じてみろ,そうすればよくわかる』


よくわからないがとりあえず目を凝らして見てみる

存在は感じられるが,かすんでいるように明確には感じ取れない


「魔力ねぇ,ぼんやりとなら感じるんだけど」


『もう少し魔法になれたらわかるようになるさ』


魔力を感じ取るのには経験が何より大事らしく,今は考えてもどうしようもないので,屋敷へと向かった








「おじゃましま~す」


屋敷の中に顔だけを入れ反応を少し待ってみるけど物音一つしない


『俺の術式を信じろ,誰も起きちゃいねぇよ』


「はいはい。わかったわよ」


アルにせかされるままに屋敷の中に入る

疑ってるわけじゃないんだよ

念のためってやつよ


し~んとしてるなー

安全なんだろうけど不気味で怖いよ


「この魔法はどんぐらい持つの?急いだ方がいい?」


廊下を歩きながらアルに質問する

継続時間によって捜索時間を変えなきゃいけない


『連鎖魔法陣で発動しているから急ぐことはないな。何事もなければ朝まで大丈夫だろう』


「じゃあゆっくり捜すかな

どこから捜そうか?やっぱヴィラの執務室かな?」


『普通に考えればそうだろな』


アルの同意も得られたことだしヴィラの執務室をめざす

執務室の場所は昼に来たときにアルが調べててくれたので案内してもらう


途中に警備の兵士が倒れていて少し驚いた

完全に爆睡していてつついてみたけど起きなかった





「ん~ ないな~」


執務室にあった机の引き出しをあさる

鍵がかかっていたけどブッ壊して開けた

祝福されし躯ベンディト・ハーゴ・クエーポ】を使っている私にはこんなもの意味ないぜ~

ブハハハハ

なんつって


それにしてもなかなか見つからないな~

いったいどこに隠してるのよ~

何枚か書類を引っ張りだし読んでみる

えっと、これは・・・女性がドキッとする百の方法

なんじゃそりゃ

昼は思わなかったけどヴィラってバカ?






『カイリ3rdティシオを使え!!』


引き出しの書類と悪戦苦闘しているとアルが突然叫んだ


「3rdティシオ


よくわからないままに言われたまま3rdを発動する

何があったのかアルに聞こうとふりかえると目の前に手投げナイフが飛んできた

あまりに突然の出来事に体は硬直し動くことができない

ナイフが私の眉間に真っすぐ飛んでくる


が、ナイフが私に刺さることはなく、体から数センチのところで止まり、カランという音をたて床に落ちた


あぶなー

アルが叫ばなかったら刺さってたよ




圧縮登録3rdティシオ:【不可侵の領域ドミニオ・インヴィオラ


対象の周囲に防御膜をはり対象に対するあらゆる打撃攻撃、魔法攻撃を無効化する

一見完全無敵の魔法だが使用するには大量の魔力を消費するためあまり長い時間使い続けることができない

アルいわく普通の魔術士では発動させても数秒しか維持し続けられないらしく欠陥魔法とされ誰にも使われていないらしい

私は普通では考えられないほどの魔力を持っているらしいけど、それでも10分もすれば魔力が枯渇するだろう

今もすごい勢いで魔力が吸われていくのが分かる




ナイフが飛んできた方向に目をやると一人の男が闇の中にいるのがかすかに見えた


アル・・・誰も起きてないって言ったよね?

ジト目で見るとアルは目を逸らし言い訳を始めた

『まさかあれが効いてないとはな。こいつなかなか強いぞ』

星達の眠りし夜シュエーノ・エストレラ・ノッチェ】は使い方が一人に対し使う限定範囲仕様と今みたいに一定範囲内の全員に使う広範囲仕様の2つあり,今回使用した広範囲仕様のほうは一人一人に対しては効果が薄くそれなりの実力があれば防ぐこともできるらしい

それでもアルの術式を防ぐことができるということはかなりの実力者に違いはない

油断はできない

この男はヴィラが言ってた用心棒に間違いないだろう



不可侵の領域ドミニオ・インヴィオラ】で守っているといってもあたれば衝撃が伝わってそれなりに痛いのだ

避けるに越したことはない


「わざわざ屋敷全体に魔法かけるから久々に面白そうな奴が来たかと思ったら娘っ子かよ。つまんねぇな~オイ」


男はそういいながら腰に携えていた両刃の剣をゆっくりと引き抜いた

シュルルルと鞘とこすれて音が聞こえる

音に一切の淀みがないのでよく研いであるのだろう

あれで斬られたら痛そうだな~


「頼むから少しは楽しませてくれよ~オイ」


言いおわると同時に私に向かって飛びかかってくる


速い


強化した私と同じかそれよりも速い

それほどのスピードにのったまま剣を勢いよく右側からなぎ払ってくる

とっさに腕をそちらにやり防ぐような姿勢をとるが、先ほどのナイフと同じように体から数センチのところで剣はとまった

剣は当たってないけど衝撃が腕に伝わる

棒で殴られたみたいに痛い

不可侵の領域ドミニオ・インヴィオラ】を使ってなかったら真っ二つになりそうなほどの威力だ


「っ!?」


今の一撃が止められたのが信じられなかったのか男が目を見開き動きが止まる

この隙に私が反撃に移ろうと体を動かすと攻撃する前に距離をとられた


「今のを防ぐとはな。なかなかやるじゃねーか」


『当たり前だ。今ぐらいの威力なら何万発撃っても傷つけることすらできねぇよ,バーカ』


何万発もきたらさすがに体が持たないよ

それにアルの声はあっちには聞こえないんだから言い返しても無駄だって


「今度はこれを防いでみろっ!!」


さっきよりも速く鋭く、私の頭を目指して振り下ろす

だけど結果は同じ

右手をだし衝撃に耐える

剣は私の目の前で止まりそれよりも前に進むことはない

今度はこのすきを逃さない

私は男の胸に左手の人差し指をつけ唱えた


「2ndセグンド


人差し指から真紅にそまった炎の矢を男に向かって放つ


しかしゼロ距離射撃だったのによけられた

あの距離でよけるとは・・・この男本当に強い


圧縮登録2ndセグンド:【真紅の矢フレィチャ・カーメイス


矢の形を模した炎のかたまりが術者の指定した方向に飛んでいくという単純な魔法

ほとんど全ての魔術士が使えるというぐらいの初級魔法らしい



『なにぼさっとしてるっ!!頭を下げろっ!!』


「へっ?うわっ」


アルの声で思考を止めまわりを見ると男が首を狙って斬り掛かってきていた


それを紙一重でかわす

首を剣で斬られたら【不可侵の領域ドミニオ・インヴィオラ】があっても呼吸できなくなるか意識を失う

そうなったら確実に殺される


しくったなぁ~

こうなガチバトルするために来たんじゃないんだけどな


(どうしよっか?)


『俺の言うとおりに動け 危なっかしくて見ておれん』


(こんなガチバトル生まれて初めてなんだからしょうがなくね?)


『攻撃も俺が指示する 指示した方向に【真紅の矢フレィチャ・カーメイス】をぶっ放せ』


(りょーかい

じゃあナビよろしく)


アルの声を便りに男の剣撃をよける

アルの指示は魔方陣を描くときよりも分かりやすく単純明快で動きやすかった


「2ndセグンド


たまに相手の攻撃に合わせカウンターのように【真紅の矢フレィチャ・カーメイス】を撃ち込む

最初は簡単に避けられていたが徐々に男の服にかするようになっていく

アルのタイミングがよくなっていってるのか私が慣れてきたのか男が疲れてきたのかはわからないが徐々に男と矢の距離が縮まっていく

そして服にかするようになっていき体にかするようになっていった

この男は強い

でもアルのほうが強い気がする

アルは男が剣を振る前に私に伝えてくる

それを私が聞いてから行動してでもよけきれるほどに相手の動きの先を予測しているのだ

アルが実際に戦ったら勝負にもなりそうにもないな

それでも矢が当たらないのは私が悪いのさ


ベキッ


「ぐわっ」


十発撃ったかどうかというところでついに矢が男の腕に当たり骨が折れた音が聞こえた

炎が皮膚を焼く嫌な臭いもする


男は剣を杖のように持ち膝をつく


「このまま続けてもあなたに勝ち目はないわ。このまま立ち去りなさい」


当たったのは利き腕ではなさそうだが両手で振るっていた剣だ

片手ではさっきよりも威力,速度,共に落ちるだろう

これ以上戦ってもあっちには勝ち目はない


それに当たれば骨が折れるほどの威力だ

当たりどころが悪ければ死ぬことだってある

さすがに殺しはしたくない

立ち去るように言ったのはそれが理由だ

あまりここで戦い続けて警備に取り囲まれるのも困るし


「バカいってんじゃねぇぜオイ

やっと楽しくなってきたところじゃねぇか

もっと愉しもうぜオイ」


男は不気味な笑みを浮かべ,剣を構えた

強がりではなさそうだ。本当に楽しんでるように見える


こわっ

変態だ


『こいつかなりの戦闘狂だな。これ以上説得しても意味ないと思うぜ

戦闘狂の奴らはどんなに痛め付けても戦うのをやめない・・・というよりヒートアップしていく

逃げるか気絶させるか殺すかとどれかだな』


気絶させる一択じゃないっすか


どうするか考えていると男が斬りかかってきた

やはりさっきよりも弱い

これならアルの声がなくても避けれる


「2ndセグンド


限界まで力を抑え【真紅の矢フレィチャ・カーメイス】を放つ

矢は男の腹を完全にとらえた

矢は男とともに壁をいくつも突き抜け屋敷の外に消えていった

かなり力を抑えて放ったからまぁ死んではないでしょ


あ~疲れた

不可侵の領域ドミニオ・インヴィオラ】を解除する

5分ぐらい発動させてたかな?

体中重いな~【祝福されし躯ベンディト・ハーゴ・クエーポ】の副作用が可愛く感じるよ

これはあんまり多用できないな






邪魔者が消えたので物色を再開する

いくらか捜したが目当ての物は机からは見つからなかった


机にないってことは・・・金庫?

部屋を見渡してみるがそれらしき物は見つからない


壁にかけてあった絵を片っ端から外していく

コ○ンとかだとこういうところに隠し金庫があるんだよね~

お、あったあった


金庫も机と同じように力任せに引っ張って鍵を壊す

念のために【祝福されし躯ベンディト・ハーゴ・クエーポ】は発動中なんだよね


中には目当てのものがしっかりと入っていた

よしこれで後は・・・


バンッ

執務室のドアを勢い良く開けて入ってきたのはヴィラだった


「貴様っ!!ここで何をしているっ!!」


なんで起きてるのさ~

アルを見ると

『あんだけ騒いだんだ。そりゃ皆起きるだろ』と,言った

耳を澄ますとあちらこちらで騒いでるのが聞こえた

こりゃ皆起きてるっぽいな


どうやら【真紅の矢フレィチャ・カーメイス】で火事が起きてるみたい

あんだけ炎の塊っを撃ったんだ

火事になるのは当然か


ヴィラだけここに来たのはさっき私が見つけたこれが目的だろう


ヴィラが1人なのは皆が火事のほうにいってるからなのか,

それともこれを誰にも見せたくないから1人で来たのか,どっちなんだろうね


ヴィラが開いている金庫と私が持っている書類を見て顔色が一瞬で青くなる

いい顔してるよ,テオ君に見してやりたいくらいだよ


「それをかえせっ!!」


ヴィラが必死の形相で向ってくる

そういや腕に自信があるって言ってたな

念のために【不可侵の領域ドミニオ・インヴィオラ】を発動させた方がいいかな?


まぁその心配は杞憂だった


ヴィラはちょー弱かった

何を持って自信があったのかわからない

こないだ絡んできたチンピラより弱いんじゃないかな?

今は気絶させて床に転がしている


さて目的の物は手に入れたし後はこの屋敷を潰すだけ~


そのまま執務室の椅子に腰掛けアルと雑談しながら屋敷の中から人の声が聞こえなくなるのを待つ


しばらくするとドアの向こうが火の海になっていた

そろそろいいか

さすがにまだ屋敷の中にいる変態はいないだろう



このままほうっておいてもいつかは燃え尽きるだろうけど崩れたほうが派手だと思うので屋敷の中心付近の壁や柱を全て破壊する

「こんなもんかな?」

『上出来だな。そろそろ脱出したほうがいいぞ,屋敷全体がギシギシいいはじめた』


それはさすがにやばいと思い見つからないように注意しながら脱出する

ヴィラを忘れないようにしないと




ヴィラを屋敷で働いていた人たちの近くに捨て,最初に位置どっていた屋根に戻り屋敷を観察する


「いやーよく燃えてるね。あ,見て見て。あそこにヴィラとか屋敷の人がいるよ」


ヴィラは屋敷の人に起こしてもらったらしい


『皆呆然としてるな。当然と言えば当然だがなんか笑えるな』


「そうだね,アハハ」


アルと二人で笑う




『そういえばお前何捜してたんだ?』


「アルさー,話聞こうよ。さっき作戦説明するときに言ったと思うんだけど」


『そうだっけか?覚えてない』


「はぁ~,私が捜してたのはヴィラの不正の証拠。たぶん他にも悪いことしてるんじゃないかと思ってさー。ま、案の定やってたわけだけど」


金庫から持ち出してきた数枚の書類をピラピラと振る


『そんなもんどうすんだ?』


「とりあえずここの領主様に提出しようかなーと思ってるの。マジメで市民のことをよく考えてくれてるって評判だからさ。無視することはしないでしょ」


領主様はちゃんと法律にもとずいて裁きを下すだろう

屋敷だけ潰してもまた新しい屋敷が建てられるだけ

ヴィラは痛くもかゆくもない

でもこれがあれば社会的にも抹殺されるわけだからあいつの人生はここでしゅーりょー


これにて復讐は完了

さー宿に帰って寝よ






「おい見たか?ヴィラ様の屋敷」


「見た見た 深夜突然火の手があがって倒壊したんだろ?ざまあみろって感じだよな」


次の日の朝,町の噂はこの話でもちきりだった


「・・・カイリ」


「どうしたの?テオ君?」


「これ・・・もしかして・・・」


私は笑みを浮かべ


「さぁね」


と,言った


テオ君はそれで全てを理解したのか,私に小声で「ありがと」とつぶやいた


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