第十五話
「・・・だるい」
どうしようもなく体がだるい
『昨日五回も儀式したうえに【祝福されし躯】も使ったからな。お前の体力じゃ1日では回復せんだろ』
アルにだるさの理由を説明されるけどそれじゃ楽にならない
部屋でゴロゴロしたいけどいくって約束しちゃったからな~
「なんか疲れがとれるような魔法ないの?」
『外傷を治す魔法ならあるけどな
お前の疲れは魔力の使いすぎによるものだからムリだな
魔力を回復させるような都合いい魔法あるわけないだろ』
あるわけない、か
確かに魔力を使って魔力を回復させるなんて魔法あったらおかしいね
石油を使ってより多くの石油を作るみたいなもんだもんね
ありえないね
エネルギー問題一挙解決だもんね
「そういやーさー、テオ君やエレナちゃんの耳ってどうなってんの?」
だるさはどうにもならないので少しでも紛らわすために質問をした
昨日いろいろあって聞くの忘れてたんだよね
ピクピク動いてたしコスプレじゃないみたいだったけど
『あいつらは獣人という種族だ』
獣人・・・またファンタジーによくでそうな・・・
『脳ミソが足りてないお前にもわかるように説明してやるとだな・・・』
一言よけいだっつーの
『この世界には人間という種族以外にもいくつかの種族がいる。その一つが獣人だ。獣人といってもほとんどが人間との混血で違いといったら耳や尻尾があるぐらいだな。種族間の問題は話すときりがないからな、その辺の事や他の種族のことはまた他の機会に教えてやるよ』
こういう疑問にすぐ答えてもらえるのがアルの唯一の利点かもしれないね
「弟子にしてください!!」
「は?」
家に行くやいなやテオ君が弟子にしてくれと言い出した
何なの?
「俺に魔法を教えてくれ!!」
どうすればいいのかな?
とりあえずいえることは・・・
「ダメ」
「そんなこと言わずに頼む」
「ダメなものはダメよ」
第一教えられるほど詳しくないし
どうやら昨日帰りぎわの魔法を見て私に魔法を教えてもらおうと決めたらしい
スリをやってたのも魔法書を買おうとしていたからなんだってさ
「教えてくれると言ってくれるまで何度でも言うぞ!!魔法を教えてくれ!!」
「じゃあ私も何度でも言うわ、ダメよ」
しつこいなーもう何十分もこの繰り返しだよ
「なんでだよ、昨日手を貸してやるっていってくれたじゃねぇか!!」
ついにテオ君がキレた
逆ギレじゃん
「私が手を貸すっていったのはそういうことじゃないの。あーもういい今日はもう帰る。明日またくるからそれまでに頭冷やしときなさい」
玄関のほうへ足を向ける
「待って、待ってくれ。いや待ってください。もうお前しか頼れる人がいないんだよ」
テオ君が足にしがみつき駄々をごねる
「は~な~せ~」
前へ進もうとするけど進めない
十歳と力比べで負けてる私って一体?
必死の思いで玄関までたどり着いたけども体力の限界を迎えてしまった
しゃーないなぁ
「わかった、わかったからとりあえず手を放して」
「・・・魔法を教えてくれるのか?」
「考えてあげる」
・・・
納得がいってないようだけどテオ君が手を放してくれた
このまま逃げようかなとも思ったけどさ~すがにひどいか
「そもそも何で魔法がいるのよ、別に魔法なんかなくったって暮らしていけるし、生活に使うものならお店で売ってあるでしょ」
部屋の中央にあるテーブルの椅子に腰掛けテオ君に話しかける
この世界では料理などをするときには魔法を使うのが主流だ
モンカティーニ・テルメみたいに料理の味にこだわっているところとかは手作りするけど一般家庭では魔法で作る
魔法具店で売っている魔法調理用のレシピを買って、材料をレシピの上にのせて発動させれば勝手に料理ができる
レシピというのは魔術士があらかじめ魔力が込めて魔力がない人でもその魔力がつきるまで使える調理用具で魔水晶の一種らしい
アルが魔法が使えるのが普通のように言うから勘違いしてたけどこの世界で魔法を使える人は多くない
この10日でも数えるほどしか見なかった
それも旅人ばかり
私はなぜか普通に使えるけど魔法を使うには特殊な技能がいるらしい
特別に訓練された特殊な技能がね
そう考えると私が魔法を使えるのがおかしいけど今はそれは大事なことじゃない
魔法を使いたいテオ君が私に弟子入りしようとするのは間違った考えではない
特殊な技能を得るならその技能を持ってる人に弟子入りするのが一番だからね
だけど町で普通に暮らしていくのに魔法は無用の長物のはずだ
現に町の人は誰も使えないんだし
魔法を使えないと就けない仕事もこの町ではたいしてないだろう
魔法がいるのは生きていくためではない
他に考えられる理由は・・・功名心?
でも孤児で身寄りのないテオ君が少し魔法を使えたぐらいで名誉職につけれるほど甘くないだろう
とすれば・・・
「・・・復讐か」
「え!?なんでそれを!?」
図星かよ
この子は嘘つけないね
いいとこといえばいいとこだけどもうちょっと嘘をつけたほうがいいと思うよ
『復讐ねぇ、ろくなことになりゃしねぇぞ。やれば修羅の道にまっしぐらだ。俺の昔の友達も復讐に狂った奴が何人かいたが皆ろくなことになっちゃいねぇ』
・・・アル友達いたんだ
そっちのほうが驚きだよ
ともかく私も復讐は反対だな
せっかくスリをやめさせたのにここで復讐の道なんか歩ませてたまるか
「どんな理由があるか知らないけど復讐のためには魔法は教えられない。復讐は新たな復讐を生むし、もしあんたに魔法を教えて復讐に成功したとしてもその復讐としてあんたもやられる」
「死ぬのなんか怖くねぇ!!あの野郎に一指報いれるんなら死んでもいい!!」
「死ぬなんて軽々しくいうんじゃないよ
昨日二人で頑張っていくって私に言ったよね?あれは嘘だったの?」
「そ、それは・・・本当だけどさ」
「エレナちゃんはどう思ってるの?」
エレナちゃんは隣で黙って話を聞いていた
テオ君とはもう話をしていたのだろう
復讐の話を聞いても反応しなかったし
「やめてほしいですけど・・・テオ君はもう私の言うことを聞いてくれなくて・・・」
説得しなきゃいけないのはテオ君だけか
「で、だれに復讐するつもりだったの?」
「話きいてくれのか?」
説得するには話をよく聞いとかないといけないし
「さっき話聞いてあげるって言ったじゃん。約束は守るよ」
「俺が復讐したいのはこの町の領主の息子だ」
「大物狙いじゃん。なんで?」
「・・・姉ちゃんがそいつに殺されたんだ」
・・・
思ってたよりヘビーな理由があったのね
「姉ちゃんっていっても義理の姉ちゃんだけどな。赤ん坊のときに本当の親に捨てられた俺達を拾って育ててくれたんだ。すっげー貧乏だったけどなんとか暮らしてたんだ」
「そのお姉さんと領主の息子との間に何があったの?」
町で最上位の権力者と最下位の貧民との間に接点なんかなさそうだけど
「わかんねぇよ。五年前、突然あの野郎の部下に姉ちゃんがいきなり連れて行かれたんだ。俺達はまだ七歳で泣くことしかできなかった」
「そのままお姉さんは帰ってこなかったのね」
「違う。連れ去られて二週間ぐらいして姉ちゃんが帰って来たんだ、見違えるほど衰弱してな。そのまま3日もしないうちに姉ちゃんは死んだ」
なるほどね
私もそんなことがあったら復讐したいって気持ちになるね
領主の息子か、どっかでその話聞いたような
あ、そういやおばさんが女ぐせが悪いって言ってたような
「そのお姉さんって美人?」
「カイリよりは段違いに美人だったよ」
・・・
テオ君に間接をきめながら考えを巡らす
美人だったといいことはそういう目的で連れ去られたんだろうな
あんまり考えたいものではないけど
『その考えは間違ってないだろうな。権力を持ったゲス野郎が考えそうなことはそんなもんだ』
また心読んだわね
「事情はわかった」
「じゃ、じゃあ・・・」
「それとこれとは話が別、魔法は教えません」
「なんでだよ!!」
テオ君が意味分かんねぇよと吠える
「あなたたちのお姉さんが最後に願っていたのは自分の復讐をあなたたちにしてもらうこ
とじゃなくてあなたたちに生きて幸せになってもらう、ただそれだけよ。お姉さんの気持ちを汲むなら私が魔法を教えるわけにはいかないわ」
「なんでカイリににそんなことが分かるんだよ!!」
「わかるよ」
私が一切のよどみなく言いきったことでテオ君がちちょっとひるむ
「さてこの話はこれでおしまい。でかけるから準備しなさい。復讐なんて忘れてしまうぐらいおいしい料理をごちそうしてあげるからね」
「カイリさん」
呼ぶ声に反応してエレナちゃんのほうへ向き直る
私はご飯の前に二人をつれて服屋にきていた
いやーそれにしても変わるもんだね
エレナちゃんは可愛いワンピースを着てる
もとの素材もいいせいか五割増しで可愛く見える
「いいんですか?こんな高そうな服買ってもらって」
「いいのいいの、服もエレナちゃんみたいな可愛い子に着てもらってうれしいわよ。テオ君もそう思うでしょ?」
「・・・」
「まだすねてんの?いい加減にしなさいよ」
「・・・(ふん)」
テオ君はふてくされてるので服を適当に選ぶ
面白い服買ってやろ
罰よ罰
服を買いに来たのいろいろ理由がある
一つはただ単に二人に可愛い服を着させたかったというのと、もう一つはこれから二人をモンカティーニ・テルメにつれていこうと思ってるからだ
オードさんの料理を食べたらテオ君の機嫌も治るだろう
「カイリさん、明日も来てくれますか?」
宿へ向かってる途中にエレナちゃんが聞いてきた
お姉さんの話をしたから寂しくなったのかな?
それともお姉さんと私を重ね合わせているのかもしれない
「ごめんね、明日はちょっと用事があるからいけないんだ」
「そうですか・・・」
やべっ、エレナちゃん泣きそうじゃん
どうしよ?
「あんまり遅くならないように帰るから元気だして」
「・・・」
ダメだ
全然元気にならない
あっ、そうだ
「いまからいくところには七歳ぐらいの可愛い子がいるんだ。今日は私の部屋に泊まって、明日一緒に遊んであげてくれない?」
ルーちゃんのことだ
昼間はルーちゃん暇そうにしてるから一緒に遊んであげると喜ぶだろう
一緒に寝てあげたらちょっとは落ち着くだろうしね
この後宿屋についてオードさんの料理を食べた二人はとても感激していた
エレナちゃんは元気を取り戻したし、テオ君の機嫌もなかなかなおった
よかったよかった