第十四話
「あれ?行き止まり?」
おかしいなー、ちゃんとスリの背中を追っかけてたはずなのになんで行き止まり?
まさか壁をすり抜けたとか?
ほとんど実体のないアルですらできないんだからそれはないか
じゃあなんでだろ?
アルに相談しようかと思ったけど追っかけてる途中ではぐれちゃって今はいない
ホント使えないよね~
『こんなとこにいたのか』
おー噂をすればなんとやらだね
「どこ行ってたのよ?ちゃんと追っかけてよ」
『お前が勝手に変な所に走って行ったんっだろうが、おれはちゃんと追っかけてたっつーの』
え?私がはぐれたの?
私ってもしかして方向音痴なのかな?
今までそんなこと感じたことなかったのになー
『せっかく俺が上からナビゲーションしてやったのに南っつっても東に行きやがるしよ』
いや方角は分かんないよ
ここから太陽の場所なんて見えないしさー
「方角で言うからだよ。右とか左で言ってくれたわかったって」
『嘘こけ、それよりあのガキが建物に入っていくのを見たぞ』
「ホント?たまにはやるじゃん。魔法バカで役立たずのボール野郎だと思ってたけど見なおしたよ」
『・・・教えてやろうと思ったがやめた』
言い過ぎた!?
「嘘よ、今の嘘!!私がアルに魔法バカで役立たずのエロオヤジなんていうわけないじゃん!!」
へそまげられたら面倒だからなんとかなだめないと
「えっと・・・その・・・そうだ、私に、私に言ったのよ。ホント私ってバカで役立たずよね。魔法使ってまで逃げられるなんて。
アハハ・・ハハ・・・ごめんなさい」
アルの目力に耐えれずに謝る
殺されるかとおもった~
マジでキレてたんじゃない?
「この家に入って行ったの?」
『あぁ間違いない』
「アジトっていうかほとんど廃墟じゃん」
アルをなんとかなだめて案内された先にあったのは、もうずいぶん手入れされてなさそうな廃墟といってもいいような建物だった
アルがつくった城よりはまだ住めそうだけどこんなところに人がいるのだろうか?
『どうする?正面からどうどうといくか?』
「あたりまえじゃん、悪いことしてるわけじゃないんだしさ」
「ごめんくださ~い、だれかいますか~」
扉をコンコンとノックする
『正面すぎだろ。そんなことしてると逃げられるぞ』
いやどんなときでも礼儀を重んじるのが私のポリシーだからさ
「?誰ですかね?こんなところまで」
扉の向こうから聞こえたのは幼めの女の子の声
男の子の声ではない
コツコツと足音がドアへ近づいてきている
「ちょっと待て!!開けるな!!」
今の声は間違いなくあの男の子の声だ
扉を開けようとするのを慌てて止めようとしているみたいだ
ドタバタした足音も聞こえるしあの犬耳の子にもう間違いないね
扉を開けるのを止めたってことはあっちも私だってことに気づいているだろう
そうならばいくら待っていても扉は開かない
試しに扉を引っ張ってみるが鍵がかかっているのかぴくりともしない
こうなれば強行突破だ
「おりゃっ!!」
扉の鍵がついてるであろう部分を思いっきり踏み抜く
魔法はまだ発動中なので扉は簡単に砕け散った
扉の向こうににいたのは突然の出来事に驚き眼を見開いている見覚えのない猫耳の女の子、その後ろで私に見つかって顔面蒼白になっている見覚えのある犬耳の男の子
犬耳の子に向ってにっこりと微笑みかけ声をかける
「み~つけた」
簡単に自己紹介をすませ机に向かいあうように座る
この二人は兄妹らしく猫耳の女の子のほうがエレナちゃんという名前で姉,犬耳のほうがテオ君という名前で弟
エレナちゃんは淡い黄色がかった腰のあたりまである長い髪にきれいな蒼色の目、テオ君は茶色の短めの髪にきれいな緑色の目をしている
年は十歳よりちょっと上ぐらいかな?
エレナちゃんはドアを蹴破って侵入して私にずいぶん警戒心をあらわにしていたが懸命に弁解すると怪しいものじゃないってことを信じてくれた
「さっきはごめんね、扉壊しちゃって。後でちゃんと直すから」
「直してくれるなら別にいいです。それよりおねーさんはテオ君とと知り合いなのですか?名前も知らなかったみたいですけど」
いぶかしげに尋ねてくる
名前も知らないなんてそりゃ怪しいか
信用してくれたと思うのはあさはかだったか
「知り合いっていうか、なんていうのかな?ねぇ?」
話をテオ君に振る
いじわるかと思ったけどこれぐらいなら別にいいでしょ
すると冷や汗をかきながらどんどんと顔色が悪くなっていく
どんだけパニクってるののよ
もうちょっと仕返しをしてやるか
「名前なんて聞く前に私の前からいなくなっちゃうもんだから、ねぇテオ君」
「?どういうことですか?」
不思議そうにエレナちゃんが尋ねてくる
「えっとね・・・」
テオ君のほうをちらっと見る
この世の終わりみたいな顔をしていた
ははーん、そういうことか
「ごめんけどちょっとテオ君を借りるね?」
「え?あ、はい」
これ以上エレナちゃんの前でいじめると死にそうだったのでテオ君の腕を掴み外へ連れ出そうとする
テオ君は素直についてきた
「・・・何しに来たんだよ」
エレナちゃんから聞こえないところまでくると顔色も戻り声をかけてきた
「やっとしゃべったわね。何しにきたか言わなきゃわかんないかな?」
「ちっ、なんでここがわかったんだよ?まいたと思ったのに」
「私を甘く見るからよ」
『お前じゃなくて俺のおかげだけどな』
ちゃちゃいれないでよ
「財布を取り返しにきたのか?」
「そのつもりだったんだけどね、財布のことはもういいや」
「は?」
テオ君はポカーンとしていた
そりゃそうなるか
財布を盗んだ相手が家まで追っかけてきて、扉をぶち壊してまで来たのに財布はいらないって言うんだもんね
私も意味分かんないよ
でも、それよりも小さな子が間違った道に進むのを止めてあげる方が大事だ
私は生きるための犯罪行為でも許されることではないと言い切るような人間じゃない
どっちかというと生きるためなら何をやってもいいと言う考えを持っている
けど,犯罪はやらないほうがいいってことは間違いない
「どういことだよ?いらないってんならもらうけどよ」
「・・・あんたエレナちゃんにスリやってること黙ってるでしょ」
テオ君は体をびくっと反応させる
わかりやすいなー
「なんでそれを!?つーかいきなりなんだよ!?」
「あんたの動揺をみてたらだれでもわかるって。なんで話してないの?」
「お前には関係ないだろ」
・・・
「いてててて!!」
気づいたらおもいっきりほっぺをひっぱってた
いやーついやっちゃった
「あんまりおねーさんを怒らせるもんじゃないよ。あんまり気が長いほうじゃないんだから」
「いてててて!!ごめんなさいぃ!!」
きちんと謝ったので手を放す
「ほら話してごらん」
苦々しい顔をしながら口を開く
おしおきが聞いたのかな
「エレナは俺がまともに働いてると思ってるんだ。それにクソまじめだから俺がスリなんかやってるって知ったら卒倒しちまう」
「悪いことって知っててやってるんだ」
「くっ!!仕方ないだろ!!こうでもしないと生きていけないんだよ!!俺達みたいな親もいねぇガキがまともに働けるわけもねぇ!!金持ちのお前にはわからねぇだろうけど俺達孤児は毎日を生きていくためには悪いことだろうがなんだろうがやらなきゃいけないんだよ!!」
怒気を含んだ声を張り上げながら訴える
・・・地雷踏んじゃったな
まさかこんなに根が深いとは・・・
日本では孤児は施設に預けられるけどこの世界にそんな施設があるかどうかわからない
もっと頑張れと言っても現実をみればまともな雇い主なら孤児の子どもなど雇わないだろう
「あんた、スリやってて楽しい?」
「楽しいわけないだろ!働けるんならちゃんと仕事をしてぇよ!!」
テオ君の緑の瞳から涙がこぼれる
やりたくはないのか、これなら正しい道に戻せるかな?
「あんたエレナちゃんに全部話しなさい」
「な,なんでだよ!?」
「あんたたち兄弟でしょ?兄弟なら苦しみもわかちあわないとね」
テオ君の悪いところはエレナちゃんを守るために悪いことは自分だけでやろうとするところだ
「私は兄弟はいなかったけど、兄弟みたいな人はいたからわかるんだけどさ。
1人で全部背負おうなんてするからつらいのよ。秘密にされてるほうもつらいしね。
せっかく姉弟なんだから苦しみは分かち合って半分こにすればいいのよ。そしたらどんなにつらい困難でも乗り越えられると思うよ」
「でも・・・」
テオ君が泣きじゃくりながらまだ泣き言を言う
「大丈夫よ、姉弟の絆っていうものはすごい力を持ってるの。
どんな困難でも乗り越えられるわ。私も体験済み。
それに私も手助けしてあげるから。」
泣きじゃくるテオ君をそっと抱き寄せる
ちょっと柄にもないことやっちゃったかな?
テオ君が落ち着くと家に戻って全てを洗いざらい話させた
最初はエレナちゃんは青ざめていたが最後の方になるとさきにテオ君のほうがまた泣きだしてエレナちゃんはテオ君を優しく抱きよせていた
私よりしっくりきているね
エレナちゃんはやっぱりお姉ちゃんだね
「カイリ・・・悪かった」
「テオ君がご迷惑をおかけしました」
「いやいいのよ いいものみしてもらったしね」
エレナちゃんがテオ君を抱き寄せていたところはとても絵になっていた
聖母子像なんかよりとっても美しかった
「これ返すよ」
テオ君が私から盗った財布を差し出す
「もういいよ,それはあなたたちにあげる。たいして入ってないけど生活の足しにしてよ」
宿に帰ればもっとあるし
「いや,もらえないよ。」
「いっちょまえのこと言ってんじゃないよ 現実はそんなに甘くないわよ」
「・・・さっきと言ってることが違うじゃん」
あんなこといったけど現実をみるほうだからね
ロマンチストじゃいられないのよ
「いいから受け取りなさい」
「いえそんなわけにはいきません これはちゃんとお返しします」
エレナちゃんはテオ君の手から財布を奪い無理やり私の手の上に載せてくる
テオ君の言ってたとおりホントにクソまじめな性格なんだ
どうしようかな
あそこまで言っといてほっとけるほど心が冷たいわけじゃないし
エレナちゃんは拒否するし
あっそだ
「二人ともちょっと待ってなさい」
「ほら食べなさい」
屋台で二人がお腹いっぱいになるぐらいの食べ物を買ってきてあげた
これなら受け取るをえないだろう
「どうしてこんなにしてくれるんですか?さっき会ったばかりですのに」
エレナちゃんが私が買ってきた食べ物を横目に尋ねてきた
「たいした理由じゃないよ,あなたたちみたいな子をみてると放っておけないの,それだけ」
金持ちの道楽ってやつよ
「それだけでこんなにしてくれるんですか?」
「こんなにっていうほどやってあげてないよ。ほら、早く食べないとさめちゃうよ」
それに食べるものがなくなっちゃうよ
テオ君がさっきから一心不乱に食べてるからね
「カイリ、もう帰るのか?」
買ってきて食べ物を皆でってゆーかほとんどテオ君が食べきったので、帰ろうとすると寂しげな声で呼びとめられた
「うん、もう遅いし、今日疲れたし」
「泊まってけよ、うちは広いんだからよ」
まさか子供にこんなこと言われるとは
そういうセリフは大人になってからいいなさい
ずいぶんなつかれたみたいね
「また明日きてあげるから」
「ほんとか?」
「本当本当。だから今日は帰るから、じゃあね」
家を出ようとすると粉砕された扉が目に入った
忘れてたー
「ごめん、扉を直すって約束だったね」
修理の魔法をアルに聞き一瞬でもとの状態に直す
ふとみると二人が唖然とした表情で私をみていた
魔法を間近で使われたのが衝撃だったみたい
いろいろ聞きたがってたけど詳しいことは明日にしてもらって早く帰る
あーつかれた
今日は早めに寝よ
「カイリさんいい人でしたね、最初はびっくりしましたけど。魔法も使えるみたいですし」
「エレナ、俺は決めたぞ」
「何をですか?」
「カイリに魔法を教えてもらう」