第十三話
アルビヤにきて早1週間
あれから襲われることもなく、まったりと平和に過ごしている。
どんどんと兵士が増えていって町自体の雰囲気は悪くなっているけど私は平和だ。
でこの数日、私は図書館に通いつめてアルから文字を習っている。
文字を習うだけだから別に図書館にいかなくていいんだけど、勉強といったら図書館というイメージがあるので図書館でやっている。元の世界にいたときも家ではやる気にならなかったので,試験週間になると毎日のように通っていた。
勉強はあんま好きじゃないので本を読むだけで帰るという日もざらにあったけどね。
文字の勉強自体は字の形を覚えるだけなのでそんなに辛くない。
細かいところはまだ分かんないけど英語の勉強するより圧倒的に楽だし。
昨日は寝ちゃってアルに怒られたけどたいくつだったんだからしょうがない。
もうほとんど覚えたからね。
1日のサイクルは,昼頃起きる→図書館に行く→お菓子買って帰る→ルーちゃんと遊ぶ→昼まで寝る、を繰り返している。
・・・やっぱこの世界来てから堕落してるな~
勉強してるっちゃあしてるけどほとんどニートだよこれ。
今日は珍しく早く起きたので勉強を早めに切り上げ、宿に帰る途中なんだけどアルがなんか変。
「どうしたの?そんな難しい顔してさ。」
いつもなら帰りは物覚えが悪いだ、脳みそが足りてないだ、と楽しそうにけなしてくるんだけど、今日は一言もしゃべらずにむすっとしている。
『目障りだ。』
え?急に何?ついに私に愛想がつきた?そんなに変なことしたっけ?
『お前じゃねぇよ。この数日、いやこの町に入ってからずっと誰かにつけられてるんだよ。もう我慢できん。』
よかった~
私が目障りってわけじゃなかったんだ。
危うくノイローゼだよ。
「つけられてるって、アルが?」
『違ぇよ、お前だよお前。俺が見られてるわけじゃねぇけど見られてるような気がして不快なんだよ。』
「え~なんで私がつけられなきゃいけないの?私が何したっていうのよ。」
『・・・本気で言ってんのか?』
当たりまえじゃん。
『襲ってきたチンピラの顎を砕いた。』
「あれは正当防衛よっ!!」
やりすぎた感はあるけどあれはちゃんとした正当防衛です。
私は悪くない。
『あの両替屋のじじいの頭を砕いた。』
「あれは事故よっ!!」
3日前にプラプラ歩いていると両替屋の店長をみかけたので告げ口した復讐をしてやろうとして石を投げ付けたのだ。
この時点では明らかに私が悪いけどまだ続きがある。
しかし私に投擲の才能はなく、石は店長から大きく外れ街灯に当たった。
その街灯が落ちて店長の頭にジャストミート。
だからあれも私は悪くない。
石ぶつけたぐらいで街灯が落ちるような設計をした設計士が悪い。
「しかもやれっていったのアルじゃん!!」
『やったのはお前だ。まぁあれは証拠は一切残してないし、3日前だから関係ないか。』
「じゃあ誰がつけてくるの?金目当て?」
『いや違うな。気配の一つは敵意が感じられんし、もう一つは気配の消し方が巧すぎる。金目当てのチンピラなら気配を消すなんてことできんだろう。』
「敵じゃなさそうな尾行と巧すぎる尾行。なんの用なんだろうね?」
『さぁな。だが前みたいに襲われるかもしれん。あのチンピラぐらいの雑魚ならいいが訓練をつんだ本物にこられたらいくら肉体強化しても意味が無い。用心にこしたことはないだろう。』
湖のときと同じように不敵に笑う。
「でた、その不敵な笑い。なにする気?」
『ククク,圧縮展開を教えてやる。』
「圧縮展開?なにそれ?普通の術式展開とどう違うの?」
『いろいろあるが、もっとも大きな違いは発動速度の違いだ。術式展開で放つのとは比べものにならんぐらい発動が速い。まぁ元々俺の術式は普通の魔術士とは比べものにならんほど速いがな。』
でた自慢
アルが言うには圧縮展開すると詠唱も呪文も言わなくてよくなるらしい。
確かにそれなら発動速度は段違いに速くなるだろう。
「で、どうするの?」
『魔方陣を描いて魔法の登録をする。』
「また魔方陣描くの~?めんど~」
『ワガママいってんな。お前のため・・・ひいては俺のため、だろ?』
「はいはいわかったよ。」
『ん~何を登録するかが悩みどころだな。』
「こないだのはいるでしょ?あの肉体強化のやつ。」
『そうだな、あれは使える 俺も登録していた。あとは防御魔法と攻撃魔法と・・・』
楽しそうに考えるな~
やっぱ魔法が好きなんだな~
「あの翼のやつは?」
あれはもいっかい使いたい
『あ?あんなもんいらんわ。実戦向きじゃねぇしな。空を飛ぶならもっといい魔法があるぞ。』
何を登録するか議論しながら門を目指す。
登録するのには儀式が必要で町中でやるにはいかないんだって。
外にでるついでに滞在費も払っとかないとね。
『この辺でいいだろ。』
アルがそう言ったのは人が絶対入ってこないと言い切れるほどの森の奥。
「ふぇ~、こんなとこまでこなくてもよかったんじゃない?」
『登録するときに邪魔が入ったら困るだろ?それにこの儀式はかなり光るからこの辺じゃねぇと誰かに見つかるかもしれん。』
邪魔ねぇ、ここのほうが猛獣とか来そうだけどなぁ。
「そういえば尾行は?まだついてきてるの?」
『とっくにまいたよ、途中で魔法使っただろ。』
あ~あれそういう魔法だったんだ。
『じゃあ始めるぞ。まずは魔方陣を描け。』
言われた通りに描いていく。
口座を開いたときよりもかなり複雑な陣だ。めんどいな~
アルと揉め合いながらもなんとか描きあげる。
『まぁこんなもんだろ。よし、復唱しろ。』
「我と契約をかわしし精霊よ ここにさらに深き血の契約をかわし我にそなたらの力を与えよ」
左手の親指をナイフで切り、魔方陣に血を垂らす。
血が魔法陣全体に広がっていき,完全に全体に広がると血でできた魔法陣が私の目線の高さまで浮かび上がる。
これけっこうグロい光景だよね。
魔方陣がとてつもない光を放ち辺り一面を包む。
まぶし・・・くない。
あれ?
その光は私の視界を奪うものではなく、ただ私を包み込むだけだった。
ただ私に見えるものは自分の体と魔方陣のみ。
不思議に思っていると,魔方陣から黒い何かがでてきて私の親指に近づいてくる。
「なっ、なにこれ!?気持ち悪い!!」
『落ち着け、ただの印だ。じっとしてろ。』
外側からアルの声が響いてくる。
じっとしてろって言われてもホントに気持ち悪いんだけど。
ちゃんとそばにいてよね。
黒い何かが親指に巻き付いて動きを止めると光も消えただの森の中に戻った。
親指をみてみると手の甲にあるのと似たようなマークが刻まれていた。
『うまくいったみたいだな。』
アルがそのマークを見て言う。
これが登録の証みたいだ。
「ちょっと~ちゃんと言っといてよ。ホントにびっくりしたんだから。」
『お前なら平気だと思ったんだがな。』
「・・・私をなんだと思ってんの?あ、だめだ 怒る気力がないや。」
『あの儀式はかなり体力を奪われるからな、無理すんな。』
うぉっ、アルが優しい言葉をかけるなんて・・・これが一番気持ち悪い。
よし無理せずゆっくり帰・・・
『ホントに無理すんなよ。これをあと四回繰り返すんだからな。』
・・・え?マジ?
や~マジで疲れた~
五回はマジで死ぬよ。
町に戻るときにも門兵にあーだこーだ言われてさらに疲れた。
さて、これをどうしようかな~
圧縮展開の登録で左手の全部の指に刺青がぐわぁーっと。
これで手の甲、と指、左手全部がやくざもんになってしまった。
『なに嫌そうな顔してんだ。それは圧縮展開ができるほどの魔術士の証でもあるんだ。もっと誇りに思えよ。』
圧縮展開はかなりの魔力がないとできないらしく使える事はかなりのステータスになるらしい。
つまり私はそれほどの魔術士ですって言いながら歩いてるってこと。
「だから目立ったら危ないでしょ。
はぁ~。
とりあえず手袋でも買って帰ろ。」
「わっ。」
手袋を買い体力がもう残ってないので今日はもう宿に戻ろうとすると、誰かが私に後ろからぶつかり、前のめりにどべっと倒れる。
「いつつ・・・」
受け身とれなかった~
痛いよ~
「気を付けなよねぇちゃん、ぼーっとつったってると危ねぇぜ。」
そう言って走り去っていく少年には・・・おそらく、いや・・・間違いなく・・・犬耳がついていた。
おまけに尻尾も。
なんで?コスプレ?
『今のスリじゃねぇのか?』
いきなりのコスプレイヤー出現に戸惑っていたら、アルが何の気づかいもせずに言った。
いやいや、そういうこと言う前に大丈夫?とか聞くのが筋でしょ。
財布を入れていた胸ポケットをさぐる。
あ、ほんとだ、財布ない。
『追っかけるか?たいした額じゃないが・・・』
(追っかけるに決まってるでしょ。)
たいした額じゃないっていっても合計で1シリル(=約三万)ぐらい入っていたはずだ。
元の世界では大金だったはずなのにな~、金銭感覚がおかしくなってるかな?
まぁ財布はぶっちゃけどうでもいい。
まだいくらでもあるし。
ただ盗られたままっていうのは気に食わない。
鉄拳制裁タイムだ!!
「1st!!」
圧縮登録した【祝福されし躯】を発動する。
おぉ~これは便利。
登録した魔法は登録した指の準に番号を振られているのだ。
そしてその番号を言うと魔法が発動するようになっている。
親指は1st人差し指は2ndみたいにね。
私は五つ登録したので小指の5thまである。
ククク、この魔法を使った私から逃げれると思うなよ。
取っ捕まえてすまきにしてやるぜっ!!
うぅ,やっぱり3日ペースは無理かもしれません
ごめんなさい