第十一話
「おばさん、私ちょっと町に出てきます。」
「日が暮れる頃には帰ってくるんだよ、腕に寄りをかけてつくっとくからね。」
「わかりました。行ってきま~す。」
この宿は朝ご飯と夜ご飯が基本料金に含まれているが、昼ご飯はついてないみたいなのでどっかで食べることにして宿をでる。
「ん~両替屋はどこだ~?このへんっていってたよね?」
どこ行くよりも前に、おばさんに聞いておいた両替屋を捜す。
金貨じゃどこでも使えないからね。
『あのすじじゃねぇか?』
「ほんとだ、あったあった。」
硬貨のマークがついた看板をみつけた。これが両替屋のマークなんだって。
飯屋はナイフとフォークのマーク、宿屋はベッドのマークなど、それぞれの店の種類によってマークが看板に描かれていて、それが何の店かの目印になっている。
中に入り窓口の女性に金貨を四枚差し出す。
すると女性はとんでもないものを見たというふうに目を見開き、奥のほうへ走っていた。
とりのこされてどうしたらいいかと思ったら、すぐにスーツをきて右目にモノクルをつけた老紳士を連れて戻ってきた。
宝石類の鑑定もやってそうだな。
「ちょっとこちらへきてくれますか?」
返事を言う前に店の奥の部屋へ連れ去られた。
この感じデジャヴ。
「こちらの金貨はあなたのものですか?」
「はぁそうですけど・・・」
ホントはアルのだけどもう私のものだ。
「失礼ですがどのように手に入れたかお聞きしてもよろしいですか?」
「いいですけどなんでですか?」
「金貨はその価値の高さからまったくといっていいほど市場に出回りません。
当店としても盗品を扱ったとなれば店の信用にもかかわり、貨幣の貸付もやっている当店としては困るのです。」
たしかに金貸しは信用が命だろうけど疑われるのはいい気しないな。
『むかつくなこいつ、やっちまおうぜ。』
アルがかなりイラついている。
何にもしてないのに疑われるのはアルでも嫌みたいだ。
「これは父の持っていたものなんです、だから盗品ってことはないと思いますよ。」
イラつきを隠しにこやかにこういうときのために考えておいた話を話し、金貨がそんなに高価だと知らなかったことを話した。
ちょっとは怪しんでいたが納得してくれたみたいだ。
「ふむ遺産ですか・・・わかりました。まことに失礼いたしました。これまでの不躾をお許しいただけますか?」
「はぁ、別にいいですよ。」
ぶっちゃけ私超怪しいし。
「ご用件は両替でしたね?この額の両替ですと手数料として5シリル頂くことになりますが宜しいでしょうか?」
「シリルっていくらですか?」
「シリルもご存知ないのですか?ふむ、ではご説明させて頂きます。まずこの1とかかれた鉄貨、これが1セルク硬貨でございます セルク硬貨には他に10とかかれた10セルク硬貨と100とかかれた100セルク硬貨があり市場で流通しているのは主にこの三つの硬貨だけでございます。」
差し出された3つの硬貨を手にとってみる。
数字が彫られているただの鉄の丸い板だ。
これなら簡単に複製できそうだけどな。
「そしてこの銅でできた1シリル銅貨、普通は銅貨と略されて呼ばれております。この銅貨は100セルク硬貨が10枚、つまり1000セルクのことです。そしてこの銅貨が10枚で銀貨、銀貨が10枚で金貨となっています。この銅貨銀貨金貨は大きな取り引きのときや貴族や王族の間などで使われており、市場にはほとんど流通しておりません。銅貨は使えるところもございますが。」
この3枚も並べて全部で6枚の硬貨が並ぶ。
えっと、つまり10枚ごとに硬貨が変わるってこと?
硬貨は全部で6種類あって金貨がだいたい三百~四百万だから・・・1シリルが三万ぐらいで・・・1セルクが三十円ぐらいか。
ん?じゃあ手数料が約十五万?ちょっと高くね?
一千万ぐらい両替するんだから1%になるから・・・んー妥当なのかな?
よくわかんないけどアルも多分わかんないだろうから聞けないし、この人に高くないですかと聞くほど心臓強くないからなー。
いろいろ考えて結局金貨を四枚も両替したら小銭でたいへんなことになるので一枚だけ両替した。
一枚だけでも大変な数になったんだけどね。
銅貨が五十枚、100セルク硬貨が五百枚の計五百五十枚。
市場では銅貨より上の硬貨だと使えないし、これよりも下の貨幣になるとさすがにもてなくなるのでやめた。
どーせ使っていくうちに増えていくだろうし。
両替屋が、疑ったお詫びに、とくれた巾着袋がぱんぱんで張り裂けそうになっている。
両替も終わったしとりあえず服がほしいな,と思い洋服屋を探す。
あんまり指摘されてないけど未だに私制服なんだよね。
しかもクイードさんのとこでは風呂も洗濯機もなくて、身体をタオルで拭くぐらいだったから着替えたい。
そうつまり今日でこの服四日目。
汚いとか言わない、身体は毎日ちゃんと拭いてたからね。
着替えがなかっただけなんだからね。
涼しいし汗もあんまりかいてないから大丈夫だからね。
「どうよ?似合う?」
『服なんか着れればいいだろう。何にそんなにこだわるんだ?』
適当な店に入ってからいろいろ着てみてアルに見せてみたけど、全部気の抜けた返事をするだけだった。
女の子にとっておしゃれは命だというのに。
反応もないし最終的にめんどくなったので店員さんに丸投げして選んでもらった。
買ったのは今着てる服と替えの服を3セットの合計4セット。
これだけあれば毎日着替えても大丈夫だろう。
こんだけ買っても銅貨一枚にもならなかった。
これじゃあいつまでたっても小銭が減らないなー。
服を買い終えると、ぐるるるぅ~とお腹がなった。
日の高さがいつのまにか真上を通り越していた。
どおりでお腹がなるわけだ。
『下品だぞ、カイリ。淑女は人前で腹鳴らさんもんだ。』
「これは自然の摂理だから、それに淑女じゃないからいいの。とりあえずなんか食べにいこう。市場はどこかな?こっちか?」
『こっちだこっち。さっき両替屋いくときに屋台がちらりとみえただろうが。』
「こっちね。そっか~屋台か~いいね~。屋台で食べるとなんでもおいしいんだよね~。」
お祭りの焼きそばがいい例だ。あんなにパッサパサで具材も少ないのに屋台ってだけでなんかおいしい。
わき道から通りにでると人の数が一気に増えた。
この通りの広さからここは空から見えた一番太い通りだろう。
通りの両端にはところせましと屋台が並んでいていい匂いを漂わせている。
どれを食べようか迷ったが、どの食べ物も私は初めてみるものばかりだったので片っ端から食べていくことにした。
どうせ当分ここにいるつもりだし、全部食べきれるだろう。
料理の説明を聞きながら端っこから食べていると、いつのまにか暗くなってきはじめた。
どんだけ食ったんだ私?
今日だけで数十軒いってしまったけどこんなに時間かかるとは。
時間がこんなにかかったのは、アルにも食べさせてあげるために路地裏に度々いってたのもあるだろうけどね。
アルは食べる必要はないけど食べようと思えば食べられるみたい。
はたからみたら食べ物がかってに消えていくように見えるから隠れなきゃなんないんだよ。アルはまるでリュークだ。
もともとよく食べるほうだけどにしてもおかしいな。
あんだけ食べたのにお腹が全然膨れてない。
なぜ?
まいっか今日はこの辺で帰ろ、ご飯腕によりをかけるっていってたしね。
「いらっしゃい。ありゃ、だれかと思ったよ。見違えたねぇ。」
宿に戻るとおばさんがお世辞とともに出迎えてくれた。
「言い過ぎですよ、おばさん。あれ?その子は?」
おばさんの後ろにしがみつくようにしている少女がいた。
七歳ぐらいだろうか。
恥ずかしがっているのか全然目をあわせてくれない。
「この子かい?ほら自己紹介しな。」
おばさんが少女を前につきだすが、きょどり具合がはんぱじゃなくすぐにおばさんの後ろへ隠れてしまった。
「困ったもんだね、この子はルー。私の娘だよ。歳は7つ。」
「ルーちゃんか、宜しくね。」
腰を落とし目線を合わせて握手のために手を差し出す。
おずおずと握手は返してくれたがまだ心を開いてはくれてない。
こういうときは子供にだけ通じる必殺技を使うに限る。
「お近づきのしるしにルーちゃんにこれをあげよう。」
そういって食べ歩きのときに買っておいたクッキーみたいな焼き菓子をさしだす。
「・・・くれるの?」
「そうだよ。」
恥ずかしがっているがお菓子は欲しいのかおばさんの後ろから出てきて包みをうけとってくれた。
やっぱり子供はお菓子の誘惑には勝てないもんだ。
「・・・食べていい?」
私がうなづくとおばさんにも許可を求めるように振り向く。
おばさんが仕方ないねぇといった表情でうなづくと、もそもそと包み紙を開けて焼き菓子を口に運ぶ。
「・・・おいしい。」
ひまわりのようなまぶしい笑顔を見せる。
ホントは夜食のために買っておいたんだけど、ここまでの笑顔を見せてくれたんだからその価値はあっただろう。
「悪いねぇ、あんなお土産もらっちゃって。今日は何してたんだい?観光かい?」
「特に変わったことはしてませんよ、服買ったり食べ歩ききたり。明日からは観光でもしようかなと思ってますけど。」
「市場はいったのかい。じゃあまず図書館にいってみな。この町の名物だよ。」
「え?図書館なんかあるんですか?」
「あぁ珍しいだろう?ここの領主様がいいお人でねぇ。学ぶ権利は誰にでも平等にあるって言ってあたしらのために私財を使って建ててくださったんだ。」
この文化に図書館とはねぇ、かなり意外だ。
地球の中世の時代は紙は非常に高価な品物だったのに。
ここじゃあ紙は安いのか。
そういや町に入るのに書き留めていたのも紙だったな。
この世界はやっぱり地球とは違うな。
明日ちょっと図書館にいってみるかな、この世界のこともよくわかるだろうし。
それに・・・不気味なほど瞳を輝かせている相棒もいることだし。
『カイリ今からいこうぜ、新しい魔法書があるかもしれん。』
アルは魔法のことになるとおかしいってゆーか見境がないってゆーか、なんというか暴走状態になるんだよね。
騒いでるアルは無視しておばさんと話を続ける。情報をもうちょっと集めたい。
「領主様いい人ですね。」
「そうなんだよあの人もこの町の誇りなんだよ。数十年前の大きな戦争で先祖代々ここの領主様だった前の領主様がお亡くなりになってねぇ。そこで今の領主様が代理としてきたんだよ。最初は町の皆は嫌がってたんだよ、王都からきた若造にこの町のなにがわかるってねぇ。でも次第に領主様があたしらのことをよく考えてくださっているってことがわかってきてようやく名実ともにここの領主になったのさ。」
ずいぶん慕われてるんだ。
貴族って無駄に偉そうな奴らってイメージがあったけど。
「でもその素晴らしい領主様にも一つだけ欠点があってねぇ。」
「なんですか?顔とか?」
「なんてこというんだい、領主様は渋くて貫禄があって若い頃は言い寄る女がたたなかったほどのいい男だよ。欠点っていうのは領主様のバカ息子のことさ。」
領主の息子は女ぐせが悪くいろいろと問題をおこすらしい。
こっちのほうが貴族っぽい気がするけど。
話しているうちに料理が運ばれてきた。
どれもいい匂いで美味しそうだ。
「これおばさんが作ったんですか?すごいおいしいです。」
どれもこれもすごいおいしい。
見た目で味が想像できないのが味のインパクトを強調しているのでよりおいしく感じるのだろうか。
「飯はダンナがつくってるんだよ。ほらあっこに無駄にでかいおっさんがいるだろう。あんたちょっとこっちきて自己紹介ぐらいしな。」
のっそりと厨房の奥からでてくる。
かなり大きい、背も190近くあるだろうしなにより筋肉がすごい。
宿屋より軍隊のほうが似合うんじゃないかな?
「・・・オードだ。」
しかも寡黙だ。
「愛想がなくて悪いねぇ。ほらさっさと仕事に戻りな、客はまだ他にもいっぱいいるんだからね。」
自分から呼んどいてそれはひどくないっすか。
オードさんは理不尽に怒られても黙って厨房に戻っていった。
「ダンナは人付き合いが苦手でねぇ、初対面の人はおろか古い付き合いの人でもなかなかしゃべらないんだよ。料理の腕はたしかなんだけどねぇ。」
ルーちゃんの性格はお父さん似なのか。
顔は全然似てないけど成長したらあんぐらいの巨体になるのかな?
想像したらちょっと気分が・・・
「うちの名物は料理だけじゃないよ、ついてきな。」
食べ終えるとおばさんがそういって宿の裏の方に連れていってくれた。
そこにあったのは紛れもなく・・・温泉だった。
「これがうちの名物、温泉だよ。ここいらじゃうちにしかないんだよ、入ったことはあるかい?」
「あります、大好きです。」
まさかお風呂まであるとは超ラッキー。
4日ぶりの風呂ということもあったし私は心行くまで温泉を堪能した。
アルは風呂にもついてこようとしたので袋につめこんで部屋に置いてきた。まったく冗談じゃない。
風呂からあがると門のとこにいた王国軍の人と同じ鎧を着た2、3人の兵士がおばさんと話していた。
「ですから少し話しを聞くだけです。捕らえるというわけではありません。」
「客を売れっていうのかい?なめんじゃないよ。」
話しというか言い争いだ。
兵士の人のほうがおばさんの剣幕に困っているようだ。
「どうかしたの、おばさん?」
雰囲気がやばそうだったのでおばさんをなだめるために声をかける。
するとおばさんはしまったという顔をして、兵士は安堵の表情をした。
どうやら兵士は私を捜していて、おばさんは私を匿おうとして言い争っていたみたい。
私がでてきたことでおばさんは口を挟むのを諦めて私と兵士の会話を聞いている。
兵士は私に金貨の出どころを聞きにきたらしい。
両替屋のじじいめ、あんだけ説明したのにまだ疑っていたのか。
両替屋でした話をまた繰り返す。
いろいろと詳しく聞いてきたがこういうでっちあげることは得意だから特に怪しまれることもなく帰っていった。
「たったこれだけのことで王国軍が動くなんてやっぱりあの事件のせいかねぇ。」
「なんですか事件って?」
「なんでもここから3日ほどいったところにある湖が消されて、その犯人がこの付近に潜んでるそうだよ。湖が消えたなんて眉唾物だけどねぇ。」
私のせいか。
「今日の昼から検問も強化したらしいよ。外で待ちぼうけを食らった商人がいらだって困ったもんだね。」
今日の昼からとは・・・ぎりぎりセーフだったなー。
検問が強化されていたら私は町には入れなかっただろう。
『今日の昼からか、おかしくないか?』
部屋にもどってアルにさっきの話を難しい顔をして尋ねてきた。
「なんで?」
『爆発を起こしたのはもう3日も前だぞ。それに対して警戒するなら3日前からするのが普通だ。なぜ昼からなんだ?』
「なんか事情があったんじゃないの?市民に不安を抱かせないように、とかさー。」
『なにか裏がある気がする。』
「考えすぎだって,ラッキーってことだったのよ、きっと。」
私がそう言うとアルは呆れたように溜息をついた。
『・・・わかった。お前がそれでいいならいい、だが後でつらくなってもそれは自分のせいだということを理解しておけ。』
アルが感じたように私も抱いている違和感がある、アルの言いたいことも分かってる。
でもそれは考えると疑いは強くなりそうで、口にだすと現実になりそうで、私は怖かった。
だから考えるのをやめ何も知らない風に振る舞った。
その先に待ち受けるものが私の考えている未来にならないことを祈りながら・・・・
きりがいいとこまで書いたらかなり長くなってしまいました。