第五話
「鎹くん、きみは何を読んでいるのかなー?」
「うぅわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」
けたたましい悲鳴をあげてしまった。
その声に反応して、よし子先生はたじろぐ様子をみせ、クラスメイトはきょとんとした表情で僕に鋭い視線を向ける。
終わりだ。
もう、何もかも、終わりだ。
穴があったら入りたい。
今まで大人しい小学生を演じてきて、通知表でも先生からは『真面目すぎる』と言われる位に勉強もクラブも生徒会も頑張ってきた。
それが今日、音を立てて脆くも瓦解する。
目の前が真っ暗になり、せめて泣き顔を見られまいと必死に俯いていた。
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「鎹ざまぁ」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「鎹ざまぁ」
「鎹ざまぁ」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
「どうしたの、鎹くん」
気遣いと罵りの声が聞こえる中、僕はさらに身体を低く屈めて、机の上に突っ伏した。
そんなパニックに陥った状況下で、よし子先生は、パンパンと手を叩いた。
教室内の混乱は、一時的に静寂を取り戻す。
通りの良い大きな声で、皆に告げた。
「よーし分かった。先生ね、後ろから急に大声で話しかけちゃったから、鎹くんをビックリさせちゃったんだよね。先生よくあるのよねー。プライベートでもこんな変なテンションだから…って、そんな事はどうでもいいわね。皆、突然だけどそういうことで、一時間目の最初の30分は自習。昨日の宿題のドリルの続きを進めておいて下さい。私と鎹くんは保健室に行ってきます。折角だし、鎹くんは読みかけの本でも持ってきて。一時間目は休みましょう。いいですね、皆聞き分けの良い子達だもの、わかってくれるわよね?」
無理をしつつほんのりと甘い声を出したよし子先生。
「はーい」
皆の同意を得て、僕はグジュグジュになったハンカチと父さんのBL小説を手に、そそくさと退室した。




