表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第三話

「ただ黙々と、純粋無垢な日々をおくり、希望にも心惑わされず、悲しみにも乱されはしない」_トマス・キャンピオン



 雑閙ざっとうの中を掻き分けて進むと、鞍山擒くらやまとりこちゃんに出会った。

 紛う方無く、今朝の夢に出てきた擒ちゃん。

 彼女は1つ下の5年生だけど、身長は僕よりも高く、文字通り頭ひとつ抜けている。

 僕が六年生の割に小さすぎる、といえなくもないが。

 きゅっと引き締まった足首に映える、プリーツのついた赤いスカートに、黒地に柄模様のハイソックス。

 上着は少しだぼだぼな、チャールズ・シュルツを感じさせないスヌーピーの絵柄の白地のセーター。

 首元からはピンク色のブラウスが覗く。

 気の強そうなきりりとした表情とは対照的に、くせもなくまっすぐに伸びた長いストレートヘアー。

 清々しい朝の空気が、擒ちゃんの控えめに膨らんだ、胸の辺りに掛かる黒髪をふわりと揺らす。

 その姿はどこか凛として、大人っぽい雰囲気を漂わせている。

 いいなぁ。

 僕もこれくらい、身長があったらなぁ。

 前ならえをする時に前ならえをする相手がいない屈辱。

 因みに僕は昨年のクラス替えにより、男子では前から4番目の位置に付けている。

 「おはよう、鞍山さん」

 「おはよ」

 僕は少し仰々しくお辞儀をした。

 その意に反し、擒ちゃんは一瞥したあと、こちらに振り向きもせず、5年生の教室のある渡り廊下の方へ歩き出した。

 ああ、今日もダメか。

 意を決して話すような事も無かったし、僕はやっぱ、こっちの方はてんでダメだ。

 擒ちゃんは同じ地区で、通学路もほぼ一緒。

 小学2年生の時、新しく集団登校する相手が増えたんだなぁ、って程度にしか思ってなかったけど。

 いつの間にか、僕は小学6年生で、擒ちゃんは5年生。

 そろそろ身の振り方を考えないといけない時期に来てしまった。

 集団登下校するチャンスなんて頻繁に起こるけど(特に最近は物騒で、1学期中全てが原則集団登下校する時期もあった)、4年も一緒に登下校していると、流石に話のネタも尽きてくる。

 無理して話そうとしても、『お前空気読めよ』ってなる。

 仕方なく僕はマサル君との下らないお喋りが殆どで、擒ちゃんは下級生と和やかに話す。

 これが僕らの集団登下校。

 僕は『そっちの世界』はよく知らないのだけれど、擒ちゃんは身体の成熟度がとにかく早い。

 腰回りのくびれが同世代の女の子とは雲泥の差。

 それでいて運動神経は抜群。

 それでいて少しクールな印象を与える端正な顔立ちは、女生徒の嫉妬心に火を付け、また男子達からからかいの的にされていると風の噂で聞いた。

 僕は最近の若い子のイジメとか分からないけど、歳が幼くなるにつれその手口は巧妙化する傾向にあるらしい。

 どうか、擒ちゃんを護ってくれる、思いやりのある男性に巡り逢いますように。

 祈念してから踵を返し、大河原よし子先生が嬉々とした表情で僕らの登校を迎えてくれる6年3組の教室へ、階段を一段抜かしで歩いていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ