第2話 評価は下げられない
クエストの内容が変わったのは、いつからだったか。
最初は、本当に簡単な初心者クエストから始まったはずだった。
倉庫の整理。
街道沿いの清掃。
人手が足りない現場の手伝い。
いずれもマニュアルが整備されており、遂行に特別な判断は必要なかった。
指示通りに動けば終わる。
「やりたい仕事も選べるし、雇用関係もない。楽な世の中になったな」
正直、そう思っていた。
ユウトは、軽いゲーム感覚でそれらを次々とこなした。
経験値とスキルツリーが伸びていくことは、次へのモチベーションにつながる。
完了通知が届き、評価が更新される。
数値は常に上向きだった。
だが、評価が上がるにつれ、ある時から、クエスト詳細に注記が付くようになった。
※本クエストは遂行者が少ないため、高評価対象です。
最初のそれは、深夜帯の高齢者施設の清掃だった。
床面洗浄、汚物処理、備品の補充。
作業内容は明確で、手順に曖昧さはない。
次のクエストは、地方の解体現場だった。
防護具を着用し、指定された資材を分別する。
作業時間は長く、環境条件は良好とは言えなかった。
それでも、完了。
評価は更新された。
辞退は可能だった。
画面には常に選択肢が用意されている。
→承諾
辞退
ただし、辞退の横には補足が表示されていた。
※辞退が続いた場合、マッチング優先度が調整されます。
ユウトは承諾を選択した。
ますます評価は上昇した。
ただ、ほんの一度だけ、数日間ログインが途切れたことがある。
復帰した際、簡潔な通知が表示された。
《警告》
評価停滞――マッチング優先度低下中
それ以上の説明はなかった。
以降、ユウトは毎日ログインした。
作業を選ばず、提示されたクエストを処理した。
表示されるクエストの文字が、
少しずつ重くなる。
【夜間・下水路清掃】
【感染区域・物資運搬】
【長時間連続対応・交代要員なし】
報酬は悪くない。
だが、理由があった。
誰もやりたがらない。
臭いはきつく、足場は悪く、終わる時間も決まっていない。
それでも、断れば評価が下がる。
それだけは、はっきりと書かれていた。
「いや、今回だけはやっておこう」
そう思って受けたクエストは、終わっても体に残った。
以降、提示されるクエストには一定の共通点があった。
遂行者が少ない。
そして長時間、または精神的負荷が高い。
災害後の片付け。
人手不足の医療補助。
無人期間の長い住居の原状回復。
苦情対応専用の窓口業務。
いずれも社会的に必要とされている、誰かが行う必要がある仕事だった。
ユウトは、断れなかった。
ログインしない期間は、信用の空白として記録される。
理由は問われない。
理由を問う工程自体が、制度上非効率と判断されていた。
疲労。
鈍い痛み。
回復の遅さ。
だが、画面に表示される評価の数値は、確実に上がっていく。
それを見ると、妙に安心した。
数字が、自分を認めてくれている気がした。
クエストは、さらに過酷になった。
【孤独死現場・清掃補助】
【人格攻撃対応・苦情窓口】
【炎天下・交通整理(休息なし)】
注意書きが増え、説明文も長い。
それでも、「受諾」ボタンは押せた。
ここまで来たのに、今さらやめる理由がなかった。
気づけば、休む日がなくなっていた。
休めば評価が止まる。
評価が止まれば、次が来なくなる。
それだけは、分かっていた。
いつの間にか、報酬よりも評価を見るようになっていた。
数値が上がる。
それだけで、今日が無駄じゃなかったと思えた。
評価は安定して上昇を続けた。
◇高信頼遂行者◇
◇社会的貢献度:高◇
あるときから、見慣れない表示が追加された。
《最終評価フェーズに移行します》
承諾。
評価は、上限に近づいていた。




