第六話 市 ― 物と人の流れ
長沙の市は、
思っていたよりも落ち着いていた。
香料は、
よく動いた。
南方の桂皮は、
軍の薬師に引き合いがあり、
沈香は、
富家の使いが買っていった。
値は、悪くない。
――だが。
市の端では、
武装した兵が巡回している。
黄賊の残党は、
すでに大軍ではないが、
まだ各地に散っていると聞く。
城内は抑えられている。
だが、
一歩外へ出れば、
完全ではない。
(……支店を置くとすれば、
兵の目が届く場所になる)
そう考えて、
拙者は首を振った。
(今ではないな)
⸻
市を歩いていて、
もう一つ気づいたことがあった。
人だ。
衣は簡素だが、
言葉遣いが整っている者が多い。
中原の戦乱を避け、
南へ流れてきた文人や学者たちだろう。
彼らは、
長く留まる気はない。
だが、
ここで一息ついている。
⸻
市の一角には、
書を扱う店もあった。
量は多くない。
だが、
品は悪くない。
経書の写し。
注の入った書。
地方では珍しいものも混じっている。
(……なるほど)
(中原が荒れれば、
書もまた、南へ流れるか)
⸻
拙者は、
記帳を終え、
次の道を思った。
長沙は、
武の城だ。
乱を抑え、
人を守る場所。
だが、
商を育てるには、
まだ時間が要る。
(最初の支店を置くなら――
やはり、襄陽だ)
人が集まり、
言葉が交わり、
物と知が混じる地。
ここは、
通過点。
拙者はそう結論づけ、
船の手配を進めた。




