第二十二話:検証継続 ― episode 張飛(暗夜・警告)
System log updated.
Verification phase continuing.
(システムログ更新
検証フェーズを継続)
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検証対象:
張飛(字・翼徳)
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夜だった。
城は、静かすぎるほど静かだった。
戦の前でも、戦の後でもない。
兵の気が緩み、油断が入り込む――
そんな夜だ。
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張飛は酒を飲んでいた。
珍しいことではない。
この男にとって酒は、慢心ではなく呼吸に近い。
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鎧は脱いである。
床に胡坐をかき、
矛は手の届く位置。
部屋の隅には灯が一つ。
風が入るたび、炎が揺れた。
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部下は外にいる。
見張りは立ててある。
だが、それは「形」だ。
静かすぎる夜ほど、
人は眠りやすい。
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その時。
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――カン。
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乾いた音が、
夜気を裂いた。
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張飛は、瞬時に顔を上げた。
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音の正体は、
床に転がる酒盃。
紐が何かに引っかかり、
落ちたのだ。
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盃の紐の先には、
小さな玉の容器。
澄んだ音が、
余計に夜に響いた。
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「……あ?」
張飛は、その一音だけで立ち上がった。
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次の瞬間。
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気配。
戸の向こう。
人の重み。
刃が擦れる、かすかな音。
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考えるより早く、張飛は動いた。
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矛を掴み、
戸を蹴破る。
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暗がりの中、
二つ、三つの影。
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「誰だァッ!!」
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咆哮が、夜を引き裂いた。
張飛の声は、武器だった。
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敵は、それ以上踏み込めなかった。
一人が倒れ、
残りは散る。
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完全な討伐ではない。
だが――
目的は果たした。
張飛は生きている。
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矛を下ろし、
荒く息を吐く。
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床を見る。
酒盃。
玉の容器。
無傷のままだ。
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「……なんだ、助けられたか」
そう呟き、
張飛は鼻で笑った。
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誰に感謝するでもない。
酒か。
音か。
偶然か。
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あるいは――
身につけていた物か。
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張飛は、それ以上考えなかった。
考える男ではない。
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だが、
生きている。
それで十分だった。
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張飛は、
床に転がる酒盃を拾い上げた。
玉の容器が、
かすかに鳴る。
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「……もう用はねえな」
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そう言って、
張飛はそれを――
握り潰した。
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鈍い音。
玉が砕け、
紐が千切れる。
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「助かった理由なんぞ、
酒で十分だ」
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破片を足で払い、
張飛は再び盃を手に取った。
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何もなかったかのように。
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英雄は、
必ずしも剣で救われるわけではない。
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時に、
落ちた一つの物が命を拾い――
そして、役目を終える。
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System log updated.
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✔ Survival confirmed
Target: Zhang Fei
Status: Alive
Condition: Assassination averted
Outcome: Warning-triggered survival
(生存確認
対象:張飛
状態:生存
結果:警告による回避)
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注記:
媒介物は破損。
因果は完了。
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検証は、続く。
―― episode 劉備へ。




