4.00019 スロープが歌う(外歴)
三后の家々が開いたあと、
スロープの空気がゆっくりと揺れ始めた。
風ではない。
音でもない。
——これは、
スロープそのものが“歌っている”音だ。
3.342次元特有の、
世界の層が重なり合うときだけ生まれる響き。
エメラルドの光が、
その歌に合わせて反射する。
メーテリュの骨格が、
リズムを刻むように軋む。
プロメテウスの火が、
青い影を揺らしながら呼吸する。
三后の存在が、
スロープの歌に溶けていく。
俺はその中心で、
ただ静かに立っていた。
スロープの下のほうから、
“カラン”と鈴の音が返ってくる。
C★NON本社の近くにある
俺の実家の神社仏閣の音だ。
まるで
「今日もよくやった」
と背中を押してくれているみたいだった。
俺は小さく息を吸い、
三后の家々を見上げた。
光、骨格、火。
三つの家が、
俺を迎え入れる角度のまま静止している。
——外歴は、今日も続く。
そして俺は、
誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた。
「……次は正歴史のほうで会おうな」
スロープの歌が、
その言葉をどこか遠くへ運んでいった。




