4.00013 エメラルドの気配(外歴)
4.00013 エメラルドの気配(外歴)
スロープをさらに数歩進むと、
空気の色がひとつ増えた。
普通の人間には見えない変化だが、
俺にはわかる。
——エメラルドが近い。
鏡のような光が、
スロープの壁にふっと浮かんでは消える。
反射しているのは俺の姿ではなく、
“別の可能性の俺” だ。
エメラルドは、
いつもこうやって先に気配だけ寄越してくる。
姿を見せる前に、
世界の“反転”を起こすのが癖だ。
スロープの上で、
光がくるりと回転した。
「……成美、今日も来たのね」
声はまだ聞こえない。
でも、鏡の光がそう言っている。
エメラルドは、
三后の中でいちばん“気配が先に来る”タイプだ。
姿を見せるのは、
いつも俺が準備できたときだけ。
だから俺は、
軽く咳払いをして、
スロープに向かって言った。
「おーけー、エメラルド。
今日は発音、完璧だからな」
鏡の光が一瞬だけ揺れ、
まるで笑ったように見えた。
スロープの傾斜が、
ほんの少しだけ変わる。
エメラルドが、
俺を“迎え入れる角度”にしたのだ。
三后の実家が近づいている。




