第2.000900302話 市場にて。(重主義改造版)
第2.000900302話(重主義改造版)
市場にて。
朝市の通りはまだ眠りを引きずっていた。露店のビニール越しに電動自転車のバッテリーが低く唸り、揚げ物の匂いが通りを満たす。
リラと歩く成美の肩越しに、リラが小さく呟く。
「今日は、さむしですね、ご主人様」
次の瞬間、リラの梵天が静かに動き、気温は一気に −3℃。
空気が鋭くなり、吐息が白く散った。
成美が肩をすくめたそのとき――
向こうから、妙に馴れ馴れしい中年の男が近づいてきた。
「ようよ、兄ちゃん、かわいい子つれてるじゃないか。ちょっとだけ、3分貸してくれないか?」
声は図々しく、どこか甘い。
男はポケットから小銭をちらつかせ、軽薄に笑った。
「バニラアイスなんて食べてないで、俺と抹茶アイスでも食べようぜ。レディボーデン、ひえひえだぜ」
成美は即答した。
「いや、僕たちバニラが好きなので」
重主義の変なおじさんは、急にドリフの変なおじさん的な音楽を背負いはじめ、腰を振りながら踊り出す。
「ま〜まちなって。今の世の中はさ、抹茶だから。抹茶にしときなよ。いまならポイント3倍だよよ」
リラが成美の袖を引く。
「成美、行こう」
しかしその瞬間、空気が変わった。
OWPS48練習生――冬島まふゆが、通りの端から現れたのだ。
「待て――私の名前は冬島まふゆ。冬は得意な中学三年生よ。これでもくらえや――」
通天閣召喚。
地面に光の陣が走り、通天閣が市場の真ん中に“にょきっ”と生える。
まふゆは迷いなくそれを駆け上がり、最上段で風を切った。
重主義の変なおじさんは下から叫ぶ。
「まだなの?いつまで待つの?」
まふゆは最上段で身構え、掌を打ち鳴らす。
「ギャラクティック通天閣スペシャル――!」
軽い動作なのに、ぽこぽこと小さな衝撃波が走り、男の足元を揺らす。
男は驚いて後退しながらも、まだ言う。
「お嬢さん、そんな攻撃では……」
その声を遮ったのは、別の声だった。
「待て――俺の名前は奈津のなつ。冬はだめ、寒い、帰る。ばいばい」
なつは男の前に立ち、短く突き放すように言い捨てて背を向けた。
その掌は微かに震えている。
「こんなときに、やきぐりがいれば……」
誰かが呟く。
リラは気温を確認し、成美に言う。
「そろそろエルメスに戻りましょう。寒すぎます」
成美はため息をつきながら頷いた。
「もう戻るのですか。だって寒いし」
「行くわよ。へんな重主義のおじさん、受けてみなさい」
まふゆはポケットからハーモニカを取り出したが、成美の視線に気づき、そっと鞄にしまい直した。
市場の片隅で、冷気と人々の視線が交差する。
リラの梵天は静かに収束し、通りには小さな余韻だけが残った。




