その8
「なぜレイ兄様がそんなことに関わってるんですか!? イヴァン様が危険人物と兄様は知ってるんですか? 殿下たちはイヴァン様の悪事をどこまで掴んでらっしゃるんですか?」
私は思わずドリスメイ様に失礼な態度で詰め寄ってしまった。
「そんな質問攻めにしないでよ、ちゃんと説明するから」
ドリスメイ様は王太子殿下に視線を流して確認してから、
「この三ヶ月でソニア様を含めると学園では六人の女子生徒が行方不明になっているでしょ」
「私の他に五人も行方不明になっていたなんて、知らなかったわ」
私はその噂を知っていたが、ソニア様は学園内を彷徨っていたわりには耳に入れていなかったようだ。
「彼女たちに家出の理由はないし、家族は捜索願を出しているから公安警察も調査しているわ。でも、学園内の人間関係は部外者では踏み込めない部分が多い。模擬貴族社会である王立学園内は大人が思うよりも閉鎖的なのよ、そこで生徒会が中心となり、学園内での調査を進めることになったのよ。指揮はクリスが執っているの。そしてイヴァン・ヒューズの名が浮上したのよ」
「きっかけは、クローディアがメイドたちから聞いた噂話だった。数か月前、ヒューズ侯爵家のタウンハウスで、長年勤めていた執事や侍女たちが突然理由も告げられずに解雇されて、入れ替えられたとか、なにがあったんだろうって。ヒューズ侯爵夫妻の姿も見えなくなったし、領地へ帰ったとイヴァンは言っているけど、怪しさ満載だし、それに最初に失踪したソニア様はイヴァンの婚約者だったでしょ、念のため調べてみようってことになったのよ」
「確かに、急に使用人の顔ぶれが変わっていたわ、でも、頻繁に出入りしていた訳じゃなかったし、あまり気にしてなかったわ。イヴァン様に変わった様子はなく、相変わらず優しかったし」
「イヴァン様は穏やかな紳士に見えますものね」
「紳士の仮面を被った悪魔だったわけね、先日の暴力事件も、真犯人はイヴァンだとバレているのよ、でも、身代わりになった令息たちは口を噤んだままだし、今のところ証拠はないわ」
「じゃあ、エンリケ様たちの冤罪が証明できれば、名誉は回復されるんですか?」
「それは難しいわね、強要されたのはわかるけど、身代わりを買って出て偽証してるのよ」
「そんな……」
「実は、市井でも数か月前に平民の少女が何人か失踪したのよ。市井では奴隷商人に娘が拉致されるという話しは珍しくないけど、その頃よく街に出ていたらしいイヴァンが関係している可能性があるから、秘かに監視をしているのよ」
「ヒューズ侯爵家は禁止されている奴隷の売買に関与しているのですか?」
「それもまだ調査途中よ。そんな時、イヴァンがレイフォード様に接触していることを掴んだよ。生徒会メンバーではイヴァンに接触するのは無理だったから、レイフォード様に協力を持ち掛けたって訳よ」
私たちが話をしている間、王太子殿下はドリスメイ様の横顔を見ながら黙って聞いていた。私なんかがこんな込み入った話を打ち明けられていいものか不安になるが、レイ兄様が関係しているとなると聞かずにはいられない。
「なぜ、イヴァン様はレイ兄様に近付いたんですか? これまでは接点などなかったのに」
「レイフォード様曰く、愛する人を失った者同士だからですって」
「愛する人を失った?」
私はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
レイ兄様の愛する人? ヘンリエッタじゃないのは確かだし、兄様にそんな相手がいたなんて、知らなかった……。失ったと言うことは?
「まさか、失踪者の中に?」
「そこまでは知らないわ、生徒会メンバーの我が兄リジェールが連絡係をしているけど、そこまで親しくないから」
兄様に恋人がいたの? 家にいる時はそんな様子はなかったし……、学園内でもヘンリエッタ以外の令嬢と話をしているところを見たことはない。いつの間に出会って、いつ愛をはぐくんだの?
そっか……レイ兄様に愛する人が……。
ちょっと待ってよ、そのことはきっとヘンリエッタにバレていない。だから私が執拗に嫌がらせを受けているのよね。兄様に恋人がいたのなら標的はそちらでしょ。ひた隠しにしていたのね、そして本命を護るために私をスケープゴートにしたの?
私は新たな衝撃で頭の中がグチャグチャになった。
私を無視するあの態度は、他に好きな人が出来たから、私の気持ちを知っているから、あきらめさせるように取っていたことになる?
そうならそうと言ってくれればよかったのに……。
心臓が鷲掴みされたように痛んだ。レイ兄様に裏切られたような気分になって悲しくて、苦しくなった。
「ヒューズ侯爵邸でなにかが起きていることは確かよ、だから王家の影がヒューズ侯爵邸に侵入したんだけど、地下室らしき場所へは見張りが厳重で近付けなかったらしいわ、新しく雇用された使用人たちは、普通の使用人じゃないみたいなのよ、異様な雰囲気だったらしいわ」
「じゃあ、ソニア様が確かめに行けば?」
ゴーストは人に見られないし、壁も扉も通り抜けられるはずだわ。
「嫌よ! あんな忌まわしい場所に二度と行きたくないわ!」
「ソニア様ならヒューズ邸に簡単に入れるかも知れないけど、でもダメよ、そんな場所へ行けば、完全に悪霊になってしまうわ、あなたはここで待機していた方がいいわ」
私はそこまで考えが及ばなかった。
「そうですね、ごめんなさい」
「レイフォード様が行ってくれるらしいから」
「そんなのダメです! 危険すぎます、レイ兄様は素人なのですよ」
「でも、レイフォード様は協力を約束してくれてるし」
「絶対ダメです、止めなきゃ!」
私はいきなり走りだそうとしたが、ソニア様に止められた。
「レイフォード様はきっと危険を冒しても暴きたい真実があるのよ」
「あ……」
拉致されているかも知れない恋人を助けに行くのね。もう、生きているかわからないのに。
「それに、今は授業中だしね」
ドリスメイ様がため息交じりに言った。そうだわ、ずいぶん長い話になってしまったし、休み時間はとっくに過ぎている。
「あっ! すみません、すっかり話し込んじゃって、授業をサボらせてしまいましたね」
「大丈夫よ、私もクリスも優等生だから偶には……。そろそろ終わる頃じゃないかしら、放課後、生徒会室で会議よ、あなたも来る?」
お読みいただきありがとうございました。
霊感令嬢ドリスメイが登場する物語をシリーズにしましたので、他の作品も読んでいただければ幸いです。
☆☆☆☆☆で評価、ブクマなどしていただけると励みになります。よろしくお願い致します。




