その7
思いがけずドリスメイ様の方からのお声がけで、私はソニア様の元へ案内することが出来た。
ソニア様が待つ王妃の花園へ行くと、
「王太子殿下! 眼福! こんなに近くでご尊顔を拝することが出来るなんて」
王太子殿下の姿を見てソニア様はテンションマックス、悪霊になりかけているゴーストとは思えないほど喜びに顔を輝かせた。
「気持ちはわかりますけど、あなたが会いたがっていたのはドリスメイ様でしょ? それに殿下にあなたは見えていませんよ」
「それは残念だわ」
ソニア様は気を取り直して、
「ドリスメイ様、やっとお話が出来ますわ。あなたはフェリシティ様を殺した犯人を突き止めて、悪事を暴いたと聞いています。私にもお力をお貸しください! 私を殺した犯人はわかっています。イヴァンに裁きを! 奴を断罪してください!」
ドリスメイ様に訴えた。
「イヴァンに殺されたことはわかっているのね、どんな状況だったのかも覚えている?」
いきなり本題に入ったことに戸惑わず、ドリスメイ様は質問した。
「それが……曖昧なんです、最期に見たのが悪魔のような彼の顔だったのはハッキリしているんですけど、どうしてそんなことになったのか……」
思い出そうとして思い出せないソニアの顔が苦痛に歪む。
「無理しないで、じゃあ、イヴァンとの関係を最初から聞かせて」
「イヴァンとは一年前に婚約しました。彼の前の婚約者が二年前に病気で亡くなったと聞いていました。そのショックからまだ立ち直れていないけど、後継ぎだから早く次の婚約を調える必要があったと。でも、隠さずに打ち明けてくださったことは誠実に思いました」
「イヴァンは紳士的で優しかったし、私はすぐに好きになりました。前の婚約者は幼馴染だったらしく、過ごした時間も違いますから、すぐに私を好きになってもらうのは無理でも、少しずつ歩み寄ればいいと思っていました。順調だったはずなのに」
「私はなにか気に障ることをしてしまったのでしょうか? 殺されなきゃならないほどのことを? 全然わからない」
「当日のことを思い出せる?」
「あの日は……、確か、お忍びで市井デートしようと誘われていて、きっと家族に反対されるから、黙って抜け出しておいでと言われたんです。私は言われた通りにこっそり一人で邸を出ました。なんだかスリルがあるじゃない、平民のふりをして街を歩くなんて、そんなことは初めてだったしドキドキしながらヒューズ侯爵邸へ行きました」
「それから、平民の服を用意してあるからと、彼の部屋に案内されて……なんかそこから記憶が……」
なんだかメチャクチャ怪しい展開なんだけど。でもその時のソニア様はイヴァン様を少しも疑ってなかったのね。
「気が付いたら、暗い部屋にいました、硬くて冷たいところに寝かせられていて、天井だけが見えたけど、身体が動かなかったの、意識も朦朧としていて」
彼女の身体からまた黒い靄が湧き出す。
「怖かったです、かろうじて目だけを動かして、周囲の様子を見ようとしたけど、頭の中がグワングワンして……その時、目の前にイヴァンの顔が現れたんです」
聞いてるほうが怖い。ソニア様はさぞ恐ろしかっただろうと想像できるわ。
ドリスメイ様は、ソニア様の声が聞こえない王太子殿下に小声で中継していた。
「焦点が合わなかったからイヴァンの顔は歪んで見えたけど、笑っていたんです。そして私の顎を片手で掴んで口を開けさせ、液体を口に注ぎ込みました」
何を? 毒?
「血の味がしました、呑み込めずに口から溢れる感触が気持ち悪くて、でもかまわず注ぎ込まれました。噎せ返って苦しくて息が出来なくて……」
ソニアは苦しそうにヒューヒューと喉を鳴らしながら肩で大きく息をした。
「なぜ私があんな目に遭わなきゃならなかったの! なんの罪もない私を殺したイヴァンが憎い! 私はまだ生きたかった、まだやりたいことがいっぱいあった、幸せになりたかったのに!」
黒い靄を纏ったソニア様の目から涙が溢れた。
「落ち着いて、怒りはあなたの心を蝕むのよ」
私は思わず彼女を抱きしめた。彼女の身体は怒りに奮えていた。
「ごめんなさい、辛いことを思い出させて」
ドリスメイ様も涙を浮かべていた。
「じゃあ、あなたはヒューズ侯爵邸で殺されたのね」
「おそらく、でも、記憶が飛んでいますから、どこかへ運び出された可能性もあります」
「そうね」
「でも、犯人は間違いなくイヴァン・ヒューズです、彼の罪を暴いて、裁きを受けさせてください!」
ソニア様は両拳を握り締めた。
「もちろんよ、実はイヴァン・ヒューズには余罪がありそうなの、この三ヶ月であなたの他に五人もの生徒が行方不明になっているのよ。それに関係している疑いがあるから、今、秘かにイヴァンを探っているのよ」
ドリスメイ様は王太子殿下に視線を流した。
「これでイヴァン・ヒューズが犯人だとハッキリしたな」
「でも、ゴーストでは証人にないわ」
そうよね、ドリスメイ様にゴーストが見えることは公にしていないのよね。したところで、どれだけに人が信じてくれるかわからない。
「確たる証拠を手に入れればいい」
「いったい、イヴァン様はなにをしたのです? そんな人がレイ兄様と接触しているなんて、心配です」
「大丈夫、レイフォード様はこちら側だから」
「どういうことです?」
レイ兄様は既に巻き込まれているの?
お読みいただきありがとうございました。
霊感令嬢ドリスメイが登場する物語をシリーズにしましたので、他の作品も読んでいただければ幸いです。
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