その6
イヴァン様の名前にドリスメイ様は強く反応した。
「イヴァンと接点があったの?」
しかも呼び捨て。
「いいえ、直接じゃないですけど、イヴァン様の悪事を聞いたんです! だから兄に教えなきゃ!」
「悪事ってなに? それよりあなたはお兄様にどうやって伝えるつもり?」
「どうやってって……」
ドリスメイ様の口ぶりだと、イヴァン様についてなにかご存知のようだけど、そう言われると、エンリケ様の件は私が勝手に漏らせばエンリケ様たちに迷惑が掛かってしまうし、ソニア様を殺したなんて、本人のゴーストに聞いたとは言えないし……。
そうだ、ドリスメイ様はゴーストが見えるのよね、それなら、
「私はゴーストが見えるんです、話も出来るんです」
私は唐突に告白した。
「えっ?」
彼女は大きく目を見開いた。
「ドリスメイ様もお見えになるんですよね」
「えっとぉ」
困ったように眉を下げるドリスメイ様、きっと秘密にしているのだろう。そんな特殊能力はあると知られれば気味悪がられるだろうし、あまり役に立つ能力だとも思えない。
「大丈夫です、触れ回ったりしませんから。私は最近見えるようになったんですが、あまり人には言えない能力ですよね」
「……そ、そうね」
ドリスメイ様は苦笑いした。
「それで、出会ったゴーストのソニア様にイヴァン様の悪事を聞いたんですけど、そうですよね、そんなことを兄には言えませんよね、どう伝えればいいと思いますか?」
ドリスメイ様はかつてゴーストの導きで事件を解決したと聞いている。それなら、ゴーストが見えることを隠して、なんらかの方法でゴーストの話を裏付けたのだ。そのテクを教えてもらえれば!
もうレイ兄様たちの姿は校舎の中に消えていた。
「ドリス、こんなところにいたのか」
入れ替わりに、なんと!王太子クリストファ殿下が現れ、私は腰を抜かしそうになった。
「捜したんぞ」
うわっ! 殿下が目の前にいる!
美青年はレイ兄様で慣れているはずだけど破壊力が半端ないわ。プラチナブロンドにサファイアの瞳、幼い頃から王になるべく教育を受け、文武両道、クールで切れ者の完璧な王子様、滲み出るオーラの輝きが違うわ。レイ兄様の件はひとまず吹っ飛んだ。
私は慌てて深々とお辞儀をした。
「ルルーシュ王国の太陽、王太子殿下にご挨拶申し上げます」
そのまま顔を上げられないが、ドリスメイ様がクスクス笑っている声が聞こえた。私の挨拶、変だったのかしら?
「あなたは確かチェルシー子爵家のイングリッド嬢だったわね」
「私のこと、ご存知だったんですか?」
「ちょっとね」
私の名前を聞いた殿下も〝えっ?〟と言う顔をしている。私がイジメに遭っていることは生徒会でも知られているのだろうか?
「イングリッドはね、イヴァン・ヒューズの情報を持っているみたいなの」
ドリスメイ様は殿下にそう言った。
「そ、そうなのか?」
「はい」
私は頷いたまま、殿下をチラリと見た。
ドリスメイ様に優しげな眼差しを向けている。私など視界に入っていないのだ。
「でも情報を持っているのはソニア様で、私は彼女から聞いただけです」
「ああ、さっき言ってたゴーストの」
えっ? ゴーストの話をしても大丈夫なの? もしかしたら、
「殿下も見えるんですか?」
「クリスは見えないわ、でも、私が見えることは知ってるから……。子供の頃に見抜かれたのよ、幼い頃はゴーストと生きてい人間の区別がつかなかったから、宙を見て話しをしていた私を見て、ピンと来たんですって」
でも、殿下も子供ですよね、それだけで気付くなんて、やはり只者じゃない。
「どんな情報なんだ?」
殿下は相変わらず私を視界に入れず、ドリスメイ様だけに優しい眼差しを向けている。仲がいいとは聞いているが、普段は表情を出さない殿下が、これほど愛おしそうに見つめている姿は別人のようだった。
「ソニア様はイヴァン様の犯罪を告発したくて、この世に留まってるんです」
「ソニア様のゴーストって、もしかしたら最近見かけた真っ黒の悪霊になりかけているゴーストのことかしら? 関わり合いたくないから、あえて無視していたんだけど」
「ソニア・ノルティ伯爵令嬢のことか? 三ヶ月ほど前に行方不明になったはずだ、亡くなっていたのか」
「ええ、イヴァン様に殺されたと言っています」
「彼女、イヴァンに殺されたの!?」
驚いたドリスメイ様がオウム返しする。
王太子殿下が表情を変えないところ見ると、予想されていたのだろうか? さっき、亡くなっていることにも驚いた様子はなかったし。
「だから彼女はその恨みで悪霊になりかけているのね、今、どこにいるの?」
「王妃様の花園に、あそこは祈りが満ちた清浄な場所だから、心が鎮まるらしいです」
「王妃様の花園にいるのね、会えるかしら」
「ええ、ドリスメイ様をお連れしてほしいと頼まれているんです」
「じゃあ、行きましょう」
アッサリ承諾してくれたことは意外だった。
「僕も行くよ」
「あら、クリスは話を聞けないでしょ」
「君一人で行かせるのは心配だ」
「私には〝王家の影〟がついてるんでしょ」
「そうだけど、こんなに近くでは護れないだろ」
殿下はドリスメイ様の腰を引き寄せる。なんか、見ていられない、こっちが恥ずかしくて顔が熱くなっちゃうわ。
私もいつか、そんなふうに大切にしてくれる人と出逢えるんだろうか。
お読みいただきありがとうございました。
霊感令嬢ドリスメイが登場する物語をシリーズにしましたので、他の作品も読んでいただければ幸いです。
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