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私の日記は燃やしてください  作者: 弍口 いく


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2/12

その2

 学園まで三十分の道のりを、私はトボトボと歩いていた。こんな貴族令嬢はいないだろう。馬車は義父が乗って行ったきり戻っていない。もしかしたらもう売り飛ばされて酒代に変わっているかも知れない。


 外に出るのは何日ぶりだろう、出来るなら出たくはなかった。しかし、いつまでも休んではいられない、せっかくレイ兄様が入学させてくれたのだから、学園には行かなければならない。


 私は俯いて地面を見ながら歩いた。なるべくすれ違う人々との顔を合わせないためだ。なぜなら、それが生きている人間とは限らないからだ。


 なにを言っているのかって? 生きていなければ歩けない? そうじゃない、死んでいても彷徨っている存在があるのだ。


 そう、私にはゴーストが見える。

 なぜか突然、見えるようになってしまった。


 もともと不可思議なこと心霊現象や怪奇現象に興味はあったので、その関係の書物も読んでいた。でも、霊感があるわけではなく、今まで一度も見たことなかったし、見えるようになりたいなんて思ったことはない、だって、怖いじゃない!


 最初に気付いたのは我が家の厨房だった。夜、小腹が空いたので、なにかつまむモノがないかと探しに行った時、そこにラフィネの姿を見た。私は凍り付いた。彼女は長年勤めてくれた老齢のメイドだった。幼い頃からとてもお世話になって、優しい彼女が好きだった。でも、彼女は二年前に風邪をこじらせて亡くなっていた。


 だからすぐにゴーストだとわかった。


 なぜ? なぜ彼女は天に召されずまだココにいるの? それよりも、なぜ私に彼女の姿が見えるの?


 彼女が振り返った瞬間、私は慌てて目を逸らした。

 いつか読んだ書物に、ゴーストと目を合わせてはいけないと書いてあったのを思い出したからだ。見えていても見えないふり、知らん顔して通り過ぎるのがいい、目が合ったら取り憑かれると。


 幸いラフィネは私が見えていることに気付かなったようだ。入室した私を気に留めることなく、厨房を歩き回っていた。なにをするわけでもなく、ただ、ウロウロしていた。


 私はそっと厨房から出た。

 そう言えば、彼女は身寄りがなかった。ちゃんと供養してくれる人がいないから、天国へ行けないまま、長く務めた我が家に居座っているのだろうか?


 部屋に戻っても心臓はバクバクしたまま、しばらく鎮まらなかった。

 どういうこと? 昨日までは見えなかったものが、突然見えるようになるなんて……。もしかしたら、階段から落ちた時に頭を打ったから?


 いやぁぁぁ!

 私はベッドに突っ伏した。きっと偶々よ、今夜はなぜか波長が合ってしまって偶々見えただけよ、私はそう思いたかったが……。


 そうじゃなかった。

 ゴーストはどこにでもいる。


 ほら、あそこに立っている頭から血を流す貴婦人は、きっと馬車の事故ね。あの角にいるのは御者かしら、きっと最近事故が起きたんだわ。早く天に召されるといいんだけど……。


 私はその人たちと目が合わないようにしながら、学園に向かった。



   *   *   *



 久しぶりの王立学園、ここは私にとって居心地のいい場所ではなかった。


「おはようございます」

 教室に入っても、私に挨拶を返してくれる人はいない。ヘンリエッタが私の悪口を触れ回ったせいだ。私自身がどうこうではない、力のある伯爵家、マクガイヤー伯爵家は手広く商売をしている超富豪で、事業などなんらかの繋がりがある家も多い、だから睨まれて面倒に巻き込まれたくないのだろう。

 私はいつもいない者として扱われていた、いわゆる沈黙のイジメだ。


 でも、いいの、私にはそれでも見捨てないでいてくれる親友がいるから。

 幼馴染の二人アイリーンとキャメロンとは、クラスは別れてしまったが、お昼休みには合流している。でも、突然備わった奇妙な力を相談するかは迷っていた。


 なぜならアイリーンは今、大変な状況だったからだ。彼女の婚約者のエンリケ様が、事件に巻き込まれて学園を退学になった上、実家の男爵家からも除籍され、平民落ちしてしまったのだ。


 エンリケ様のことは私もよく知っている。アイリーンと婚約が調った時に紹介してもらった。騎士を目指す彼は、マッチョな躯体の頼もしい男性だった。

 そんな彼が市井で暴力事件を起こした――冤罪をかけられてしまったのだ。





「エンリケ様から手紙が来たのよ」

 アイリーンは嬉しそうに手紙を胸元で握りしめた。


 キャメロンとアイリーンと私は、いつもこの裏庭でランチをしていた。アイリーンはミルクティー色の髪に水色の瞳のおっとりフンワリした子爵令嬢。キャメロンはブロンドの巻き毛に青い瞳の少し派手に見える男爵令嬢。私たちの母親たちが友人だったので、母たちのお茶会に連れて行かれて知り合った幼馴染だった。


「良かったじゃない、最近、悲しいことがあって散々泣いたでしょ、だからあなただけでも元気になってほしかったのよ、で、で、なんて書いてあったの?」


 キャメロンは身を乗り出してアイリーンに迫った。手紙をぶんどる勢いだ。

「やめなさいよ、二人の秘密なんだから」

 私は彼女を止めようとしたが、アイリーンは特に隠すつもりはなかったようだ。


「仕事が見つかったんですって、大工見習」

「まあ、エンリケ様は力持ちだし、体力もあるから案外向いているかもね」

「それにああ見えて彼、器用なのよ」

「でも悔しいわ、なんでエンリケ様が処分されなきゃならないのよ!」

 キャメロンが綺麗な顔を歪めた。


 エンリケ様はタイラー男爵家の嫡男、アイリーンのスコッティ子爵家とは領地が隣同士で幼い頃からの知り合いで、エンリケ様が十四歳、アイリーンが十三歳の時に婚約が調った。アイリーンが学園を卒業したら結婚する予定だった。


 二人は仲が良くて、一年遅れで入学したアイリーンをとても気遣っていた。『アイリーンは可愛いから、他の男に手を出されたら困る』なんておのろけを聞かされたが、友人の私たちにも親切にしてくれた。


 そんな彼が一か月ほど前、退学になった。


 お読みいただきありがとうございました。

 霊感令嬢ドリスメイが登場する物語をシリーズにしましたので、他の作品も読んでいただければ幸いです。

 ☆☆☆☆☆で評価、ブクマなどしていただけると励みになります。よろしくお願い致します。


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