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私の日記は燃やしてください  作者: 弍口 いく


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10/12

その10

 ヒューズ侯爵邸の玄関前にマクガイヤー伯爵家の馬車が横付けされた。

 レイ兄様にエスコートされたヘンリエッタが降りてくる。華やかなドレスに身を包み、それはもう満面の笑みを浮かべている。

 兄様がスンとした無表情なのは全然気にしていないようだ。


 私たちは植栽に身を潜めて、その様子を窺っていた。


 王太子殿下直々に捜査現場に出るなんて思いもしていなかった私は驚いた。それにドリスメイ様まで同行するなんて。


「なんでドリスの同行を許したんだ? 足手纏いになるだろ」

 リジェール様は不服そうだ。それはそうだろう、邪神教徒摘発の危険な現場だ、お兄様としては心配だろう。溺愛している王太子殿下がよく許したものだと私も意外だった。


「今回は少々訳アリだ」

「なんだよ、訳って」

「いいじゃない、私が足手纏いにならないのはリジェ兄様も知ってるでしょ」


 ドリスメイ様は幼い頃から辺境伯領でお兄様たちと一緒に訓練を受け、護身術や剣術もそこいらの騎士より強いと自信満々に言っている、意外とじゃじゃ馬のようだ。


「ファイの合図があるまで待機だ」


 ファイとは王家の影の人らしく、先行して邸内に侵入しており、儀式のために地下室への扉が開かれたら突入の合図を送る手筈になっている。

 ロドニイ様とアンドレイ様は別の場所で騎士団や公安と共に待機している。


 そんなにうまくいくのだろうか?

 今夜は本当にディナーだけで、空振りに終わる可能性もある。


 しかし、程なく、低い笛の音のようなものが聞こえた。

「行くぞ」

 王太子殿下とリジェール様が立ち上がった。


 別同部隊も邸の建物に向かう、そして出入口、窓などの出入可能な場所を包囲する。

 私とドリスメイ様は王太子殿下とリジェール様に続いて正面玄関から邸内に入った。





 そこは王家の影でも侵入できなかった地下室だった。


 祭壇には邪神らしき銅像があり、儀式に必要な神具らしき装飾品が並べられている。それらが厳かな蝋燭の灯で照らし出されていた。

 その前に白いシーツが被せられたテーブルのようなものがあった。そこにはまだ両手両足を鎖で拘束されたヘンリエッタが寝かされていた。

 意識を失っているようでぐったりしている。


 すでに、室内にいたフード付きの黒いローブを身にまとった不気味な信者たちは、騎士たちに拘束されていた。

 そして、イヴァン様も後ろ手に縛られていた。


「罠だったのか」

 悔しそうにレイ兄様を睨んでいた。兄様は冷ややかな視線を突き刺していたが、王太子が入室したことに気付いて一礼した。


 イヴァンも気付いていたが、一瞥しただけでレイ兄様に視線を戻す。

「なぜ裏切った!」

「裏切ってはいない、騙したけどな。最初から俺は王太子殿下の意向で動いていたんだ」

「愛する者の魂を蘇らせたいと言ったのは嘘だったのか!」

「嘘じゃない、出来るならそうしたいさ。でも、そんなことは不可能だ、君はどうかしている」


「ふんっ、お前の愛っていうのはその程度のモノなんだな、俺は不可能を可能にしてみせる。どんなことをしてもジャニスの魂を蘇らせる。たとえ何人殺そうともな」


 いやいや、もう無理でしょ、捕まったんだから。極刑確定だと思うけど。あなたの魂を呼び戻そうなんて人はいないでしょう。


「何人生贄に捧げたところで死んだ者が蘇ることはないんだ」

 レイ兄様は辛そうに言った。まさか! レイ兄様の恋人は既に殺されていたの!?


 イヴァン様及びヒューズ侯爵家の調査は既に大詰めだったのだろう。王太子殿下の指揮で、騎士団や公安が動いたのだ、証拠も掴んでいたのだろう。後は現場を押さえて現行犯で一網打尽に、それは呆気なく幕を閉じた。

 イヴァン様は騎士たちに連行されて行った。


 拉致されていたと思われる令嬢たちは大丈夫なのかしら。と心配していると、図ったようなタイミングでレイモンド様から報告が入る。


「五人の令嬢は無事保護しました。命に別状はありませんがかなり衰弱していてショック状態で、すぐ病院へ搬送しました。それから、放置された白骨遺体が数体発見されました」


 その中にソニア様のご遺体もあるのだろう。やはり、ソニア様はこの地下室で殺されたのね。


 薬で眠らされていたヘンリエッタは拘束を解かれ、気付け薬で目を覚ました。

「いったい、なにが?」

 状況がわからずキョトンとする彼女に、リジェール様が簡単に説明する。


「君は邪神信仰の生贄にされるところだったんだ、でも、もう大丈夫、イヴァンは逮捕されたから」

「えっ? イヴァン様がそんな恐ろしいことを」

 ヘンリエッタは青ざめた。


「行方不明になっていた五人の令嬢たちも生贄にされるところ、助け出されたんだ、君たちの協力のお陰だよ」


「協力って……まさか、レイフォード様は知ってたの? 知ってて今夜の招待を受けたの」

「そうだ、捜査の協力を頼まれていたので」

 とレイ兄様は王太子殿下に目をやる。


「酷いわ! いくら王太子殿下の頼みだからって、私に断りもなく、こんな危険な目に遭わせるなんて!」

 ヘンリエッタはテーブルから下りて、レイ兄様の胸を叩いた。

「ああ、酷い男だよ、でも、そうさせたのは君だ」

 レイ兄様はどこまでも冷ややかに、彼女を軽蔑しきった目で見下ろした。


「なぜイヴァンが俺を仲間にしようとしたかわかるか? 君を差し出すと思っていたかわかるか? それはイヴァンが目撃したことを教えてくれたからだ」

「目撃、ってなにを」

「まだ惚けるのか? 君がイングリッドを突き落とした現場だよ」

「違う……あれは」


「イヴァンはハッキリ見たそうだ」

「あんな男の言うことを信じるの? 邪神教徒だったんでしょ、美しい私を生贄として手に入れるために、あなたを騙したのよ」

 こんな時でも美しいって自分で言う?


「いいや、こちらでも調べ直したよ。他にも目撃者がいたけど、マクガイヤー伯爵に大金を積まれて黙ったそうだ」

 王太子殿下が口を挟んだ。


「君は裁判にかけられる、娘の犯罪を隠ぺいした父親も同罪だ」

「おれは事故です! 私はそんなつもりじゃなかった、まさか死ぬなんて思ってなかったんです!」


 えっ……?


 お読みいただきありがとうございました。

 霊感令嬢ドリスメイが登場する物語をシリーズにしましたので、他の作品も読んでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
 イヴァンがとうとう。上手くヘンリエッタを餌に出来ましたね。  そして、前回の生徒会での皆の会話から何かおかしいと思っていたのですが、……やはりそうなのですね?
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