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第十二話 最後だから、あとがき乗っ取ってみた(*'▽')

天から降り注ぐ無数の星屑が地上を赤く焦がす。


空からの輝きは、本来なら祝福のように見えるはずだった。

だがその夜、空を覆ったのは祝福ではなく――裁きだった。


天を埋め尽くす星の欠片が、赤い尾を引きながら大気を裂いて落ちていく。

巨大なものも、小さなものも、どれもが容赦なく地表を穿ち、

地上を赤く焦がす。

街を、森を、海を、そして人々の暮らしを理不尽に焼き払った。


天から降る災害は、あまりにも強大だった。

文明は、簡単に壊れた。

積み上げた技術も、誇った文化も、守るべき未来も、

星屑の雨の前では紙の城のように、なすすべもなく崩れ落ちた。


そして――怒りが始まった。


誰かが言った。

「これで俺たちはみんなクソッタレだ」

恐れていた事が現実となった。


すべての人が幸せを望めるように定めた法律が悲鳴を上げる。

信じる者と書いて、儲けると読むその性根が生易しく感じる。

罪人達の滅びの狂騒曲きょうそうきょくが足音を響かせて迫って来る。


誰かが叫び、誰かが責め、誰かが報復を望んだ。

怒りは怒りを呼び、憎しみは憎しみを増幅させ、

やがて世界中の空に、巨大なキノコ雲がいくつも咲いた。


その花は、決して枯れなかった。

枯れる前に、世界が枯れたからだ。


炎は消えず、風は熱を運び、

海は沸騰し、大地は溶け、

空は灰色の幕で覆われた。


青かった星は、たった三日で死んだ。


生き物の声は消え、

街は影だけを残し、

文明は跡形もなく吹き飛んだ。


奇跡の星の終焉は、天災から始まり、人災がとどめを刺して死んだ。


そして――その世界には、ひとつの魂だけが残った。


「……夢? いや……これは……記憶の残滓……?」


声にならない声が、虚空に溶けていく。

肉体を失った魂は、長い年月を彷徨い続けていた。


何も残らない荒廃した世界を、

まるで“かつての自分”を探すように漂い続けていた。


魂は、微かに残る記憶を手繰り寄せる。

それは、滅びの光とは対照的な、狭くて、暗くて、温かい場所――。


六畳の部屋。

微かに残る生前の記憶。


そこが、魂のすべてだった。


一日の大半を眠って過ごし、

どこからともなく湧いてくる食べ物を貪り、

湧き出る命の泉――電気、ガス、水道、兄の稼ぎ――に浸り、

また眠りに落ちる。


働いた記憶はない。

努力した記憶もない。

ただ、眠りと怠惰だけが積み重なっていた。


だが、その六畳の世界には“もうひとつの存在”があった。


兄だ。


毎日働きに出て、

毎日どこかの生活空間を掃除して、

帰ってきては、六畳の部屋を整え、

弟のために食事を置き、

また働きに出る。


魂は、その兄に依存していた。

感謝しながらも、怠惰をやめられず、

嫉妬しながらも、努力できず、

憧れながらも、追いつけず、

やがて――兄の記憶と自分の記憶が混ざり始めた。


長い年月を彷徨ううちに、

魂は“自分”を見失った。


兄の記憶を抱きしめ、

兄の言葉を反芻し、

兄の影に縋りつき、

やがて――。


「兄……良治……?」


魂は、兄の名を呼んだ。


その瞬間、記憶がひび割れた。

兄の姿が揺らぎ、六畳の部屋が崩れ、

滅びた世界の灰が舞い上がる。


記憶の奔流が引き、世界が静かになった。

灰色の空も、燃え尽きた街も、崩れた六畳間も、すべてが遠ざかっていく。

まるで誰かが、私の意識をそっと別の場所へ導いているようだった。


暗闇の中に、ひとつだけ光があった。

それは、懐かしいようで、どこか胸が痛むような――

そんな、温度を持った光。


(……ここは……?)


光の中に、六畳間の影が浮かび上がる。

畳の匂い。

散らかった漫画。

積み上がったカップ麺の空き容器。

兄が買ってきた総菜のパック。

そして――布団に沈む自分。


いや、“自分だと思っていた誰か”。


その姿を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


(……俺じゃない)


布団に沈んでいるのは、

怠惰で、

無気力で、

兄に甘えきって、

何も変えられなかった――

あの頃の“弟”。


清史。


(……俺は……兄じゃない)


その言葉が、胸の奥で小さく弾けた。


兄の記憶は、確かにあった。

兄の言葉も、兄の背中も、兄の努力も、兄の優しさも、

全部、鮮明に覚えている。


だが――それは“自分の記憶”ではなかった。


兄の記憶を抱きしめ続けたのは、

兄に依存し、

兄に憧れ、

兄に嫉妬し、

兄に守られ続けた“弟”の方だ。


長い年月を彷徨ううちに、

魂は兄の記憶と自分の記憶を混ぜ合わせ、

やがて境界が溶けていった。


兄の言葉を自分の言葉だと思い、

兄の行動を自分の行動だと思い、

兄の人生を自分の人生だと思い込んだ。


(……俺は……兄じゃない……)


光が揺れた。

六畳間の景色がひび割れ、

布団に沈む“弟”の姿がぼやけていく。


「そうだ……僕は……キヨ……シ……清史だ……」


そして魂は、ようやく思い出した。


――自分は兄ではない。


声にならない声が震えた。


ずっと兄だと思い込んでいた。

ずっと兄の記憶に寄りかかっていた。

ずっと兄の影を自分だと錯覚していた。


魂が震えた。


記憶の奔流が押し寄せ、

六畳の部屋が霧散し、

滅びの世界が再び広がる。


兄の記憶が霧のようにほどけ、

魂の奥底に沈んでいた“本当の名前”が浮かび上がる。


清史。


怠惰で、

弱くて、

努力できなくて、

兄に甘え続けて、

兄に守られて、

兄に依存して、

兄を失って――

壊れた魂。


(……俺は……僕は死んだんだ……死んでいたんだ)


その事実が、静かに胸に落ちた。


滅びの光に焼かれたのは、世界だけじゃない。

自分自身も、その中で消えていた。


弟を疎ましく、煩わしいと思っていたのは自分自身だった。

肉体が滅びても彷徨い、想い出に逃げていたのも自分自身だった。

輪廻から外れた存在――。


そして――。


(……じゃあ、今の俺は……?)


問いが生まれた瞬間、

視界が揺れた。


炎の赤。

悲鳴の残響。

焦げた木の匂い。

村の夜空を裂く太鼓の音。


魂は、現実へと引き戻されていった。


「……盗賊……村……子供たちは……?」


清史は、記憶の闇から抜け出し、

再び“今”へと戻っていった。


だが――

戻った先で待っていたのは、

かつての六畳間よりも、

滅びた地球よりも、

ずっと残酷な光景だった。


記憶の闇がほどけ、光が遠ざかり、

六畳間も、兄の影も、滅びた地球の灰も、

すべてが霧のように消えていった。


代わりに――

熱が、戻ってきた。


焦げた木の匂い。

焼けた土の匂い。

血の鉄臭さ。

そして、耳をつんざく悲鳴。


(……ここは……)


視界が開けた瞬間、

世界は赤かった。


村が燃えていた。


家屋が炎に包まれ、

屋根が崩れ、

人々が逃げ惑い、

地面には倒れた村人の影がいくつも転がっている。


「やめろ! やめろ、おまえらぁぁぁ!!」


気づけば叫んでいた。

声は震え、喉が裂けるほどに叫んだ。


だが――。


誰も振り向かない。


斬られた村人に駆け寄ろうとした。

手を伸ばした。

助けようとした。


けれど――。


「……なんだこれ……動けねぇ……」


足がない。

腕がない。

身体がない。


地を蹴ろうとしても、

這って近づこうとしても、

何ひとつ動かない。


視界だけが、村の上空に固定されていた。


(……俺……浮いてる?)


いや、違う。

浮いているというより――漂っている。


自分の姿を見ようとした瞬間、

“それ”が分かった。


光の玉。


自分は、光の玉になっていた。


(……は?)


理解が追いつかない。

だが、感覚だけははっきりしている。


自分は、

肉体を持たない。

霊体でもない。

もっと曖昧で、もっと脆くて、

触れれば壊れそうな“魂そのもの”。


(なんだこれ……どうなってんだ……)


その時だった。


頭の中に、声が響いた。


「キヨ坊、大丈夫だ。俺がなんとかしてやるから。」


懐かしい声。

優しくて、強くて、

ずっと背中を追いかけてきた声。


「……良治……!」


兄の声だ。


姿は見えない。

だが、確かにそこにいる。


「はは……おまえには、いつも兄貴とか兄さんと呼べって言ったろ。

 結局一度も呼ばなかったな。」


兄の声は、あの頃のままだった。

六畳間で、

台所で、

玄関で、

何度も聞いた声。


胸が熱くなる。

涙が出そうになる。

だが、涙を流す身体がない。


「……あ……良治……その……」


言葉がうまく出ない。

声が震える。

兄の前だと、昔からこうだ。


ガキから青年へ変わる頃、兄は「ママ」から「お袋」に、呼び方を変えた。

最初は照れくさそうにはしていたが、次第に普通になった。

俺はオマエの兄なんだ、いつまでも名前を呼び捨てって、そりゃねぇだろ。

僕は変えられなかった。代わりに呼ばなくなった。

言葉が出なくなった。


変なプライドが邪魔しているのか、そういう努力もする事が出来なかった。


「元気だったか? いや……もう死んでるか。

 はは、奇遇だな。俺も死んでる。」


兄は軽く笑った。

その笑い声が、懐かしくて、胸が痛い。


「けどな、俺はギリギリ運が良かった。

 神霊化して、暴走する前のお前を核に封じる事ができた。」


「……神霊……封じ……?」


「このままだと、お前は悪霊化してた。

 だから、お前の魂核と俺の魂核を入れ替えた。」


(……魂核……入れ替え……?)


理解が追いつかない。

だが、兄の声は続く。


「今のお前じゃ、闇の力を制御できない。

 だから代わりに俺が引き受ける。」


「……良治……」


「それと――盗賊の件だがな。」


兄の声が、少しだけ低くなった。

いまだに名前でしか呼べない僕を、諫める事もせず。


「俺があいつら全員、別の世界に引きずり込む。

 他世界の闇と共鳴した奴等を、この世界に残すわけにはいかない。」


(……別の世界……)


兄は続ける。


「時間がない。

 詳しいことはシイゴ――この世界の神に聞け。

 ま、そんなところだ。」


「……あ……うん……」


うまく返事ができない。

兄の前だと、昔から何も言えない。


だが、兄はいつも通り、

それを察してくれる。


「じゃ……またな。」


その言葉と同時に、

兄の気配がふっと消えた。


同時に――

村の炎が、音もなく消えた。


斬りかけた盗賊も、

火矢を放とうとした盗賊も、

太鼓を打ち鳴らす親玉も、

すべてが光に呑まれて消えた。


まるで最初から存在しなかったかのように。


そして――

村は静寂を取り戻した。


炎の跡だけを残して。



兄の気配が消えた瞬間、

世界は――静かになった。


炎の轟きも、

盗賊の怒号も、

村人の悲鳴も、

すべてが嘘のように消えた。


まるで、

世界そのものが一度“息を止めた”ような静寂。


(……良治……)


兄の声――余韻だけが、胸の奥に残っていた。

懐かしくて、温かくて、

そして――痛い。


視界の下では、村がゆっくりと姿を変えていく。


燃えていた家屋の炎が、

風に吹かれたロウソクのようにふっと消えた。


倒れていた村人の身体が、

淡い光に包まれていく。


傷口が閉じ、

血が止まり、

呼吸が戻る。


(……これ、兄貴の……いや、良治の……力?)


違う。

兄の力だけじゃない。


空気の奥に、

もっと大きな、もっと深い、

“世界そのものの意志”のような気配があった。


(……シイゴ……)


この世界の神。

兄が最後に名前を出した存在。


その力が、村を包んでいた。


焼け落ちた家の柱が立ち直り、

崩れた壁が元の形を取り戻し、

焦げた地面に草が芽吹く。


まるで時間が巻き戻されているようだった。


だが――

すべてが元通りになったわけではない。


村の中央には、

焼け焦げた家屋の残骸がひとつだけ残されていた。


(……全部は戻さない、ってことか)


神の力でも、

兄の力でも、

“失われた命”だけは戻せない。


その事実が、静かに胸に落ちた。


けれど――。


「……あれ? お母さん、痛くない……!」


「おじいちゃん、生きてる! 生きてるよ!」


「火が……消えてる……?」


村のあちこちから、

驚きと喜びの声が上がった。


子供たちの笑い声が、

まるで春の風のように村を満たしていく。


(……よかった……)


胸の奥がじんわりと温かくなる。


だが、その温かさの中に、

ひとつだけ冷たい影があった。


(……兄貴……どこ行ったんだよ)


兄の気配は、もうどこにもない。


盗賊たちと一緒に、

別の世界へ消えた。


清史は、

光の玉のまま、

静かに村を見下ろしていた。


その時だった。


「……あの……」


かすかな声が、

清史の“意識”に触れた。


村の中央に、

村長らしき老人が立っていた。


彼は、

まるで空に向かって話しかけるように、

両手を合わせて祈っていた。


「……村を救ってくださった御方よ。

 どうか、この村を……これからもお守りください……」


(……え? 俺?)


清史は戸惑った。


だが、老人の祈りは続く。


「あなたは……この村の守り神に違いありません。

 どうか……どうか、我らをお導きください……」


(いやいやいやいやいや!)


清史は慌てた。


(俺、ただの……いや、ただのでもないけど……

 守り神って……そんな大層な……)


だが、光の玉の身体は動かない。

否定もできない。

逃げることもできない。


村人たちが次々と集まり、

同じように祈り始めた。


「守り神さま……」

「ありがとうございます……」

「どうか……どうか……」


(ちょ、待てって! 俺そんな……!)


だが、声は届かない。


清史はただ、

光の玉として、

村の上空に漂うだけだった。



世界が静かになったあとに残った、ひとつの光。

清史――いや、清史の魂核。


炎が消え、

傷が癒え、

村人たちが安堵の声を上げる中で、

その光だけは、どこか取り残されたように揺れていた。


良治の声の余韻は、まだ胸の奥に残っている。

けれど、その気配はもうどこにもない。


兄は、盗賊たちと共に消えた。

別の世界へ。

清史の代わりに。


(……なんでだよ……)


問いは浮かぶ。

けれど、答えは出ない。


兄はいつもそうだった。

清史が理解するより先に、

必要なことを全部やってしまう。


六畳間でも、

滅びた地球でも、

この異世界でも。


(……ずるいよ、兄貴……)


光の身体が、かすかに震えた。


その時――

空気が揺れた。


風でもなく、音でもなく、

“世界そのものの呼吸”のような揺らぎ。


(……シイゴ……?)


兄が最後に名前を出した存在。

この世界の神。


姿は見えない。

声も聞こえない。


だが、確かに“そこにいる”と分かる。


世界の奥底から、

静かに、優しく、

清史の魂に触れてくる気配。


ふっと、眠気が押し寄せた。


重くて、

温かくて、

抗えない眠り。


(……あ……これ……)


兄が言っていた。


“精霊核として封じた”と。


つまり――

眠るしかない。


(……寝るのは……得意だし……)


意識がゆっくりと沈んでいく。

光がゆっくりと薄れていく。


村の祈りの声が遠ざかり、

光が薄れ、

世界が柔らかい闇に包まれる。


(……兄貴……またな……)


そして――

清史は眠りについた。


守り神として。

怠惰の魔王として。

そして、兄の弟として。



その柔らかい闇の中で、

ふっと別の気配が揺れた。


小さな光が二つ。

星の残光のような、淡い輝き。


少年と少女――

神の使い。


彼らは、清史の眠りを見守るように漂っていた。


「……おじさん……」

少女の声が震える。

「ごめんね……守れなくて……」


「でも……大丈夫だよ」

少年が続ける。

「あなたは……もう落ちない。

 だって……お兄さんが全部背負ってくれたから……」


(……兄貴……)


眠りの中で微かに意識を繋ぐ。

魂核の光が揺れる。


少年少女は、清史の光にそっと触れた。


「私たち……お兄さんを追うよ」

「だって……あの人、絶対に無茶するから……」


(……だろうな……)


清史は、かすかに笑った気がした。


兄はいつもそうだ。

誰かのために無茶をする。

清史のために、何度も。


そして今回も――

清史の代わりに、別の世界へ飛んだ。


(……兄貴……気をつけろよ……)


光が薄れ、

意識が沈んでいく。


少年少女の声が遠ざかる。


「またね、おじさん……」

「眠ってていいよ……今度は私たちが守るから……」


その言葉を聞き終わる前に、清史は最後の意識を手放し……

彼の世界は闇に溶けた。




清史の意識が眠りに沈んでいくと同時に、

村の空気はゆっくりと変わり始めた。


炎の匂いが薄れ、

焦げた木の煙が消え、

夜風が静かに村を撫でていく。


まるで、

世界そのものが深い息を吐き出したような――

そんな静けさ。


兄との別れを惜しむ様に、その最後は、夢の中で何度も繰り返された。


「……火が……消えてる……?」


「お母さん、痛くない……! 傷が……治ってる……!」


「神さま……守り神さまが……!」


村人たちの声が、

驚きと安堵と涙で震えていた。


倒れていた者たちはゆっくりと目を開け、

焼け落ちた家屋の多くは元の形を取り戻し、

村の中央には、淡い光がひとつだけ漂っていた。


世界が揺らめき“二重”になった村の景色の奥。

盗賊たちの影は、もうひとつの別の悪意と重なった。

別の世界を引き寄せたのは、たぶん僕。

その罪を被ったのは……未来を守ったのは兄だ。

けれど――。


清史の魂核――

守り神となった光は、村の中央で弱弱しく瞬く。


村人たちはその光に気づくと、

自然と膝をつき、手を合わせた。


「……守り神さま……」

「どうか……どうか、この村をお守りください……」


光は何も言わない。

ただ、静かに揺れているだけ。


だが、その揺れはどこか温かく、

村人たちの胸に安堵をもたらした。


(……いやいやいや……俺そんな……)


清史の心の声は届かない。

届かないが、光はどこか照れくさそうに揺れた。


すぐに調子に乗る所は、彼の長所でもあり短所とも言える。

咎める兄はもう居ない。寄り添ってくれる兄も。

けれど一緒にゲームをすると、いつも最後には勝ちを譲ってくれる兄のことだから、きっとこの程度の事は笑って済ませてくれるだろう。


神や兄の後ろ盾を得た、偽者の守り神は平穏な時を刻む。

村人たちはその揺れを“神の応え”だと思い、

さらに深く頭を下げた。


こうして、

清史は村の守り神として祀られることになった。


---


◆少年少女の旅立ち


村の片隅で、

二つの小さな光が揺れていた。


少年と少女――

神の使い。


彼らは、眠りについた清史をしばらく見つめていた。


「……おじさん、眠っちゃったね」

少女が小さく呟く。


「うん。でも……これでよかったんだよ」

少年が頷く。


二人の光は、どこか寂しげで、

どこか誇らしげだった。


「お兄さん……行っちゃったね」

「うん。でもあの人、絶対に無茶するから……」


「追いかけなきゃね」

「うん。だって……あの人、放っておけないし」


二人は清史の光にそっと触れた。


「またね、おじさん」

「次は……別の世界で会えるかもね」


光がふっと揺れ、

二人の姿は夜空へと溶けていった。


まるで、

星へ帰っていくように。


---


村の静かな朝


夜が明けると、

村はまるで何事もなかったかのように静かだった。


鳥が鳴き、

風が草を揺らし、

子供たちの笑い声が響く。


だが、村の中央にはひとつだけ変化があった。


小さな祠が建てられていた。


その中には、

淡く光る玉がひとつ――

清史の魂核。


村人たちはその前に花を供え、

祈りを捧げた。


「守り神さま……今日もどうか……」


光は静かに揺れた。


(……寝てるだけなんだけどな……)


清史の心の声は届かない。

届かないが、光はどこか心地よさそうに揺れた。



村は平和を取り戻した。

清史は眠りについた。

良治は別の世界へ旅立った。

少年少女はその後を追った。


世界は静かに回り続ける。


だが――

その静けさの裏で、

別の世界では新たな物語が動き始めていた。


軍勢が迫る村。

剣と盾のぶつかる音。

炎に包まれる砦。

そして――

異世界へ飛んだ良治。

良治のあとを追った精霊たち。


その世界の名は――

**K2-415b(パラレルワールド415)**。

地球が滅んだ世界線での異世界物語。


清史の眠りの裏で始まる

兄たちの物語譚はまた、別の機会で――。


---


世界が静かになってから、どれくらい時間が経ったのだろう。


光の玉となった僕は、

村の中央に建てられた小さな祠の中で、

ゆらゆらと揺れながら眠っていた。


いや、眠っていた……というより、

**寝ていた。**


(……あぁ……よく寝た……)


意識がふわりと浮上する。


身体はない。

腕も足もない。

けれど、眠りから覚める感覚だけは、なぜかしっかり残っている。


(……あれ? 俺、まだ寝てていいんだっけ?)


ぼんやりしていると、

祠の外から子供たちの声が聞こえてきた。


「守り神さま、今日もお願いします!」

「お水いっぱい出ますように!」

「お母さんが元気になりますように!」


(……いやいやいや……俺そんな万能じゃないからね?……)


心の声は届かない。

届かないけど、光はなぜか“ありがたそうに”揺れてしまう。


(……あ、これ……勝手に揺れるのか……)


どうやら、精霊核というのは、

本人の意思とは関係なく“それっぽい反応”をしてしまう仕様らしい。


(……便利なのか、不便なのか……)


そんなことを考えていると、

ふと、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚が広がった。


(……兄貴……)


良治の声は、もう聞こえない。

気配もない。

あの温かい笑い声も、もう届かない。


代わりに残っているのは、

兄が最後に残した言葉。


「じゃ……またな。」


(……またな、って……どこでだよ……)


光がかすかに揺れた。


その揺れは、

祠の前にいた村人たちには“神の応え”に見えたらしい。


「守り神さまが微笑んでおられる……!」

「ありがたや……ありがたや……!」


(いやいやいやいや! 違う違う違う!)


心の声は届かない。

届かないけど、光はまた“ありがたそうに”揺れてしまう。


(……これ、慣れるまで時間かかりそうだな……)


そんなことを考えていると、

ふと、遠くの空に小さな光が二つ、流れていくのが見えた。


少年と少女――

神の使い。


彼らは、兄の後を追って旅立った。


(……兄貴……無茶すんなよ……)


光がそっと揺れた。


村は平和だ。

子供たちの笑い声が響き、

大人たちは畑を耕し、

夜になれば祠の前で祈りを捧げる。


僕は――

その村の片隅で、

ただ静かに揺れているだけ。


(……まぁ、寝るのは得意だし……)


眠気がまた押し寄せてくる。


(……兄貴がなんとかしてくれるし……)


意識が沈む。


(……ニート万歳……)


光がふわりと揺れた。


そして――

清史は再び眠りについた。


守り神として。

怠惰の魔王として。

そして、兄の弟として。


---


■後日談(神話化)


季節は巡り、

村には新しい家が建ち、

子供たちは大きくなり、

やがてその子供たちにも子供が生まれた。


時は流れ、

人は変わり、

村の景色も少しずつ変わっていった。


だが――

村の中央に建つ小さな祠だけは、

いつまでも変わらなかった。


祠の中には、

淡く光る玉がひとつ。


清史の魂核。


村人たちは、その光を“守り神”と呼んだ。


朝には祈りを捧げ、

夜には灯りを供え、

祭りの日には花を飾り、

子供たちは祠の前でかくれんぼをした。


光はいつも静かに揺れていた。


(……寝てるだけなんだけどな……)


清史の心の声は届かない。

届かないが、光はどこか心地よさそうに揺れた。


村は大きくなり、

やがて町となり、

町は国の地図に載るほどの規模になった。


だが、祠だけはそのまま残された。


人々はその祠をこう呼んだ。


**「怠惰の魔王の祠」** と。


魔王――

この世界には七人の魔王がいる。

強大な力を持つ、魔を司る王。神々の次点と称された世界の王。


だが、彼等は誰も恐れてはいなかった。


むしろ、

「今日も寝てるのかな」

「働かない神さまって逆に安心するよね」

「怠惰の魔王さま、今日も平和をありがとう」


そんなふうに、

親しみを込めて呼ばれていた。


光は静かに揺れた。


(……いや、寝てるだけなんだけど……)


心の声は届かない。

届かないが、光はどこか誇らしげに揺れた。



さらに時は流れ、数百年後


世界は変わり、

文明は進み、

空には飛行船が浮かび、

大地には鉄の道が敷かれた。


だが、祠だけは変わらなかった。


ある日、

祠の前にひとりの老人が立った。


白い髭をたくわえ、

杖をつきながら、

祠を見上げて微笑んだ。


「……おい、キヨ坊。

 おまえ、ちっとは働けよ」


その声は、

どこか懐かしく、

どこか優しく、

どこか呆れたようだった。


光がふわりと揺れた。


(……えー……いいじゃん……世界の平和を祈ってるんだよ……)


老人はため息をついた。


「祈ってる、じゃねぇよ。

 横になって目ぇ閉じて……寝てるだけだろうが」


(……バレた?)


「バレるわ!」


老人は杖で祠を軽く叩いた。


「まったく……何百年経っても変わらねぇな、おまえは」


光が揺れた。


(……兄貴……)


老人は微笑んだ。


「さて……そろそろ行くか。

 あっちの世界の方が、どうやら騒がしいらしい」


光がかすかに震えた。


(……兄貴……また無茶する気だ……)


「おまえは寝てろ。

 どうせ起きても何もしねぇんだから」


(……ひどくない?)


「事実だろ」


老人は笑った。


そして――

風に溶けるように姿を消した。


光はしばらく揺れていたが、

やがて静かに落ち着いた。


(……兄貴……またな……)


そして清史は、

再び深い眠りへと沈んでいった。




この世界、シイゴの世界には特殊な魔王が存在していた。

誰も穢さず、誰も傷つけず、ただただ平和を貪りながら惰眠にふける魔の王。


人の心は、光にも闇にも容易に傾く。

光に照らされ、闇に揺らめき、迷い、見失い、悩む。

彼は光の強さにも、闇の深さにも屈さず、斑色の心で怠惰の王を演じ続けた。


その魔王は人々に呆れられ、時には笑いを、時には失笑を誘いながら村の片隅で平和を祈っていたそうな。。。


弟うん メインストーリー Episode――完


人々は愛着を込めて彼をこう呼ぶ。


怠惰の魔王、と。


あとがき


よーし、平和な感じで終わった、大団円ぢゃん♪

とか思うじゃん?


でもまぁ、なんていうか………色々ありすぎて、ちょっと疲れたよね。


パトラッシュ、疲れたろう?

僕も疲れたんだ、、、なんだかとても眠いんだ、パトラッシュ…


「って、ちゃうねん!寝るだけ・・・寝るだけだから!」


僕の中の何かが、激しくツッコミを入れてくる。

ってトコで、とても久々ではございますが、どうもこんにちわ。

兄・・・ではなく、弟の清史です。


最後なんで、

天音樹サンの「あとがきコーナー」も乗っ取って好き勝手やっちゃいます(*'▽')


いやぁ、ついにと言うかなんと言うか。

この物語も終わりを迎えましたね。


全十二話ですか。いやぁ・・・ははは。

これはあれですね。打ち切りって奴ですかね、はっはっはw


おおっと、どこからか軽々しく「打ち切り」って言葉を使うなってクレームが聞こえてきますね。

何々?その言葉一つに怯えてる人達もいるから?少しは忖度しろ?


はっはっは、いいんスよ。

森羅万象、 あらゆる物事や現象、形あるものすべてに意味があります。

打ち切り・・・おっと、急に終わってしまったとしても、次に生まれる何かの為に、大切な意味のあった事柄なのかもしれません。


こーゆーのはなんて言うんスかねぇ、諸行無常かな?

んー、この世のすべてのものは常に変化し、決して同じ状態に留まらない。

永続するものはなく、すべてが生滅を繰り返すという真理?


ま、ま、いいじゃないっすか、僕は寝りにつけるし、村も平和になった。

あーそうだ。犠牲になった村人さん達なんですけどね、なんだか生き返ったみたいっすよ。


誰だよ、「“失われた命”だけは戻せない」とかドヤ(*'▽')で言ったのは。

あぁ、俺かw

実際、色々ルールもあってめっちゃ疲れるらしいっすけどね。

ま、疲れるのはシイゴサンだから、別に問題ないっす。


いやぁ、すげぇっすね、さすが神っすわ。


ぱねっすw


え?良治はどうなったかって?

大丈夫っすよ、たぶん次の物語でも元気に活躍するんじゃないっすかね、しらんけどw

ま、だてに長年、僕を養ってくれていたわけじゃないっすよ。


ってな感じで、今回は・・・いや、この物語は終了としたいと思います。

え?何?天音樹サンからも一言?

いいっすよ~、一言だけね。じゃ、どーぞ♪


天音樹

「アディオ―――ス、アミー」

清史

「ばぃばーぃ♪」


あーそうだ。最後に・・・

僕の家計は……火の車どころか無一文だけど、寝るだけだし問題ない!

なんかあったとしても、良治がなんとかしてくれるから問題ない!!

ニート万歳!!!


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