孤島の悪魔ー起ー
「しかし周り何もないなー」
「うん、完全に隔離された島みたいだね」
「まあ、こんな辺鄙な所、俺らみたいなオカルトマニアくらいしか来ないだろうよ」
「俺らって、いつも言ってるけど俺は超常現象を科学で解明するためにー」
「わかったわかった。どした桐谷?いつもの霊感か?」
「いや、ただの船酔いー。あー気持ち悪ー。」
俺たちは、K大学の3年生、都市伝説研究会、通称都市研のメンバーだ。
来年から就活で忙しくなる前にと、調査という名目で長めの旅行をすることにし、7人で伊豆諸島のZ島という無人島に行くことにした。
Z島では20年ほど前に、一夜にして住民10名近くが全員失踪したという都市伝説があり、それに興味を持った形だ。実際に、この島には人が暮らしていた形跡があるようだ。今は無人の宿泊施設が一つあるだけで、俺たちのような物好きしか訪れない。4泊5日をそこで過ごすことになる。
今は近くの島から船で目的地まで移動中だ。
俺は須田守、
特に語ることもない普通の大学生だ。あえて言うならオカルトに興味があるというだけだが、それもこのメンバーの中では特徴にならない。
「風が気持ちいいね」
永瀬百合
俺が密かに想いを寄せる女性だ。ゼミで仲良くなり、ダメ元でこの研究会に誘ってみたらなんとオーケーしてくれた。大人しそうに見えて、心霊スポットでも平気だったり、意外と度胸があったりする。
「着いたら荷物置きたいなー、張り切って持ってきすぎちまったわ」
落合涼介
都市研の部長だ。都市伝説というよりも、アウトドア、サバイバルの方が好きで、調査を名目に単に旅行したいだけな気もする。アウトドアの腕は本物で、野外での活動の際はすごく頼りになる。今回の旅行の発案者だ。
「そうだね、部屋や設備も一通り確認しておきたいし」
浅尾光子郎
とても頭が良く、それでいて気も使える皆のリーダー的存在。落合の無茶な発案も、彼が行き先からスケジュール、予約まで全て手配してくれた。学業も優秀でこの間も学校を代表して交換留学に行っていた。
「おいおい、もう繋がらなくなってるぞ!?」
河野慎一
都市研にも関わらずオカルト否定派で、科学で超常現象を解き明かすために入っているらしい。医学部だけあって浅尾と同じくらい頭が良く、色んな知識もあるため頼りになる。ネットや電波の通っていないZ島に行くのに最後まで反対していた。
「うー、気持ち悪いー。浅尾ー、助けてー、、」
桐谷美香
永瀬とは対照的に活発な女の子で、いつも先陣を切っている。霊感があるらしく、時折嫌な雰囲気がするなど口にすることも。浅尾とは高校からの付き合いで、事あるごとに彼を当てにしている。どうやら船は苦手らしい。
「・・・311、312、313」
鬼塚翔
都市研に似つかわしくない武闘派で、格闘技のサークルにも属しているらしい。幽霊やUMAなどあらゆるものが闘いの対象らしく、ある意味このサークルで一番の変わり者かもしれない。
「おい、あれじゃないか?」
目的地が見えてきた、どうやら到着のようだ。
「よし、じゃあ4日後の12時にまたここに迎えに来るからな。」
「はい、ありがとうございました。」
皆を代表して浅尾がここまで乗せてくれた操縦士のおじさんにお礼を言う。
「しかしお前さん達も変わり者というか、こんなとこに4日も泊まるなんてなあ。まあいいや、じゃあ気を付けてな」
これに関しては完全に同意だ。改めて思う、大学生の旅行で来るようなところじゃない。
海辺から15分ほど歩いて、目的の宿に到着した。1階建ての平屋だが、結構な広さだ。
「やっと着いたな」
「とりあえず、荷物置きたいな」
「中、確認しようぜ」
玄関から入ると、中央に大きな柱があり、それを囲むようにいくつかの部屋があるのを確認できた。どうやらこれが客室らしい。部屋は全部で10部屋あるので1人1室使えそうだ。
「部屋割りどうする?」
「いいんじゃないか、適当で」
「早いもの勝ちか、オッケー」
部屋はそれぞれで決めた。
各々荷物を置いて準備ができたら奥の広いスペースに集合することになった。
部屋のレイアウトはどの部屋も一緒で、窓とベッドだけがある少し狭めの部屋だ。
俺も荷物を置いて早々に戻ることにする。
そういえばインターネットも電波も届かないんだった。完全に外界から隔離された空間、なんだか少しワクワクする。
「よーし全員揃ったなー。とりあえず水道、ガス、電気辺りを確認しとくかー。あと、外にもキャンプスペースがあったからそっちもか。」
アウトドアが好きな落合が目を輝かせて切り出す。
「手分けするかい?」
浅尾が提案する。
「そうだな。水道は、貯水槽に水貯めないといけないんだっけ?」
「そうだね。ここから10分くらいのところにある川から引いてくればいいみたいなんだけど、ポンプの元栓を開けに行かなきゃいけないみたい。開いたままだと貯水槽が溢れて部屋に浸水してきちゃうみたいだから、満タンになる前に栓を閉じる必要があるらしい。」
「んー、なるほどね、まあ面倒だけどしゃあないか。浅尾、元栓の場所分かる?」
「うん、多分大丈夫。でも元栓開けるのなんかコツがいるとか宿の資料に書いてあったな。」
「オッケー、そしたら俺はそれ開けに行くわ。浅尾、案内だけ頼む。」
確かに、落合なら手先も器用だしアウトドアに慣れてるから上手くできそうだ。
落合が続ける。
「ガスと電気の確認は、女性陣頼むわ。残った野郎共は、夜のキャンプファイヤーと食事に備えて薪の用意頼んだ。」
「それが終わったら、ここに集合して、皆で島の探検かな?」
部長と実質的なリーダー、この2人は相性がいい、ついでに背格好も似ているし。テキパキ仕切ってくれるので俺たちは楽だ。
「「「オッケー」」」
俺は河野、鬼塚と一緒に薪用意チームだ。
「薪割りは俺に任せとけ、お前らは使えそうな木とか燃えそうな葉っぱの用意頼んだ」
「わかった、ありがとう」
こういう時力自慢の鬼塚がいると助かる
「この木、何の木だ、よく燃えるのか、乾燥は、、あーくそ、調べられん、、」
「別に何でも良いんじゃないか?そんなにこだわらずに」
河野はいつもスマホで情報を集めつつ都市伝説の分析を進めていた、やはりネットが使えないのは痛いようだ。
「そういえば、河野は医学部だから就活無しか」
「まあな、代わりに国家試験があるが。須田は行きたい業界とかあるのか?」
「いや、正直まだ何もできてなくてさ、何からすれば良いかも分かってなくて。オカルト系の仕事とか、ないかな?」
自虐と冗談を交えて話してみるが、まだ何も決めてない自分に少し焦りを覚える。
「良いんじゃないか?好きなことを仕事にできたら。俺なんて、父親が医者だからその影響を受けたにすぎん。」
「うーん、家族が医者って羨ましいけどなあ」
そんなことを話しながら作業は進んでいった。
一通りの作業も完了し、皆で島の散策に移ることになった。
「ここにも廃屋があるな」
「広さから見て一家が住んでたのかな?」
「桐谷、何か感じる?」
「うーん、特には。ていうか人をレーダーみたいに言うのやめてよね」
「中、入ってみる?」
「え?」
中に入ると言い出したのは永瀬だ。こういうところ、物怖じしないと言うか、不思議な子だ。
「えー、私、虫ダメなんですけど、、」
桐谷の苦手なものその2、虫らしい。俺も得意な方ではないが。
「良し、じゃあここの調査は永瀬に任せた!」
「うん、わかったー」
「いやいや、冗談だから!こんなボロ屋、崩れでもしたら困るだろ」
落合の冗談も通じない辺り、単なる天然なのかも。
「どうやら元々この島には人が住んでいたというのは本当みたいだね。」
「そういえば、あの宿も前からあったのかな?」
ふと気になったので浅尾に聞いてみる。
「そうみたいだよ、何の施設かは分からないけど、無人になった後に観光ビジネスに使えないかと、小さな会社が整えたって聞いたけど」
「ふーん、何の施設だったんだろうな。あの部屋狭くて独房みたいだし。」
「それ、あり得るかもよ。建物自体はかなり広いし、家屋が散見することからも普段使い用の住居ではないと思う。設備的に役場や公民館のようなものでもないし、ひょっとすると、刑務所みたいなものだったのかも、村八分された人の隔離場とか。部屋のドアや窓は壁より新しかったし、後で付け替えたのかも。」
さすがは浅尾、俺のふとした思いつきでもきちんと論理的推測に昇華してくれる。
「鬼塚、何してんの?」
「野生動物の痕跡を探してる。俺は失踪事件の犯人を野生動物、熊か何かと見ているからな。」
なるほど、鬼塚らしい観点だ。無人島だからと言って、確かに無生物島では無い。
「ほう、面白いな。熊は死肉でも喰らうというしな」
日が暮れてきたのでその日の調査は終わりにして宿に戻ることにした。
戻ってからはキャンプファイヤーとアウトドアらしくカレーを食べ、皆でワイワイ騒いだ。就活のことも忘れ楽しい時を過ごせた。
ー翌日ー
「おはよー」
「うーっす」
翌朝になって、皆が続々と起きてくる。
「あとは落合だけか」
「まあ、あんだけ泥酔してたしな、仕方ないんじゃ無い?」
昨日は落合は初日から飛ばしすぎて潰れてしまっため、彼の部屋に担ぎ込んだのだった。
とりあえず落合以外で昨日の残りのカレーを食べながら、今日の予定を立てる。
「昨日と違う方行ってみよーよ」
「川沿いはどうだ?水がある所に人もありだろう、昔の名残が何かあるかもしれん」
「俺はもう少し林の中もみたいが」
「今日は別行動でもいいかもね」
そうして各々行きたい所を話しながら出発の準備をする。
「なあ、落合遅くないか?」
鬼塚に言われふと気づく。確かに、もう9時過ぎだしこれだけ皆騒いでいるのに起きてこない。
「2 日酔いで起きれないんじゃない?」
「でもあいついつもケロッとしてない?単にいじけてるんじゃないの?起こしてもらえなかったから」
「ははは、子どもっぽい所あるし、あり得るね」
「じゃあ、起こしに行くか」
「待て、どうせならなんかしてやろうぜ。花火、花火使おう。」
「さすがに危なくね?笑」
男4人の悪ふざけが始まる
そうこうしている内に部屋の前につく
ゴンゴン
「なあ、落合悪かったな、お前抜きで飯食っちゃって。お詫びにちょっとお前に差し入れがあるんだが」
反応がない。
「相当お冠みたいだな」
ゴンゴンゴンゴン
「おいおい、落合!悪かったって、とりあえず開けてくれ、な?」
「、、、」
ドアを叩いていた鬼塚がノブを回してみる。
ガチャ
鍵が開いている。昨日担ぎ込んだ時のままなのだろうか。
鬼塚に続き皆で中を覗いてみる。ベッドが膨らんでいる。
「なんだ、熟睡中かよ」
「これだけ騒いで気づかないって、どんだけだよ」
「落合、起きろ!もうとっくにー」
鬼塚が揺すると落合の腕が力なくベッドから垂れ下がる。手の色は血の気が引いて真っ白になり、人間のものとは思えない。
瞬間、自分も血の気が引くのが感じる。何かを察する。驚き、恐怖、色々な感情がこみ上げてくる。どんどん具合が悪くなってくる。息が苦しい、呼吸ができない、何が起こるのか知りたくない。
鬼塚が意を決して震える手で布団をはがす。
そこにあったのは、胸にナイフが突き立てられた落合の姿をした何かだった。