至高の耳掃除ー1分で読める1分小説ー
祐一は耳掃除を愛していた。
子供の頃から耳掃除が大好きで、親や友達や近所の人々の耳掃除をさせてもらっていた。
大人になり、祐一は耳掃除専門のクリニックを立ち上げた。全国に名を轟かす人気店だ。祐一には耳掃除の才能があった。
そんな彼には長年の夢があった。それは、自分の耳掃除をすることだ。
至高の耳掃除とは何か? それは、耳垢が限界までたまった状態の自分の耳を掃除することだ。そこで彼は何十年間も、自分の耳掃除を一切しなかった。
世界で一番耳掃除が好きな祐一が、自身の耳掃除を我慢する。毎日毎日耳をかきたくて七転八倒した。それは、まさに地獄の苦行だった。
だがその我慢もここまでだ。完璧と呼べる耳掃除の道具を、さっき開発できたからだ。
祐一も老齢だ。さすがにもう解禁していい。
一体、どんな快感が待ち受けているのだ……数十年分のワクワクで胸がはちきれそうになると、突然睡魔に襲われた。
道具の開発に夢中で、近頃徹夜続きだった。祐一はいつの間にか寝てしまった。
「院長、起きてください」
女性スタッフが声をかけ、「すまない、つい」と祐一は目を覚ました。
「もう働きすぎですよ」
「……君、ずいぶん声が大きいな」
「えっ、普通ですよ」
そこで祐一はハッとした。全身の毛穴から汗がふき出る。まさか……。
祐一の表情で察したのか、彼女があっけらかんと言った。
「あっ、院長。ずいぶん耳垢がたまっていたので、私が掃除しておきました」