攻撃型魔法陣の最大出力と安定性の両立
セラフィマ魔法学院の講義室には、討論の時間を待ち望む生徒たちの熱気が漂っていた。今日のテーマは「攻撃型魔法陣の最大出力と安定性の両立」。魔法陣の実践的改良を議論する内容であり、知識と実績が求められる高度な課題だ。
銀髪の老教授が教壇に立ち、いつものように議題を提示する。
「本日のテーマは、いかにして攻撃型魔法陣を最大限に効率化し、なおかつ安定性を保つかだ。意見のある者は挙手を。」
その言葉を聞いて、金髪碧眼の貴族青年、ヴィンセント・グラモンドが即座に手を挙げた。彼はシンクに何度も屈辱を味わわされていたが、今日こそは準備を重ねた自分の理論で彼女を論破するつもりだった。
教壇に立ったヴィンセントは、自信満々に語り始めた。
「攻撃型魔法陣の出力と安定性を両立させるには、『魔力集束ノード』を複数配置し、それぞれを独立して制御可能な状態にするのが最適だ。この手法によって、魔力の集中を効率的に行いながら、全体のバランスを保つことが可能になる。」
彼は黒板に魔法陣の図を描きながら説明を続けた。その詳細な解説に、生徒たちは感心した表情を浮かべていた。
ヴィンセントは満足げに微笑みながら教壇を降りようとした。
しかし、冷ややかな声が教室の静寂を破る。
「教授、私も発言の機会をいただけますか？」
教室の後方から立ち上がったのは、赤縁眼鏡を押し上げる吸血鬼令嬢、シンク・ル・カーミラだった。彼女の冷静な声と優雅な振る舞いが、教室中の視線を一瞬で集める。
老教授は興味深げに頷いた。
「どうぞ、シンク君。」
教壇に向かうシンクは、静かな微笑みを浮かべていた。その余裕たっぷりの表情に、ヴィンセントは不快感を覚えたが、黙って様子を見守る。
「ヴィンセント様の『魔力集束ノード』の提案、とても興味深いですわ。ただ――」
シンクは一拍置き、赤縁眼鏡を押し上げながら冷たく言い放つ。
「その手法が実際に運用可能かどうか、十分に検証されましたか？」
ヴィンセントは即座に反論する。
「何を言っている？理論的に完璧だ！」
しかしシンクは動じず、冷静に話を続けた。
「完璧？それは素晴らしいことですわね。ただし、魔力集束ノードの最大の問題点――『過負荷によるノードの暴発リスク』についてはお考えになりましたか？」
教室の生徒たちがざわつき始める。ヴィンセントの顔に動揺が走った。
「ノードの暴発リスクだと？そんなものは想定外だ！」
シンクは軽く笑い、黒板にヴィンセントの魔法陣図を示しながら、チョークでいくつかの補足線を書き加えた。
「ヴィンセント様、魔力集束ノードを複数配置する場合、それぞれのノード間で魔力の流入と流出に不均衡が生じます。その結果、負荷の集中したノードが暴発し、最悪の場合、魔法陣全体が崩壊するのです。」
彼女はさらに追撃するように言葉を続けた。
「これを防ぐには、全てのノードを『相互連結型制御回路』で繋ぎ、魔力の分散と循環を管理する必要があります。これが正しい設計ですわ。」
教室中がシンクの指摘にざわつく。彼女の論理と具体的な解決策があまりにも鮮やかだったため、誰も反論できる者はいなかった。
老教授が満足そうに頷き、シンクに向かって言葉をかけた。
「素晴らしい指摘だ、シンク君。非常に的を射た提案だと思う。ヴィンセント君、君も彼女の案を参考にしてはどうだろうか？」
ヴィンセントの顔は真っ赤になり、悔しさに唇を噛み締めた。彼のプライドは完全に打ち砕かれ、教室中の視線が自分に向けられていることが耐えられなかった。
授業後、ヴィンセントは教室を出るシンクを追いかけた。顔には怒りと悔しさが浮かんでいる。
「シンクさん、君はわざと俺を貶めて楽しんでいるのか？」
シンクは立ち止まり、冷たい笑みを浮かべながら振り返る。
「貶める？とんでもありませんわ。ただ、ヴィンセント様の提案に欠陥があっただけの話です。それを指摘するのが学院での議論の目的ではなくて？」
ヴィンセントは拳を震わせながら、低い声で言った。
「次こそ、必ず君を――」
しかしシンクは彼を遮り、甘い声で言い放つ。
「次こそ？……ええ、楽しみにしていますわ。ヴィンセント様の次の『挑戦』を。」
その冷たい一言に、ヴィンセントは完全に言葉を失った。シンクは優雅にその場を去り、廊下には彼女の足音だけが響いた。
ヴィンセントは拳を握りしめながら立ち尽くし、次こそは彼女に勝つと固く誓った。一方、廊下を歩くシンクは、静かな微笑みを浮かべながら独り言を漏らした。
「ヴィンセント様が次にどんな理論で挑んでくるのか……楽しみにしていますわ。」
こうして二人の競争は、さらに激しい火花を散らしていく――。
