高エネルギー魔法の効率化とコスト削減
セラフィマ魔法学院の朝、陽光が窓から差し込む講義室は熱気に包まれていた。今日は魔法理論の討論形式の授業で、席次上位の生徒たちが中心となり議論を繰り広げる日だ。テーマは「高エネルギー魔法の効率化とコスト削減」。教壇には銀髪の老教授が立ち、生徒たちを静かに見渡していた。
「さて、これについて意見がある者は?」
その声が響くや否や、いち早く手を挙げたのは、金髪碧眼の貴族青年、ヴィンセント・グラモンドだった。立ち上がった彼は自信に満ちた態度で教室を見渡し、軽く咳払いをしてから意見を述べ始めた。
「高エネルギー魔法の効率化には、魔力の流動性を高める特定の媒介を使用すべきです。その上で魔法陣の構造を単純化すれば、コスト削減は容易に実現可能です。」
その論理的かつ理想的な提案に、周囲の生徒たちは感心した様子で頷き合った。しかし、その中でただ一人、微動だにせず腕を組む少女がいた。
シンク・ル・カーミラ。吸血鬼の令嬢であり、学院内でも冷静沈着な「委員長気質」として知られる彼女だ。吸血鬼特有の美しい白い肌、真紅の瞳、そして赤縁の眼鏡が彼女の特徴だった。シンクはゆっくりと手を挙げると、落ち着いた声で言った。
「教授、よろしいでしょうか?」
老教授は興味深そうに頷いた。「どうぞ、シンク君。」
シンクは席を立ち、スラリとした姿勢で教壇に向かう。その一挙手一投足に教室の空気が集中する。吸血鬼の威厳を漂わせながら、彼女は柔らかい微笑を浮かべ、穏やかながら芯のある声で話し始めた。
「ヴィンセント様の意見には、確かに一理ございます。しかし、『特定の媒介』という曖昧な表現では、実用性が乏しいのではありませんか?」
教室内に微かなざわめきが起こる。ヴィンセントの眉が僅かに動いたが、何も言わず彼女の言葉を待っていた。
「例えば、魔力の流動性を高める媒介として広く知られるルーン石を用いるとしましょう。その場合、魔法陣の単純化に伴う魔力の分散が発生し、結果として効果が弱体化する可能性があります。そして、そのリスクを軽減するための対策は、コスト削減の理念に反するのではないでしょうか?」
教室のざわめきが大きくなる。シンクの指摘は核心を突いていた。
ヴィンセントは冷笑を浮かべ、ゆっくりと言葉を返した。
「つまり君は、問題点を指摘するばかりで解決策を示さないというわけか、シンクさん?」
シンクは動じることなく、眼鏡を押し上げながら冷たい視線でヴィンセントを見据えた。
「もちろん、解決策も提示しますわ。媒介を使用せず、魔力を高密度で循環させる『ヴォルフ回路』を応用するのです。この手法ならコスト削減だけでなく、魔力効率を最大限に引き出すことが可能です。」
教室が再びざわめきに包まれる。ヴォルフ回路は高度な魔法技術であり、その実用性を語れるのは限られた知識と経験を持つ者だけだ。
老教授が満足そうに頷きながら口を開く。
「実に素晴らしい指摘だ、シンク君。実際の運用を想定した議論こそ、我々が求めるものだ。」
授業後、教室を出ようとするシンクにヴィンセントが声をかけた。その声には僅かな苛立ちが混じっている。
「シンクさん、教授が気まぐれに評価しただけだ。偶然だろう、今日の君の勝利は。」
シンクは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。赤縁眼鏡を押し上げる仕草はどこか挑発的で、薄く笑みを浮かべていた。
「偶然?そう思うなら、次も私が評価されるかどうか、試してみてはいかがですか?」
「次も?」ヴィンセントの声が僅かに低くなる。
「ええ、私が勝つ確率はいつだって偶然ですもの。ヴィンセント様の努力次第で結果が変わるかもしれませんわね。」
ヴィンセントは顔を歪めたが、何も言い返せなかった。シンクの冷静で余裕のある態度が、さらに彼のプライドを逆撫でする。
シンクはくるりと背を向けて去っていった。その背中は、次の勝利も確信しているかのように堂々としていた。
ヴィンセントはその場に立ち尽くし、シンクの言葉を噛み締めながら決意を新たにしていた。
「次は絶対に勝つ。あの女の冷笑を止めるのは俺だ。」
一方、廊下を歩くシンクは、赤縁眼鏡の奥の瞳を細めながら微笑んでいた。
「ヴィンセント様がどれほどプライドを守れるか、次の授業が楽しみですわ。」
こうして二人の熾烈な競争は、さらなる火花を散らす展開へと続いていく――。