人は変わる
人は、火を持ち他の動物と一線を画した。
人は、蒸気機関を得て工業という言葉を知った。
人は、CPUを完成させて次元を拡張させた。
そして、僕らは何を求めたのだろうか。
僕には友人がいる。赤城彩人。彼はアオハルを謳歌している。いや、正確に言うと謳歌しようとしているだけだが。彼は恋をしているのだ。でも、いつも失敗する。下手くそなのだ。人との関わりというものが。彼の人付き合いの下手くそさはずば抜けている。一言喋ったと思えば大滑り。二言目にはだから〜という。無理に続けようとする辺りがまた下手くそらしいというか…。そんな奴だから、周囲の人間は疲れてくる。でも、僕はそんな奴だからこそ仲良くしている。彼は下手にせこくない。全てにおいて正面から向かっていく。故に面白い。だから彼の唯一の友人が僕なのだ。そして、彼もまた僕の唯一の友人なのだ。というのも、僕は人というものが苦手なのだ。というか、好きじゃない。猿の知能に毛が生えた程度の知恵で威張る。その癖して、ヘコヘコとゴマを擦ってみたりもする。せめて初志貫徹くらいはして欲しいものだ。それ故に純粋無垢な彩人が好きなのだ。
でも、音がした。コツッ…と。
ー公園でー
「振られたのか、お前!可哀想に!ま、次があるさ!」
肩を叩いた音が公園に響く。まるで虚空に溶ける様に。
「おーい、そんなに悲しいのかー?良いからお兄さんに話してみろってー」
また、言葉が虚空へ放たれた。そして、彩人は言った。
「振った、カノジョ」
間の開いた衝撃的なその二言をー。
「…そっかぁ」
「なんだかつまらなくなってさ。」
「真面目に人と付き合おうとしたって、無駄なのかなって。」
「嫌われないかなとかさ、面倒くさい事考え始めた途端にもういいや、要らないって思ったの。」
彩人の言葉には妙に迷いが見られなかった。
「そっか…。」
間髪入れない彩人の言葉には悲壮感すらも感じられなかった。半ば諦めた様な、そんな顔。姿勢。言葉。しかし、妙にスッキリした様な、そんな顔。姿勢。そして、声。今までの彩人なら本気で悩み、相談してくる様な事なのに。
「…。」
彩人は聞いてきた。突然。
「お前はアレなの?」
「?」
「嫌われてる奴を見て自分が上にいると錯覚しようとするタイプ?」
「…何?突然。」
「いやさ、知り合いにインターネットって奴がいるんだけどさ、奴に聞く限りそういう奴も少なくないんだとよ。」
「純粋もここまでくると最早バカだろ…。」
「は?」
「…ッ!」
「あのね、バカな君に一つ教えてあげる。」
「なんだよ。」
「僕は君をそんな風に思った事はないし、寧ろ尊敬までしてる。」
「本当に?」
「そら、そうだよ」
「ほーん」
嫌われてる奴…か。嫌われてるって自覚したという事自体は責められる事じゃない。寧ろ成長だ。とはいえ、彩人の純粋無垢な人柄が崩れてしまう気がする。それは、ちょっと…
「嗚呼、嫌だなあ」
「どうしたよ、哲太」
「いやー、お前も大人になっていくんだなって思ってさ」
「俺が?なんで?まさか、急に頭おかしくなったんか?」
「そういうとこだよ。お前、今まで冗談なんて言った事なかっただろ。」
「あー、言われてみたら」
「じゃあ、お前も早く大人になれよー」
「僕は無理だよ。」
「なんで。」
「既に大人だから」
「マジかよぉ」
「…」
「…」
「じゃ、俺は帰るわ。色々スッキリしたし。」
「ほーい、じゃあねー」
今までの彼の様だった。でも、バカじゃない。そんな彼だ。僕の欲した彼が、変わっていく。
嗚呼、嫌な音だ…。
Mrs.GREEN APPLEさんよりナニヲナニヲオマージュ。まだまだ序章も序章。不定期更新にはなると思いますが、完結まで是非お見守り下さい。