祝福の実践
やっとバトル描写です!
「……テメエ、言葉には気を付けろ」
「な、なにすんだこのDQN!」
根川くんが掌から風の刃を発射した。
風邪の奏者。
空気の流れを操るのが彼の祝福だ。
目覚めたばかりの今は風の刃を出すだけだけど、成長すれば嵐を引き起こす程まで成長出来るらしい。
「おっと」
闘真は風の刃を横に跳んで避けた。
普通、風なんて見えないけど、祝福で繰り出した風には色があるから目視可能だ。
それにしてもあの風、そんなに速くないな。この間ケンカした半グレの投げナイフの方がよほど早くて鋭い。
「こ…このDQNめ! 調子に乗りやが……ごはぁ!!」
手を大きく振りかぶって風の刃を再び繰り出そうとするが、その前に闘真の拳が根岸くんに炸裂。
顎を正確にクリーンヒットした一撃によって、根岸くんは気絶。
意識を失った彼はドサッとその場に倒れた。
「で、次は誰だ?」
「じょ、上等だコラ!」
生徒のうちの一人が……いや、何人も同時で祝福による力で闘真に攻撃を仕掛けた。
流石に同時攻撃は予想外だったのか、驚きながら全部フットワークで回避。
全て避けきったと同時に大きなため息をついた。
「うおッ!? ……いきなり三人相手か、は~、嫌われてるのか、俺?」
「当たり前だ! 顔と頭がいいからって調子乗りやがって!」
「そうだ!何が唯一美男子だ! 授業サボるDQNの癖に!」
「この力でお前をぶっ倒す!」
どうやら思っていた以上に闘真は嫌われているらしい。
僕もけっこう嫌われているけど、流石にあそこまでじゃない……筈、だったらいいな~。
そんなことを考えていると、闘真目掛けて力を使おうとしている影が見えた。
相手は人混みの中に隠れ、闘真から見て死角の位置に潜んでいる。
アレは言っても気付けない!
「!? 闘真危ない!」
咄嗟に闘真の死角の前に立ち、腕を交差して防御の構えを取る。
相手は未知の力。こんな素人防御で防げるとは到底思えない。
けど、今の僕には力がる。
何かあるはずだ。
雄淫魔なんて不名誉な名前だけど、仮にも女神が与えた力。
祝福が魔王を倒すための力だというのなら、何か使い道があるはず。
何か……何か使い道は……。
「うッ!?」
僕の腕に火球が命中した。
当たったと同時に破裂する火の玉。
これは炎というより爆発に近い。
脚腰を踏ん張って、上体を回して衝撃を逃がそうとする。
けど、炎に焼かれた体は……。
「(あれ?熱くない?)」
そこで僕は気付いた。
炎に焼かれているのに熱くない。
それどころか力が漲る。特に腕の部分が……。
「な、なんだこれ……!?」
僕の腕は、悪魔のようなものに変わっていた。
「い、いいんですか止めなくて」
「いいんだよ。むしろいい訓練になる」
武士団の団員、イーミルは先輩であるボンスに相談する。
帰って来た答えはOK。むしろもっとやれという意図が含まれたものである。
「で、でもこれって私闘ですよね。立場的に止めるべきでしょ」
「流石にヤバくなれば止めるさ。……始まるぞ」
先輩に言われてイーミルは再び聖徒たちに目を向けた。
異世界から召喚された救世主たち。
彼らは魔王を倒し得る能力を持つが、まだまだ未熟。
これから力の使い方を覚え、学習し、鍛えなくてはならない。
そして、自身の能力を知り、伸ばすにはまず実践するしかない。
「そういう意味ではいい機会だ。一応怪我人の覚悟はしておけ。すぐ治療魔法掛けられるようにな」
「ハイ!」
ボンスはそういいながら真名に目を向ける。
特に注目すべきは淫魔の祝福によって変化した両腕。
赤い体毛が生え、腕の甲は黒い鱗に覆われている。
淫魔にコレといった姿はない。
スライムだったり触手だったり典型的な悪魔のようだったり。
おそらく真名の場合は典型的な悪魔の姿をした淫魔なのだろう。
もっと詳しくいうのなら、獣のようなタイプだろうか。
「(線は細いが他の子供よりも鍛えられている。体幹もしっかりしてるな。格闘技でもやっているのか? なら肉体的に強い獣タイプになったのも理解出来る)」
獣タイプの淫魔は力ずくで異性を屈服させ、行為に及ぶタイプ。
普段は穏やかそうな姿をしているらしいが、成程そういう事か。
大人しそうに見えて中には野獣を飼っているということか……。
ボンスが観察している間に二人は動き出した。
闘真は己の囲んでいる三人に、真名は闘真に炎を撃ち出した聖徒に向かう。
「死ねやこのヤリチンが!」
炎の祝福を持つ聖徒、澤田の手から火球が打ち出される。
真名はタイミングを見極めてソレを回避。
ボクシングのような構えを取り、ボクシングのようなフットワークで接近する。
「この!この!この!」
何度も炎の弾を撃ちだす澤田。
しかしどれも当たらない。
全て真名に避けられ、徐々に距離を詰められていった。
攻撃が単調且つ攻撃までの間が長すぎるのだ。
まだ祝福に目覚めた彼の能力は未熟も未熟。
出来ることは炎の玉を出す事だけ。
一度出すまでチャージする時間が三秒ほど、出した後に二秒ほどのインターバルが入る。
これでは一発外したらアウト。すぐ逃げられるか反撃が来る。
もっとも、祝福に目覚めたばかりの聖徒相手なら、本来ならこれでも十分の筈なのだが。
「(すごい、これが祝福の力……いつもより体が軽い!)」
対する真名は絶好調だった。
いつもより相手が見え、いつもより体が走り、いつもより闘志に溢れる。
相手の攻撃がまるでスローモーションのように感じる。
負ける気がしない。いつでも倒せる!
「この野郎……さっさと当たれ!」
「(今だ!)」
ある程度接近したところで真名はその場からジャンプ。
撃ちだされた炎の弾を飛び越え、澤田目掛けて跳び蹴りを繰り出した。
「ぐげぇ!?」
強烈な蹴りによって吹っ飛ばされる澤田。
1m程吹っ飛び、地面に叩きつけられてからも数m程転がってからやっと止まった。
「……」
既に意識はない。
最初の蹴りで既に意識を刈り取られたのだ。
この私闘、勝者は真名。
もう攻撃される心配はない。
「さて、闘真くんは……おお」
親友の方に振り向く真名。
心配はあまりしてないが、万が一もあり得る。そう彼は思ったのだが杞憂だった。
「おう真名、ちょっと掛かり過ぎじゃね?」
既に三人の聖徒は倒されていた。
「……流石闘真だね」
フッと、真名は安堵の息を吐いた。
ハイ、皆さん気づいていると思いますが、我が主人公は格闘が得意です。他にも戦うために必要なスキルを憶えており、ソレを今後活かす予定です。
ではその技術を何時覚えたのか、この世界でどんなふうに使うのか。ソレは後ほどに。