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王様との謁見

 おはようございます、佐藤真名です。

 現在、僕たちは異世界に召喚され、とても広い部屋に連行されました。

 素人でも一目で高いと分かる調度品や絵画の数々。

 部屋の真ん中にある豪華な長方形の机の上には、一目で高級料理だと分かるような料理がずらりと並んでいる。

 僕たちはそこに適当に並んでいた。あ、僕と闘真くんは後ろの方。だってあの議長席とかいう真ん中には王様が座ることになるのだから。


 そう、王様である。


 なんと僕たちはこの国の王によって召喚されたらしい。

 ここに案内されるまでは誰も非現実的な状況についていけなかったせいで何も言わなかったんだけれど、流石にその後は

 だって、よくあるファンタジーのテンプレ……魔王を倒してくださいという内容だったのだから。


 この世界、人界には大きく分けて2つの種族がいる。人族と魔族である。


 人族と魔族は長年に渡って戦争を続けている。

 魔族は数こそ人間に劣るが特殊な力を持ち、人間は数と技術で対抗していたそうだ。

 戦力は拮抗ししていたのだが、あるもののせいで大きく覆されたという。

 魔王である。


 単体だけでも強大な力を誇り、自身の配下たちを強化する魔王に人間側は押され始めた。

 更に魔王は魔物を操れる上に、その力の一部を他人に分け与える事も出来るらしい。

 魔王の誕生によって、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。



「そこでエキドナ様はあなた方“勇者”を召喚なさったのです」


 エキドナ。

 人間族が崇める女神であり、この世界の唯一神。

 将軍様曰く、人間族の九割以上がエキドナ信徒らしい。


「エキドナ様は唯一にして至上の神です。あの方の選択に間違いはない。あなた方は選ばれし勇者なのです」


 それからも王様の話は続いたけど僕は一切聞かなかった。

 だって気持ち悪いモン。

 さっきまでは冷静に話してたのに、急にヤバい薬打ったかのようにハイになっている。

 この人ヤバい。多分クラスの皆気付いているだろう。


「ふざけないで! ソレ、私達に戦争させようって事じゃない!早く私達を早く帰しなさい!!」



 突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 教師の凛子先生である。


 彼女は将軍様相手にも動じず詰め寄り、帰すよう要求する。

 だが、ソレが聞き届けられることはなかった……。


「あなた方の帰還は我々には不可能です」


 空気が凍った。

 シーンと静まり返り、誰も彼もが呆けた顔を将軍様に向ける。……僕と闘真を除いて



「ふ、不可能って……ふ、ふざけないで!! 喚べたのなら帰せるでしょ!!」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエキドナ様です。我々人間にそのような奇跡は起こせません。エキドナ様が満足なさるよう魔王を倒す他ありませんな」

「そ、そんな……」


 ガクリと、糸が切れたマリオネットのように机へ伏す先生。

 途端、周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。


「嘘……そんなの嫌よ! 帰してよ!」

「せ、戦争……俺ら、帰れない……冗談じゃねえ!」

「ふざけんなよ! さっさと俺らを帰せよゴラァ!!」

「なんで、こんなことに……こんなの絶対おかしい!!」


 パニックになる生徒達。

 無理もない。いきなり呼び出されて、帰りたかったら戦えとか言われて正気が保てるはずがない。

 出来るとするなら、現状を把握できないバカか、その理不尽を乗り切れる力と心がある勇者ぐらいだ。

 そして、僕はそのどちらもにも該当しない……。


「……フゥ~………………」


 心臓に手を当てて、呼吸を落ち着かせる。

 落ち着け。静まれ。沈まれ……。

 思い出せ、あの人の言葉を……。


「(よし、落ち着いた)」


 心を落ち着かせ、次にどう動くべきか頭を回転させる。

 オタクの僕はこういう展開の創作物は何度も読んでいる。なら、幾つかのパターンは予想できる。

 では、次に僕がすべき行動は……。


「……」


 僕は無言で手を挙げた。


「……何かな?」

「二つ、質問があります。いいですか?」


 僕がそういった途端、パニックになった生徒の何人かはこちらに目を向けた。

 見えてない生徒も空気の変化で気づいたのか、段々とこちらを見る目が増えてた。

 人目は今でも怖いけどそんな子尾を言ってられる状況じゃない。勇気を出すんだ、僕!


「ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます。では一つ目。僕たちは急に呼び出されたせいで手持ちが何もありません。これでは魔王退治どころかこの世界で生きる事すら不可能です」

「何を水臭いことを。貴方達はエキドナ様に選ばれた勇者なのですよ? 物資や住居等はこちらで一流の物を無償かつ無期限で用意致します」

「(無償且つ無期限ねぇ……本当に無償なら魔王退治に参加しなくてもいいのかな?)」


 思ったことを質問しそうになったが、とりあえず心の中に留める。

 余計なことを言って藪蛇が飛び出たら堪んないからね。

 しかしそれにしても無期限か……これは魔王倒すまで帰さないという意思表示でもあるな。やはり警戒はするべきか。

 

「そうですか、ありがとうございます。では次に、我らには力がありません。ついこの間までは殺し合いどころか殴り合いにすら無縁の学園生活でした。そんな僕たちに戦いを期待されても……」


 隣から、ブッと誰かが笑いを堪えるような声が聞こえた。

 闘真が口に両手を抑えて滅茶苦茶我慢している。

 何がおかしいんだよそんなに……。


「ご安心を。貴方達勇者には戦う力が与えられています。ソレを極めれば魔王にも届くはずです。無論、こちらからも十分なサポートをさせて頂くつもりです」

「そうですか、質問は以上です。ありがとうございました」


 僕は質問を打ち切って座る。


「(さて、コレで場は大分落ち着きを取り戻したはず。後は頼んだよ、親友)」


 隣にアイコンタクトを送る。

 彼はしゃーないなとでも言いたげな顔で立ち上がり、全員の注目が集まったのを確認してから話し始めた。


「なあ皆、ここで将軍さまに文句を言っても意味がない。だったら俺は戦おうと思う。この世界の人達が苦しんでのを知って、何もしないなんて俺には出来ない。

 それに、もしかしたら魔王を倒せば帰れるかもしれない。だって、そのために呼ばれたら、終わったら帰してくれるかもしれないし。……そうですよね、将軍さま」

「おそらくは。そのためにエキドナ様は貴方達をこの世界に呼んだのですから」

「戦うための力も、衣食住も揃っている。なら大丈夫だ。俺が世界もお前らも、全部まとめて救ってみせる!!」


 ギラリと、闘気に満ちた目を輝かせる闘真くん。

 コレで彼のカリスマは十分に発揮された。

 絶望と恐慌に染まった生徒達の目に光が戻りだした。いや、それ以上だ。

 闘真くんを見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情。

 女子なんで半分以上は熱っぽい視線を送っている。


「大神くんが言うなら……出来るかも」

「俺も…やってやるぜ!!


 当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。

 ここまでくれば大丈夫だ。もう自暴自棄になって馬鹿なことをやらかそうとする生徒は出ない筈。


「お~お~浮かれちゃって。こいつ等、マジで殺し合うってのが分かんねえのか?」

「ソレでいいんだよ。少なくとも今はね」


 ニヤニヤ笑う闘真くんに対し、僕は苦笑いしながら答える。

 そうだ、これしかない。僕たちに選択肢なんて最初からなかったんだ。

 もしここで戦わないと駄々を捏ねたら、ライフラインを打ち切られてしまう。

 そうなってしまえば飢えて死ぬしかない。最初から、道は一つしかなかったんだ。


 結局、僕たちは戦争に参加することになってしまった。

 ここにいる生徒達の中でその意味を理解している人はいないだろう。

 今やっていることは単なる現実逃避。その場しのぎの対処法に過ぎない。

 けどソレでいい。今は虚勢でもいいから絶望しないことが大事だ。


「(……気になるのはあの王さまだな)」


 チラリと、僕は視線だけを王様に向けた。


 彼はずっと、闘真と僕の方を観察していた。

 おそらくどちらかが生徒の中でも中心人物だと見抜き、どうやれば上手く釣れるか見ていたようだ。


「(……あんまり、信用は出来ないな)」


 僕は視線を外しながら、どうするべきか考えた。



 その後、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。

 畳の部屋に柔らかい布団。

 どうやらこの世界は和風の異世界らしい。

 そのことにガッカリする声もあったが、僕は知っている文化でホッとした。


 今日はいろんなことがあって疲れた僕はゴロンと布団の上で横になる。

 ふかふかで寝心地の良い布団。実家で使用している寝具よりも大分質が良い。

 建物から江戸時代などを想像していたのだが、やはりそこは異世界。元の世界とは違う。

 そのまま寝ようと目を閉じた瞬間……。


「おう、真名入るぜ」


 大神闘真がノックもなしに入って来た。

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