フロアボス
ダンジョンに初めて入ってから一週間が経過した。
流石にこれだけ経験すれば慣れてくるもので、今では一人でダンジョンに潜ってモンスターを狩り、時にはお宝を見つけている。
「大分、強くなった……のかな?」
この世界にはレベルという概念がない。
ただ聖徒には“オーラ”という概念があり、これの強弱で祝福の強さを測れる。
ではそのオーラはどうやって強くなるか。こうして実戦で使い、経験を重ねることである。
使えば使う程にオーラは強くなり、勝てば勝つ程、女神にその功績を認められてオーラが強化される。
オーラだけじゃない、強化されるのはスキルも同様だ。
戦いを通して相手からスキルを学び、戦いを通してスキルを実践し、戦いを通してスキルを磨く。
そうやって聖徒は強くなるらしい。
では、オーラはどのようにして強い弱いを感じるか。ソレは感覚的なものらしい。
本当にオーラの感覚は曖昧だ。
一度だけ闘真と手合わせをしたけど、僕と同じくらいの大きさぐらいしか分からず、具体的な数値は全く分からない。
しかもオーラはその気になれば隠せるので、本当に自分が感じているオーラが正しいかどうかも分からない。
けっこう不便というか、いい加減というか……。
けど、これだけは実感できる。
今の僕のオーラは来た当初よりも大きくなっていると。
副団長と一緒に訓練して、スキルを覚えて、実際にモンスターと戦って強くなってきた。
自身の成長を肌で感じられるのはやはり気持ちがいい。
「いただきます」
僕は先程狩った牛のモンスターのステーキに手を付けた。
副団長から教わった料理のスキル。
流石に全ての習得は出来なかったけど、その一部を使って加工したのだ。
どうやら僕の淫魔のスキルは料理もソッチ系のスキルとして捉えたら習得できるらしい。本当に節操がない。
まあ、おかげで僕はこうして色んなスキルを習得出来て便理なんだけど。
昼食の献立は石焼肉。
火の魔石をカセットコンロ代わりに発火させ、その上に平たい石を乗せて作ったものだ。
僕はナイフで一口サイズに切り分け、フォーク代わりに木の枝で突き刺し、口を大きく開いてかぶりつく。
「………あまりおいしくない」
やっぱりちゃんと下処理しなくちゃ美味しくないか。
肉の食感はいいけど、雑味が酷い上に獣臭い。
どうやら僕の料理スキルは味にはあまり効果がないらしい。
いや、僕のは淫魔のスキルだから別の意味の料理か……。
塩胡椒で無理矢理味を消して食べる。
臭みや雑味さえなければ、この肉はけっこう美味しい。
むしろ、チープな味が病みつきになりそうだ。
僕、こういう味付けの濃いジャンクフードみたいな味が好きなんだよね。
異世界に転移してからもう食べられないって思ってたけど、まさかこうして食べられるとは……。
そんな風に食事を楽しんでいると、突然悲鳴が聞こえた。
「!!?」
食事を中断し、急いで声のした方へ走る。
聞こえた方角からしてそんなに遠くない。すぐに着く!
「……ここか?」
地面に階段があった。
周囲は草しかないのに、そこだけ不自然に人工物の筈である階段とその入り口がポッカリと在る。
これを降りれば次の階層に続く。
じゃあ、さっきの悲鳴はここから?
「(というか、次の部屋はボスの部屋じゃないか!?)」
フロアボス。
迷宮の階層守護者
ダンジョンの特定の階層にのみ存在する強力なモンスター。
コレを倒すことでボスの強さ相応のアイテムや財宝などを入手できる。
また、一度ボスに挑んだ者は例外を除いて死ぬまでそのフロアから出られないらしく、ボスを倒す事で地上に出る扉が現れるらしい。
迷宮によってボスの数は異なり、 全ての階層にボスが居る迷宮もあれば、1体しか居ない迷宮もある。
つまり、この悲鳴はボスに挑み助けを求めている声だ。
「(どうする、僕でやれるのか!?)」
このダンジョンならソロで何とか出来るけど、ボスが相手なら話は変わる。
一度ボスルームに入ったら出られず、その上一人で戦わなくちゃいけない。
僕なんかに、出来るのか……?
「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
また悲鳴が聞こえた。
もう、迷っている暇なんてない!!
「クソッ!」
僕は武器である棒を持ってボスの部屋に向かった。




