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初めての殺し

生きる為に他の動物を殺す。人類はそうやって生きてきました。しかし現代人の大半は結果のみを教示しています。そんなので異世界でモンスターを殺せるんでしょうか。


「混じりっけナシのポーションあるよ~!」

「アイテムの買い取りやってるよ~!もちろいい武器も揃ってるぜ!」

「三階層のタックルオックス狩り! ヘイトスキル持ちのタンクいないか~!?」


 ダンジョンの入り口前は活気にあふれていた。

 陰気な洞窟みたいな入口を真名は想像していたのだが、予想以上に明るい。

 入口付近の広場には 露店や屋台が立ち並び、それぞれの店で店主やその従業員らしき者たちが客を呼び込んでいる。

 仲間探しをしている冒険者もいる。即席のパーティで連携できるのかと真名は心配になりながらもソレを興味深そうに眺める。


「(こういうのってギルドの建物とかそういうのでやると思ってたんだけど、以外だな)」


 それらを珍しそうに眺める真名。

 ゲームの知識との違いに驚きながらも楽しみ、歩を入口へと進める。


「そこ!割り込むな! ちゃんと並んで迷宮に入れ!」

「ギルドカードの提示を忘れるなよ! 無許可の冒険は犯罪だからな!」


 受付窓口まである。

 流石に綺麗なお姉さんではないが、ゴツい鎧をきた衛兵が迷宮への出入りをチェックしている。

 昔、ダンジョンに潜入して他の冒険者を狙う事件が多発していた時期があるため、厳しくチェックしているそうだ。


「では行くぞ、真名」

「はい!」


 窓口で手続きを済ませた副団長が声を掛ける。

 どうやら同伴者がギルドカードを所持しているなら、なくても入場可能らしい。


 ダンジョンに足を踏み入れる。

 すると、目の前がパッと光り、奇妙な浮遊感が真名を襲った。

 ほんの一瞬だった。すぐにそれらは収まり、ゆっくりと真名は目を開ける。


「な、なんだコレ?」


 空が見えた。

 どこまでも拡がる空と草原。

 洞窟内にあるはずなのに、外以上に自然があった。


「それでは今日からここで訓練を行う」


 副団長の言葉により、真名はハッと緊張感を取り戻した。


「ソレでは実戦訓練を開始する! まずはあの角兎を倒してみろ!」

「は…はい!」


 言われた通り棒を構える。

 真名の武器はこの棒一本だけ。

 刀や弓矢、アイテムは一切ない。せいぜい防具程度である。

 副団長曰く、棒こそ最初の武器であり、これさえ使えれば剣でも槍でも使えると。 


 対する角兎は真名に敵意を向けている。

 彼の気配を察知したと同時、逃げるどころか威嚇の段階をすっ飛ばして突撃準備に入った。


 ダンジョンのモンスターは非常に好戦的である。

 通常なら逃げる筈の状況でも、向かってくることがざらにあるのだ。


「ほら、兎の方は準備万端らしい。おまえもやってみろ」

「は…ハイ!」

「そう身構えなくていい。並みの成人男性ぐらいの力があれば殺せる弱いモンスターだ」

「はい!」


 返事はしているも体は緊張している。

 当然である、コレは真名にとって初の実戦体験。

 彼の意思で他の生物の命を初めて奪うことになるのだから。


 元の世界では『結果』のみを享受していた彼にとって、無縁であるはずの殺し。

 それを今実体験することになる。


「う、うわぁ!」


 角兎の突撃に合わせ、棒で頭を叩こうと振り下ろす。

 タイミングはバッチリだが、目測を誤った。

 叩く瞬間、無意識に目を閉じたせいだ。


「っぐ!?」


 目を瞑ったせいで、攻撃が外れるだけでなく、腹に相手の攻撃が命中した。

 幸い角は防具で防げたが、衝撃までは殺しきれない。

 直撃を食らった真名は地面に転がされ、その上に角兎が乗っ掛かる。


「ピィーーー!」


 前足で真名を抑えつけ、首筋目掛けて噛みつく。

 鋭く分厚い前歯。牙のような鋭利さではなく、叩き切るような噛撃。

 真名は咄嗟に杖を横に構えることで盾にした。

 ガキィンと、硬い音が杖から響く。

 ジィンと、鈍い衝撃が腕へ伝わる。


「ぐ…うぅ……!」


 押し返そうと腕に力を入れる真名。

 角兎は対抗して真名押し合いが続けばに食いつこうと体重を掛ける。

 拮抗状態……ではなく、位置的に角兎が優勢だ。

 足腰をメインに強化されている真名にとって、腕のみで対抗せざるを得ないこの状況は不利なもの。

 このままいけば何れ真名は角兎の寄って頸動脈をかみ切られる……。


「ふ、副団ちょ……!?」

「………」


 しかし福団長は何もしない。

 副団長に助けを求めようと振り返るが、腕を組んでソレを見ているだけだった。


「(クソッ!自分でなんとかするしかない!)」


 その瞬間真名は理解した。

 もしここで何も事態が好転しないのなら、副団長は自分を見捨てると。


 気づいた瞬間、真名の認識から副団長の存在は消えていた。

 副団長に対して何か思う余裕も時間もない。

 そんな暇があるのなら目の前の敵をなんとかするべき。

 彼は無意識にそう判断して動き出した。

 

「…ッグ!!」


 杖を横に斜めにすることで、角兎の圧し掛かりを逸らす。

 だが、杖の構えと逸らし方が甘かった。

 角兎からは逃れたが、杖を放してしまう。


「らぁ!!」


 真名は咄嗟に懐からナイフを取り出し、角兎の首筋目掛けて突き刺す。

 杖を放した反動で杖を噛んでいる角兎の首がのけ反り、首筋が空いたのだ。

 ドスっと、渾身の力を込めてナイフを刺す。


『スキル:弱点突き 発動』


 無意識にスキルが発動。

 脳内に響く機械音の宣言通り、本来知らない筈の頸動脈の位置を正確に貫く。

 いくら弱点といっても腕の力のみでナイフを刺すのは難しい。

 だが、ソレをなんとかするのがスキルというものである。

 一番貫通しやすく尚且つ一番致命傷になる部分。

 真名はスキルの効果で性格に弱点を突いた。


「ぎ…ピィ……」


 ダメ押しに、刺したナイフをグイっと動かして傷口を広げる。

 ブシャアと辺りに飛び散る血飛沫。

 ソレを浴びながら真名は角兎を押し退けて立ち上がった。


「はぁ。はぁ、はぁ……はぁ」


 荒い息を整えて仕留めた敵を見つける。

 いや、まだ仕留めきれてない。

 首から血がドクドク流れているがまだ息がある。

 後はトドメを刺すだけ……。


「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 震える手でナイフを振り上げ、突き刺そうとした瞬間………。


「待て。もう十分だ」


 ガシっと、その腕を副団長が掴んだ。


自分の手で初めて何かを殺す。

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