真名の初めての訓練
とある訓練場。
真名は他の聖徒たちとは違った場所で訓練をしていた。
相手は近衛武士団の副団長、ザフィー・アムダス。
黒髪に黒目、肌は薄っすらと焼けたような色、黒い無精髭を生やしている。
体格は武士らしくガッチリとしており、顔も彫りが深いが、ヨーロッパ系というよりアラブに近い。
「どうしたどうした!? もっと踏み込め!」
「……ック!」
そんな彼は今、拳による猛攻を真名に仕掛けている。
対する真名も祝福を発動して対抗するが押される。
体格も経験も違うのだ。こうなるのは当然である。
だが、ソレを許す程、訓練は甘くない。
「むっ!?」
真名の反撃。
呼吸のため猛攻が止まる一瞬の隙を突いて反撃に出る。
相手の左側に回り込み、腹の側面に拳を当てる。
「!?」
相手もソレに反応し、咄嗟に左腕を楯にして防御。
ただ腕で防御するのではなく、腰を回転することで受け流す。そして同時に右拳を繰り出した。
狙いは真名の後頭部。受け流しで体勢が傾いた今が狙い時。前のめりになっている無防備な真名目掛け、拳が当たる……。
「「!?」」
真名は咄嗟に脚で体勢を立て直しながら、ザフィーのストレートを回避。
その上、相手の拳に合わせる形で拳を繰り出した。
カウンター。
ザフィーは体を捻ることで回避したが、もし当たれば体格が上の彼でも無事では済まされない。
『スキル【息読み】の習得―――失敗しました』
カウンターと同時、真名の頭の中に無機質な声が聞こえた。
耳からではない。まるで直接脳内に送信されたかのようなメッセージ。
真名はソレを無視して戦闘を続行する。
「よし、ちゃんと死角にも気を使っている! 良い動きだ! では次、お前が攻勢だ!」
「はい!」
後ろに下がるザフィー。
ソレを追う形で真名は前に出て拳のラッシュを仕掛ける。
「す、すげえなアイツ。アレで本当に非戦闘用の祝福かよ」
「あれ、腕が変形してるけど、実際はあんま腕力変わらねえんだろ?」
「バカ、足腰が強化されてるからあのスピード出せるんだよ」
「けど、素人があそこまで動けるのか?」
遠目で副団長と真名の訓練を見ながら、雑談する団員たち。
彼らの疑問はもっともだ。
現段階の真名の祝福の効果は体力増加。しかもメインは足腰である。
一応、腕は悪魔のような腕に変わることで耐久度は上がったのだが、力はそれほどでもないのだ。
しかし、真名は足腰から生まれる力を腕に乗せることでパワーとスピードを発揮している。これは決して簡単なことではない。
「なんだその単調な攻撃は!? リズムが一定なら読まれるぞ!」
だが、副団長はお気に召さなかったらしい。
どれだけ強い力でも来ると分かっていたなら対処され、時には合わせてカウンターを取られることもあるのだ。
格闘の基本は騙し合い。力押しが許されるのは、一部の強者のみである。
「同じリズムで来るなと言っているだろ! このように合わせられるぞ!」
「(今だ!)」
殴った腕が戻るのに合わせ、ザフィーが反撃。
真名はソレを上体のみで避けながら、右拳を突き出した。
カウンター。
敢えて相手にリズムを覚えさせ、反撃を誘発したのだ。
格闘の基本は騙し合い。こういったやり方も当然アリである。
「ッム!?」
咄嗟に避けるザフィー。
両者は各々の拳を顔面擦れ擦れに避ける形になった。
すぐさま組みに入ろうとする真名だが、先にザフィーがする形になる。
アームロック。
極まる前に体勢を変えることで真名は抜け出そうとするが、ザフィーも位置を変えて封殺。見事極まってしまった。
「……参りました」
悔しそうに真名は俯きながら降参した。
『スキル【息読み】の習得―――成功しました』
「………遅いんだよ」




