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お仕事は女子トークがお好き(中編)

さて、輝晶に担ぎ上げられた澪が最初に連れて行かれたのは……。

 輝晶(きしょう)に担ぎ上げられた私が、その後辿った運命を一言で表すなら、丸裸に剥かれた上で彼ら彼女たちの気の済むまで好き放題に体を弄ばれた……。ということになるだろうか。

 つまり、彼ら彼女たちに人身御供として差し出された私は、等身大の着せ替え人形として身動ぎも許されずに深夜まで立ち尽くした。


 輝晶の肩に担がれて控の間を運び出された私がまず連れて行かれたのは、祭礼局(さいれいきょく)が神事の前の(みそぎ)に使用するという恐ろしく立派な湯殿だった。

 そこで私は、他の準備があるからと別れた輝晶から後を引き継いだ二人の女官に、掘りたての大根よろしく全身を洗われる。さらに女性に必須のあれやこれやのお手入れまで入念に施され、私はすっかりと全身ぴかぴかに生まれ変わった。

 ちなみにこの二人の女官は双子のように良く似ている。いや、もしかしたら本当に双子なのかもしれない。私は青い髪飾りの方を(しょう)、赤い髪飾りの方を(りゅう)と覚えた。


 青い髪飾りの菖がぴかぴかになった私を満足そうに見ながら、慣れた手つきで新しい白の単を着せ付ける。

 「今日は特別にこちらで全て致しますけれど、今後は週に一度、宮内院(くないいん)花宮局(かきゅうきょく)美容課(びようか)に通って手入れをするようにと(しろがね)の君からのお達しです」

 「……へ? かきゅうきょくの……びようか?」

 間抜けな声を出した私を憐れむような目で見ながら赤い髪飾りの柳が応える。彼女たちはいつも交代で話をするのだ。

 「あら、貴方知らないの? 花宮局は後宮の管理をしているでしょう? だから貴妃の方々の美容をお手伝いする専門の部署があるのよ」

 「そこに貴妃以外で毎週通えるなんてとても贅沢なことよ。さすがは銀の君、お金の掛け方をよくご存知だわ」

 「はあ……。あの……大変つかぬことお伺いするのですが。その、白蓮様は一体何の書状を輝晶様にお渡しされたのでしょうか? 私はここで何をされるのかなと……」

 「まあ、うふふ。貴方面白い子なのね。輝晶様がお気に召されるはずだわ。あの方変わったものがお好きだから」

 「本当ね。銀の君の新しい侍従だなんて一体どんな子が来るかと手ぐすね引いて待っていたのだけれど、これじゃ拍子抜けしちゃうわ」

 「ほら、行きましょう。ぐずぐずしていると一番のお楽しみが時間切れになってしまうわ」

 二人はくすくすと笑いながら私の腕を引く。

 「あ、あのお待ちください! 本当にわからないのです。どうか教えてくださいませ。でないと不安で不安で……」

 私は慌てて彼女達の腕を引き返す。

 「あら驚いた、貴方冗談ではなくて本当に何も知らないの? なぜここに送られたのか?」


 私は必死の思いで二人を見つめるとこくこくと強く頷いた。

 当たり前である。もしも先に冗談と分かっていれば、低音の響く中マッチョのお姉様に突然拘束され訳もわからず丸裸に剥かれる状況など、断固拒否しただろう。

 何も分かっていないからここまで連れ込まれ、丸裸に剥かれた自分がいる。


 「はい……。桂夏(けいか)様は書状を渡せば分かるからと……」

 「輝晶様については? 桂夏様から何も聞かなかった?」

 私は二人を見つめたまま無言でうなづく。

 二人は顔を見合わせると突然、弾けるような笑い声を上げた。

 「うふふっ、ああ面白い。それでは貴方、輝晶様に会ってそれはそれは驚いたでしょう?」

 「はい、とても……。私は一体何処に来てしまったのかと……」

 二人は再び大きな笑い声を上げる。ひとしきり笑うと互いの目尻に溜まった涙を指で拭い合ってこちらを向いた。

 「私、貴方に同情するわ」

 「銀の君もお人が悪い」

 「何の説明もせずに輝晶様の前に放り出すなんて」

 「銀の君はね、輝晶様とお知り合いなの。それで貴方の身支度一式を輝晶様に依頼したのだわ」

 「身支度?」

 私は首を傾げた。

 「貴方は新しく銀の君の侍従になったのでしょう?」

 菖が私のまだ濡れた髪を耳にかけ、まあ素敵といいながら昨日取り付けられたばかりの札を二人で覗き込む。

 「個人の侍従として王城に上がるには色々と準備が必要なの。衣装はもちろん髪や爪の細いところまでね」

 「王城でみっともない格好をさせていると、主人が甲斐性なしだと笑われるわ。銀の君は特に身なりには一家言お持ちの方だから、貴方の支度にも妥協はできないのでしょう。それで輝晶様に頼まれたのだわ」

 「輝晶様にお任せすれば間違いないものね」

 二人は顔を見合わせて頷く。


 先程目にした輝晶の姿と目の前の二人の話ぶりから、私の頭の中で輝晶とファッションリーダーという言葉が自然と繋がっていく。自分で思いついていて何だが非常に納得できる組み合わせだ。しかしこの世界でファッションリーダーに相当する適切な言葉が分からない。


 「輝晶様も銀の君に頼られたと大変喜んでらしたわ。()()借りを返すとてもいい機会なんですって」

 「あら、輝晶様の銀の君に対するあの借りは大きすぎて、とても一回では返し切れないのではなくて?」

 二人は顔を見合わせると、口元を押さえてうふふと笑いあう。


 「借りですか……それはもしかして、皆様が白蓮様のことを銀の君と呼ぶことに関係が?」

 「まあ、なかなか頭の回る子だこと」

 「あれは今思い出しても素晴らしい式でしたわ。私、あれを見て何としても祭礼局に入らなければと決意したのですもの」

 「私もよ! それはそれは神々しい演出だったわ。まさに神が降臨されたという以外、説明のしようがないわ」

 二人はうっとりと空を見つめて頬を染める。

 輝晶の借りについても銀の君についても一向に何の具体的な情報も分からない。

 しかし詳しく聞かずとも、話の様子やキーワードから何となく何があったのか想像できるような気もした。恐らくだが、そのどちらについても白蓮様には絶対に尋ねてはならないことだろう。それが分かっただけでもよかった。


 「次回も銀の君がお引き受け下さるといいのだけれど……。でも前回の件で大層ご立腹だったと聞くからさすがに難しいかもしれないわね……」

 菖が空を頬を染めて空を見つめながら、切ないため息をつく。

 「何を言うの。私はそのことだけを楽しみに日々仕事に勤しんでいるのよ。絶対に何としてもお引き受けいただかなくては。輝晶様も同じお気持ちよ」

 「ええ、分かっているわ。銀の君に祭礼局に振り向いていただくためには、できることはしっかりしなければね」

 二人は満面の笑顔で同時に私を振り返る。

 「大丈夫、私たちが責任持って銀の君のお気に召すよう仕立ててあげるがから、安心してついてきなさいね!」

 鼻息の荒い二人が並んでそれぞれの胸を叩く。


 まただ……。私は一体誰の何処について行かされるのか。不安しかない……。


 「さ! 髪なんてさっと切って、早く衣装室に行きましょう」

 「え、髪を切る?」

 「当然でしょう! まさかそんな野暮ったい髪型、輝晶様がお許しにならないわ」


 そうよそうよと歌うように連呼する双子に手を取られ、私は湯殿を後にする。

 次に辿り着いたのは近くにある別の部屋だった。そこで私はさっと首に大きな布を巻かれると止める間もなく、流れるような早業で髪を切られた。

 あらかじめ輝晶がどのような髪型にするか指示を出していったらしい。白蓮が気に入らぬと摘み、輝晶がダサいと評した前髪は、目にかからない丁度良い長さに整えられる。そしてこの世界に来て以来伸ばし放題だった後ろ髪は、肩口でばっさりと切りそろえられた。一緒に眉や産毛も丁寧に整えてくれる。

 それはとても嬉しいのだが、椅子の前に鏡が置かれているような親切な造りではないから、髪型が変わり手入れもされた今の自分が、一体どのような姿になっているのか確かめようがない。


 私は肩の上でさらりと揺れる自分の髪を一房摘み上げ密かに首を傾げた。

 頭の中で今の自分の姿を想像してみるが上手くいかない。それもそのはず。この世界に来てからまともに鏡を見たことがない私には、自分が今どのような顔をしているかよく良くわからないのだ。

 顔の雰囲気は何となく前の世界の自分に似ているような気がするが、そもそも年齢が全く違うから似ているだけで同じではない。私は水面や硝子窓に写った朧げな姿を思い出し想像を膨らませてみるが出来上がった姿の顔の部分だけ霞がかかったようにぼんやりとしていた。

 「あらあら、流石は輝晶様。あなた見違えたわ!」

 出来上がった私の髪型を見て二人が黄色い歓声を上げる。

 「本当に、とてもよく似合っていてよ。真似するのは勇気がいるけれどすごく素敵だわ」

 双子は椅子に腰掛けた私の周りを交代でぐるぐると回りながら、興奮した口調で新しい髪型を褒める。

 私は再び内心で首を傾げる。

 この国でも例に漏れず、長く豊かな髪は美しさの代名詞であり富の象徴でもある。故に女性はもちろんだが、白蓮や輝晶のように男性でも髪を伸ばす者は多い。

 しかし輝晶が私にと指示したのは、童子のように肩口で切りそろえる髪型なのだ。これは私よりももう少し年若い年少の侍従や童子がよくする髪型で、年頃の女性がするのはかなり珍しい。

 

 うーん、何でこの髪型? でもまあ、似合っていると言ってくれるからいいのかな……。


 「あなたの髪は結い上げるには短すぎるのに、下ろすには貧相な長さだったものね。中途半端は銀の君もお嫌いでしょう。素晴らしい解決方法だわ」

 「不思議なのだけど、あなたの涼やかな雰囲気をとてもよく引き立てているわ。さすがは輝晶様よ。これは衣装を選ぶのが俄然面白くなってきたわ!」

 二人が瞳を怪しく輝かせて舌なめずりをする。のに、私は全く気付かなかった。後でそのことを心底悔やむのだが、私の心はすでに先程鳴り響いた五の鐘を合図に目の前に用意された昼餉に完全に奪われていたのだから仕方ない。

 今が五の刻ということは、今朝医薬院を出発したのが三の刻前だったから、祭礼局にきてからすでに二時、四時間も経過していることになる。


 散髪した髪を丁寧に拭い乾かしてもらう間に、私は昼餉をいただいた。ファッションリーダーの輝晶が仕切る祭礼局らしくとてもお洒落な盛り付のお弁当のような食事は手をつけるのがもったいないような可愛らしさだ。

 一々箸で摘んだ食材を眺めてはのんびり食事をする私に痺れを切らせた柳が、私の口に残りのおかずを放り込んだ。

 「このままじゃ日が暮れるわ。一番のお楽しみにはこれからなのよ!」

 口をもぐもぐさせた私は、二人に小脇を抱えられるようにして髪結の部屋を連れ出される。

 「ふぐっ!」

 「うふふ、いよいよ一番のお楽しみよ。さあじっくりと楽しみましょうね」

 「ふぐふぐっ!」 


 そうして二人に引き摺られた私は、祭礼局の最奥にある最も大きな白い扉の中に連れ込まれたのである。 

髪を切られた澪は一体どんな姿になったのでしょうか?

次回は連れ込まれた最奥の部屋で、衣装を選びます!


••••••

ブックマーク、評価等ありがとうございます。更新の励みとなっています。

面白いお話をお届けできるように頑張ってまいりますので、

どうぞよろしくお願いいたします。

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