相撲に関連する作品(相撲小説「金の玉」「四神会する場所」シリーズは、別途でまとめています)
今後の相撲界の展望
白鵬引退後の相撲界。
次の時代の主役となる力士は誰なのか。
現在の状況を勘案して展望してみました。
白鵬が引退したあと、その次の時代を担う主役となる力士は誰か?
2年前であったなら、この設問に対しては、その候補は、朝乃山、貴景勝、御嶽海。
と答えたであろう。
その時点では照ノ富士は、まだ幕内に復活してもいなかった。
大型力士で本格的な相撲を取る朝乃山。
22歳という若年で大関に昇進した貴景勝。
関脇以下で2度の優勝を果たした御嶽海。
が、この三人の力士の現状をみると、2年前に比べるとその確率は、かなり低くなったかと思う。
しかし、可能性はまだある。
朝乃山の不祥事による6場所出場停止。
来年7月、名古屋場所が復活の場所となるが、その時点では三段目となっているであろう。
6場所出場停止というのは厳しすぎるのではないか、と感じる。
この8月には、お父様がご病気で亡くなられた。
朝乃山の今の心境を慮る。
昭和初期に、清水川という幕内力士が放蕩のため、協会を破門になったが、その父上が死をもって協会に我が子の復帰を嘆願。 復帰がなった清水川は四股名の下の名を、父の名であった元吉に改め、のちに大関まで昇進する。という故事を思い起こす。
清水川元吉は、「大段平」とも称された切れ味鋭い上手投げを得意技とし、幕内最高優勝も3回する名大関となった。
小説「人生劇場」で有名な尾崎士郎が、彼の大ファンでもあった。
朝乃山にはこの清水川の、いや彼は既に大関だったのだから、照ノ富士に次ぐ三段目からの大復活劇を期待したい。
貴景勝は、その談話から推測するに気持ちの強い力士だと思う。しっかりとした信念を持っていると思う。
彼の力士としては背が低いアンコ型、そして押し相撲というのは、近代の横綱には類例がない。
がそれだけに、その信念を貫き特異なタイプの横綱になってほしい、と思う。
御嶽海は、優勝2回という実績が示すように、力士としてのポテンシャルはかなり高い力士と思う。
が成績が安定しない。稽古不足や精神面のことを色々評されているようだが、それは本人が考えればよいこと。
筆者は以前、成績が安定しないのなら、優勝は重ねるが大関には昇進できない。
御嶽海が優勝10回の関脇となったら、力士としてとてもオシャレ。と、書いたことがあった。
優勝10回というのは冗談だが、そんな個性的な力士を目指すのも有りではと思う。
が、御嶽海はこの12月に29歳になるが、幕内力士全体で、力士の平均年齢は以前よりかなり高くなっているし、まだまだ時代を担う主役力士となる可能性は残されているかと思う。
大横綱というのは、その定義が曖昧だが、仮にそのラインを優勝20回と設定してみる。
このレベルの横綱は、本来そう簡単に誕生するものではないのでは、と思う。
が、昭和33年に年6場所制となって以降、
大鵬 優勝32回
北の湖 優勝24回
千代の富士 優勝31回
貴乃花 優勝22回
朝青龍 優勝25回
白鵬 優勝45回
と、ほぼ絶えることなく、大横綱が生まれ続けている。
年6場所制においては、それが常態であるかのようなイメージを持ってしまう。
筆者としてはこれまで58年間大相撲を見続けてきて、初体験となる、長期に渡る大横綱不在の群雄割拠の時代を見てみたいと思っている。
では、現在の関取以上の力士の中に大横綱となる可能性を秘めた力士は存在するのか。
多少なりともその可能性があると感じるのは、照ノ富士、豊昇龍、北青鵬の三人。
照ノ富士は間もなく30歳になる。現在優勝5回。
北の湖が引退した昭和60年初場所3日目の時点で、千代の富士は、29歳7ヶ月、優勝は10回(この初場所で11回目の優勝)。それから35歳11ヶ月で引退したときにはその優勝回数は31回に達した。
さて照ノ富士がこれから15回以上の優勝を重ねることができるだろうか。
千代の富士の例を見ればそれは可能である、ということになる。まして今は既述したように、幕内力士の平均年齢は、当時よりも高いし、その分、全盛期となる年齢も上っていると感じる。
照ノ富士が今後4、5年間、今の強さ、安定感を保てばそれは可能であろう。
が、照ノ富士は膝に爆弾を抱えている。本人もそう長くは相撲を取れないであろう、とも語っている。
その覚悟が、逆に土俵上における精神の安定につながり、今の強さをもたらせているとも感じる。
照ノ富士が、重篤な故障をすることなく、できるだけ長く相撲を取り続けてほしいと思う。
彼の両膝に巻かれた分厚いサポーターは、彼の勲章だと思う。そのサポーターを含めて、彼の土俵での姿は堂々として雄偉。美しいと思う。
豊昇龍は、よく知られているように、優勝25回の大横綱朝青龍の甥である。
その風貌、体格も叔父によく似ている。高校を卒業してから相撲界に入門というのも叔父と同じ。
豊昇龍は、幕下上位まではその出世スピードは叔父朝青龍と似通っていた。が、そこから停滞した。
豊昇龍は、今22歳4ヶ月。
朝青龍が横綱に昇進したのは22歳5ヶ月。
豊昇龍は、まだ三役にもなっていない。
ここにきて叔父とは、その出世スピードにおいてかなり差がついてしまった。
これをみると、前述した優勝20回に達するような力士になる可能性はかなり低いかな、とは思うが、これからの1年、2年の間にブレイクして、朝青龍に準じるような力士となる可能性はあると思う。
北青鵬も、高校を卒業してからの入門。その高校時代の実績は特筆するほどのものではなかったが、コロナによる全休場所が2場所あったとはいえ、ここまでの各段で優勝したその出世ぶりは出色である。
序ノ口で優勝した際のインタビューで1年後は関取に、と語っていたが、それを果たしたし、今、彼は19歳10ヶ月だが、21歳までに横綱になりたいと語っている。
21歳で横綱になったのは大鵬と北の湖のみ。
貴乃花、朝青龍、白鵬が横綱に昇進したのは22歳。
もし彼が目標としている21歳での横綱を成し遂げたら、大横綱となる可能性はかなり高くなるということになる。
彼は、スケールの大きな相撲を取る。
が今後、壁に当たることなく順調に出世することができるのかどうかはまだ分からない。
豊昇龍、北青鵬については、現時点では横綱になる可能性はあるが、大関、さらにはそれ未満の地位にとどまる可能性もある。まだ何とも言えない。
もう少し短期的な展望をすると、この秋場所を観戦しての相撲界の現状は照ノ富士ひとりが抜きん出ていて、それに続く力量を持つ力士としては、はっきりと実力2番手、3番手に位置していると言い得る特定の力士がいないという印象だ。
正代、貴景勝、御嶽海、高安、明生、大栄翔、隆の勝、若隆景。
ここにさらに逸ノ城、霧馬山、豊昇龍も加える必要があるかと思うが、その集団の力士たちにあまり実力差がないという印象だ。
実績から言えば、正代、貴景勝、御嶽海、高安は、この集団から上にいてしかるべきかと思うが、この秋場所を観た限りではそういう印象を持てない。
前記の力士、豊昇龍を除いては、みな20歳代半ば以上の年齢である。この力士の中から、照ノ富士に次ぐ74代横綱が誕生する可能性は高いとは言えない。
照ノ富士のあと、時代の主役となるのは琴ノ若、豊昇龍以下の世代。
琴勝峰、王鵬、北の若、大辻、徳之武蔵、欧勝海といった力士たちの世代に一気に移っていくのだろうか。
この世代の力士としては、
今大学3年の中村泰輝。大学2年の花田秀虎。この日体大の二人の力士も上げておきたい。
私個人としては、朝乃山も含めて、20歳代半ば以上の世代の力士の中から、誰かが化けて、照ノ富士に対抗する、横綱にも昇進するような力士が出現してほしいと思う。