② うごめく思惑
「双美市内のカテゴリー1を排除するのは感心しませんねぇ」
双美市で起きたデモナイゼーションの聞き取り調査の席である。
DD即応迎撃統合戦闘集団の統合本部の幕僚長、すなわち日本の対DD戦闘集団の最高責任者である三島六三四及び防衛大臣大淀公子の面前で少しも臆することなく、熊野風太郎は言い切った。
「熊野博士。あなたのおっしゃられる意味が良くわからないです。あなたは双美市内に発生したDDを殺すな、と言っているのですか?」
三島幕僚長の問いに熊野は口元に歪め、薄ら笑いのような表情を見せ、そうだ、と答えた。
「しかし、何故です?
カテゴリー1と言えど放置して置けば国民に犠牲者がでる危険があります。速やかに排除すべきでしょう」
「いや、いや、いや。
さっきご説明したではないですか。
監視カメラなどの映像証拠も提示して、みなさん、デモナイゼーションが現実に起こったと納得されましたよね?」
「それは納得しました。
ですが、それとあなたのご意見、DDを殺すな、とが結び付きません。むしろ、双美市には大量のDDが潜んでいる可能性が高い。故に一刻も早く掃討すべき、と思いますが?」
防衛大臣である公子に向かい、熊野はやれやれと首を横に振って見せた。そして、まるで覚えの悪い教え子に言い聞かせるように話し出した。
「双美市にいるDDは、異空間から落ちてきた輩とは全く異なるのです。
元は人間だ。良いですか?
ここが肝要なところ。姿形が変わってはいても、元はあなたたちや僕と同じ人間だったってこと」
熊野は言葉を切ると、その場にいる者たちの顔を一人ずつゆっくりと見た。そして、言う。
「あなたがたは致死性の感染症、例えばエボラとかに罹患した患者を周囲に危険をばらまくからって殺すのですか?」
「……つまり、博士はDD化した者を元の人間に戻せる、と言うのですか?」
「さぁ、それは今後の研究次第です。
僕が言いたいのは、元に戻せるかも知れない人々を殺してしまって、その後に戻す方法が分かったら誰がその責任を取るのか? ってのを心配しているだけです」
「殺さないとして、どうしろと?」
「その辺を考えるのは僕の仕事ではないですね」
熊野はそう言うと、くっくっと喉を鳴らした。
「中止? 中止とはどう言うことです」
命令を受けた怜奈は一瞬フリーズして、次に食ってかかった。
「今まさに、市内でDDの脅威にさらされている人たちがいるかもしれないのですよ。
それなのに救助中止ってどう言うことですか?助けを必要としている人々を見捨てろって言ってますか?」
「そんなことは言ってない。助けます。
ただ、それは別の部隊がやるってことになったのよ」
「別の部隊? どこです?」
さあ、と摩耶は言葉を濁す。それがさらに怜奈を苛立たせた。
「さぁ、じゃないでしょう。何時来るかも分からないに連中に任せて、今すぐに動ける私たちには指を咥えて見ていろって、納得できません!」
「鈴谷怜奈1佐、気持ちは分かるけれど、これは命令よ。
第32特務大隊は第41師団と合同で双美市周辺に警戒線を確立して市民の円滑なる避難の支援、及びDDの拡散を防止すること。
良い?
DDを市外へ逃がしたら、それこそ市民の生命、財産に対する重大な脅威になるわ。それを未然に防止することも大切な任務よ。
そうじゃない?」
「……はい、そうです」
怜奈は少し不服そうに肯定する。摩耶は眉を吊り上げ、鼻を鳴らした。
「ならば、直ちに命令を実行に移しなさい。
鈴谷1佐、復唱!」
「はっ! 第32特務大隊は第41師団と共同して双美市全周に警戒線を構築します」
「よろしい。後はよろしく」
復唱に摩耶はにっこりと微笑むと通話が切れる。怜奈は敬礼をしたまま、ため息をついた。




