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超弦天使 レヴァネーセス ~ 夏に降る雪  作者: 風風風虱
epic 12 夏に降る雪(後編)
96/104

⑯ それぞれの覚悟

「FC 27! フィルタ飽和する~」


ガッ


 DDが突然のけ反り、ビームの射出が止まった。

 真一は朦朧とする意識で前面スクリーンに目をやる。ゆらゆらと立ち上る陽炎(かげろう)の中、1機の飛天の姿があった。

 

「なんで飛天が……」

「大丈夫?」


 困惑する真一に応えるように声が返ってきた。由真の声だ。


「0320301 動作正常 

TACコード 『アオ』から『ユーマ』に変更」

「ユーマ バイタル正常 オールグリーン」


 工藤と雪森の声が聞こえてきた。『ユーマ』は由真のTACコードだ。


「由真……さん? 乗ってるのは由真さん? でも、その飛天はどこから……」


 飛天は全て破壊されたはず、と真一は言いたかった。が、由真の言葉がそれを遮った。


「葵の置き土産よ。良くやってくれたわ。

後は私が引き受ける」



 少し時間は巻き戻る。


 避難のため階段を駆け下りていた早苗は立ち止まった。天井の照明が不意に消えたからだ。照明は数秒すると何事もなかったように再点灯した。

 早苗は、拾っておいたワークホリックチームの通信機に耳を押し当てた。工藤たちの会話から電子機器無効化結界を使われたことがわかった。

 早苗はすぐに階段を駆け登り始める。

 すぐに起爆時間をセットし直さないといけないと考えたからだ。だが、走りながらすぐに矛盾に突き当たった。仮に起爆時間をセットし直せたとしてもDDがまた結界を展開したら同じことを繰り返すことになる。勿論、DDが結界を使うとは限らない。が、使わないとも限らない。まりはDDの気まぐれ次第ということだ。となればSSIBの起爆にどれ程の時間かかるか分かったものではない、と言うことだ。

 それに、と早苗は思う。


 息子は、真一は、そんなに長く戦うことはできない


 シナプスリンケージシステムがパイロットの神経網に与える負担を早苗は熟知していた。初めて体験するなら耐えれるのは数分程度、長くて10分だ。


 ならば、やることは一つしかない


「私に考えがあります。2分ください」


 早苗は通信機に向かって叫んでいた。



 ようやくSSIBの起爆パネルにたどり着いた早苗は進行中の自動起爆シーケンスをキャンセルした。


「起爆シーケンス 停止!

どうなってるんだ?!」


 通信機から工藤の慌てた声が漏れ聞こえてきた。早苗はキーボードを忙しく操作しながら通信機に向かって叫んだ。


「自動起爆シーケンスは私が解除しました。今、手動(マニュアル)起爆に書き換え中です。1分ほどかかります」

「マニュアル……? いや、なに考えてるんですか? マニュアルなんかにしてどうやって退避するつもりなんです!」

「起爆準備できたら10秒後に爆発させます。

よろしく」

「いや、ちょっと!

よろしくじゃない。冗談はやめろ!!」

 

 

 ああ、やはり


 早苗と工藤の通信のやり取り聞きながら、由真はそう思った。早苗から2分待ってくれと言われた時点で薄々分かっていた。電子機器無効化結界を連続で使ってくる相手にSSIBを使うには起爆準備ができ次第、即時起爆するしかなかい。当然退避する時間はない。つまり、早苗は覚悟を決めたのだ。由真は自分の心が急に静まるっていくのを感じた。


 自分の命を省みずSSIBを爆発させようとする早苗の覚悟。


 カテゴリー1を目の前にして、自己の命より自分の飛天のコントロール委譲コードを由真に送ることを優先させた葵の覚悟。そのお陰で今、自分はこの場に立っていられるのだ。

 

 ならば、私も覚悟をしよう、と由真は思った。


 なにがなんでも、自分がこいつを食い止める!


 ビームを撃とうと《0020》の目が煌めきだす。


「シナプスリンクレート 変更 100」


 瞬間、ユーマの全身が光を放った。と、猛然と《0020》にむかって走り出した。


「させないってばっ!」


 ユーマの右の拳が《0020》に打ち込まれる。

 

ブゥオン!


 一際大きな干渉膜が《0020》とユーマの間に現れる。ダメージは与えられないが、その一撃に《0020》は大きくのけ反る。そのまま、間髪を入れず左、右と飛天の拳をDDに叩き込んでいく。圧倒的な攻撃に《0020》はビームを撃つ隙を見いだせない。


「ぎいいぃ」

 

 由真は全身を火で焙られているような苦痛に歯を食い縛り、耐える。

 耐えながら、攻撃の手を緩めない。一度緩めれば、隙を見せれば、ビームが、そして結界を発動される。そうされる訳にはいかない。例え、この身が焼き切れてても早苗のための時間を稼ぐ。それが由真の覚悟だった。


キュロロロロ


 尻尾の一撃を加えながら、《0020》は結界を発動させようとした。


「させないってンだろ!」


 由真は尻尾の一撃を受け止めると渾身の力で《0020》を持ち上げ、地面に叩きつけた。


「起爆準備完了 爆発まで 10 9 8 ……」


 早苗のカウントダウンが始まった。


「ダメだ! 母さん、やめて」


 真一の虚ろな声と共にジョーカーがゆらゆらと立ち上がる。

 由真は焦った。

 立った状態だとジョーカーもSSIBの爆発に巻き込まれる。


「真一、伏せなさい!」

「…… 2 1 0」

 

 ユーマがジョーカーを地面に叩き伏せるのとSSIBが起爆するのはほとんど同時だった。

 爆発と同時に黒い円形の輪が中空に現れ、急速に縮まっていく。その輪に《0020》は絡めとられる。


キュロロ キュロロロロ


 《0020》は断末魔を上げる。もがき、暴れるが一点に向かって縮んでいく空間に捉えられたらもう逃れる術はなかった。そのまま縮まっていく空間と共に小さ点に収束していく。

 爆縮しきった一点でMDFの赤い干渉膜が一瞬光を放ち、すぐに光を失った。

 

ズガーン


 一転。

 今度は爆縮された空間が復元するために膨大に膨れ上がった。

 膨張する過程で空間が発する衝撃波が周囲の建造物を薙ぎ払い、粉砕していった。

 バラバラと破壊された建材などが地に伏せるジョーカーとそれを守るように覆い被さっているユーマに降り注いだ。

 

パリン 


 パリン 


  パリン


 衝撃波は双美市を覆っていたコクーンにも達し、破壊不能と言われたそれをあっさり粉々にした。



 

 唐突にコクーンが破壊された。

 

「なに? なにが起きたの?」


 コマンドルームの第1スクリーン上に映し出される光景を目の当たりした摩耶は呆然と呟く。


「わ、分かりません。

突然、コクーンが内部崩壊? した、と言うのでしょうか……」


 摩耶だけはない。コマンドルームにいる全員がなにが起きたのか、なにが起きているのか理解できないでいた。

 出来ることといえば、空高く舞い上がった白いコクーンの破片がゆっくりと地上に舞い降りていく光景をだだ、黙って見守ることぐらいだった。


 それは初夏に降る雪のようだった。


2021/09/12 初稿


□□□ 次回予告 □□□

ハンプティダンプティ 塀から落ちた

ハンプティダンプティ 壊れて割れた

王様の兵隊を全部集めても

国中の大砲を全部集めても

もう元には戻せない 

壊れたものは戻らない


次回、超弦天使レヴァネーセス 

epic13  ハンプティダンプティ

さぁ~ 次回もぉ~ ハッスル ハッスル!

□□□□□□□□□□□□□

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