⑮ 死闘
「私に考えがあります。2分ください」
「どういうことです」
「真一を……、息子のこと、宜しくお願いします」
「えっ? 最上さん、なに言っているんですか?」
謎の言動に由真は慌てて問いただしたが無線は一方的に切られてしまった。
由真は舌打ちをすると回線を繋ぎ直そうとした。と、蜜子の叫び声がそれを中断させる。
「エネルギー 上昇!
ビーム来ます ……
被弾!
ジョーカー 被弾 FC 112
ヤバいっす さすがにもうもたないですよ」
「起爆シーケンス再起動完了まで後120秒です」
蜜子と工藤が矢継ぎ早に状況を伝えてくる。
由真は真一のバイタルを確認する。心拍数が160を越えていた。それは真一の体力は限界に近づいていることを物語っていた。
「真一、真一君! 動ける?」
由真の声がパイロットルームに響くが、当の真一の耳にはあまり届いてはいなかった。
ここに来て、急に体力の消耗が激しくなっていた。鉛の服を着せられたように体が重い。足を一歩踏み出すだけで汗が玉のように吹き出て、心臓がバクついた。
起爆シーケンスがリセットされた衝撃も大きすぎた。心が折れかけていた。
後、6分を耐えるなんてできっこない
そう思った瞬間、両膝の力が抜け、がっくりと地面に手をついた。
《0020》の目の周辺にチラチラと光の粒子が集まってくる。
「高エネルギー反応!」
蜜子の声がした。しかし、もう体が動かない。
このまま、じっとして全てを終わりにしてしまうのが楽だ。
「臨界 ビーム来ます!」
うるさいなぁ……
静かにしてくれ……
レベルの低下した意識野にふっと、双葉の顔が浮かび上がった。
「あっ……?!」
なにかに掴まれ、泥沼から引き揚げられる気分がした。
ゴッ!
ビームが発射される。
と、同時に真一は吠えた。
「くそぅ!」
吠えながら前転してビームを掻い潜る。
なにか、なにか使える武器は……
由真から受けたレクチャーを懸命に思い出す。大腿部の20mm機関砲の他になにか教えてもらった記憶があった。
「これかっ!」
ジョーカーの両腕の籠手の部分から白刃がのびた。
「うおぉお!!」
雄叫びを上げながら、夢中で《0020》に斬りかかる。斬撃は全て《0020》のフィルタに阻まれるが真一の気迫のこもった一撃一撃がDDを怯ませるのに十分だった。
尻尾の一撃を左のブレードで弾き、右ブレードで渾身の突きを繰り出す。
と、踏み込んだ右足がへなへなと崩れ落ちた
「えっ?」
真一自体が鎮痛剤で分からなくなっていたが右膝のダメージは当の昔に彼、ジョーカーの体を支える力を失っていた。それを心がずっとおぎなっていたのだ。だが、ついに限界がきたのだ。
地面に転がるジョーカー。
その好機をDDが見逃すはずもない。
《0020》の顎がベロリとめくれあがり、だらだらと涎を垂らしながら、ジョーカーを砕かんと迫った。
「うおおぉ」
再び、真一は吠えた。
キュゴァ
反射的に突きだした右手がDDの口内を刺し貫いた。紫色の液体を吐き出しながら《0020》は苦しそうにうめき声を上げる。
敵のフィルタをすり抜けるDDの顎は、自らのMDFという無敵の盾に空いた最大の弱点でもあったのだ。そこを偶然攻撃したのだ。幸運と言うしかなかった。
「行けぇ!」
最初にして最後の好機。
真一は残った体力と気力を右手に込める。ずぶずぶとブレードがDDにめり込んでいく。
人間であれば延髄を破壊して死に至らしめる傷を負わせているはずだが、DDは体をくねらせ、血を撒き散らしながら抵抗を続ける。
さすが、化け物。だけど、もう一押し、そう思った瞬間、右手首に激痛が走った。DDはDDで腕を噛み砕かんと顎を締めてきた。
バキンッ!
ついにジョーカーの右手首が噛み砕かれた。
「うわぁっ」
シナプスリンクから逆流した信号で、真一は現実に右手首を噛み千切られたような痛みを感じ、悲鳴をあげた。
《0020》は噛み千切られた戮天の腕を吐き出すと憤怒の表情で睨みつける。と、再び目の周辺が煌めきはじめる。ビーム発射の前触れだ。
「エネルギー 急速に上昇 なんか、今までと違うっすよ!」
蜜子の声にも今までとは違う緊迫感が乗っていた。
ゴッ!!
光が渦を巻きながらジョーカーを包み込んだ。
「ジョーカー FC 85!
…… えっ? ビーム継続 ……
高エネルギー反応止まりません」
今まで単発射出でしかなかったが、今回のビームは止まることなく一筋の光の濁流となってジョーカーを包み込む。赤い干渉膜が辛うじてその光の侵食から戮天を守っていた。
「FC 80 、72 、68
ヤバい、ヤバい! どんどん削られてる。
真ちゃん、そこから逃げて! フィルタがもたないよ!」
蜜子が悲鳴を上げるが、ジョーカーは膝をついたまま動こうとしない。いや、動けないというべきか。干渉膜は急速に輝きを失い、暗く、赤黒い色に変色していった。




